1-21 カミュの特訓

 俺はカミュの特訓を考えていた。

『最初だし、魔力制御でいいかな。それぐらいできるだろう』

「それじゃ、寝るまで魔力制御の特訓をして見せろ。俺がやめろと言うまで続けろ」

 彼女は魔力をため始める。しかし魔力をためるどころかどこかえ分散させてしまう。

 彼女は不思議そうな顔をして何度も繰り返す。俺はついため息をしてしまった。

『これではダメだ。体が思った以上になってないな。これは体から鍛えなくては』

「やめろ」

 俺は彼女に体力づくりのメニューを渡す。

「最初だからな。これを毎日続けろ。もし途中で気絶したとしても回復魔法で復活させてやる」

 俺は冗談混じりで笑うと、彼女の顔は驚愕に染まっていく。

「鍛える側は初めてだからな。お前がどのように成長するのか今から楽しみだ。腕がなる」

 俺は指の関節を鳴らす。彼女は青すぎる顔で筋トレを始めた。

「いいぞ。そのペースを保つんだ」

 しかし、十回目あたりからペースが遅くなってきた。

「まだ十回だそ。そんなペースでやっていたら日が暮れる。」

 彼女は苦しそうな顔で必死に返事をした。

「すみません」

 一時間後、カミュの筋トレはまだ続いていた。

「すみません。水分補給を……」

 カミュは筋トレをやめようとしたが俺がそれを許さなかった。

「何勝手にやめようとしてるんだ。まだ半分も終わってないぞ」

 俺はカミュに軽く言ったつもりだったが、カミュは涙目になりながら怯えたように筋トレを再開した。

 数分後

「やっぱり……無理で…す…」

 カミュはそう言うと、俺の前で気絶した。

『そんなにきついのか?たかが腕立て100回、腹筋100回、スクワット100回が』

「おい。起きてるか?」

 しかし彼女から返事が無いどころかぴくりとも動かない。

『これは困ったな』

 俺は、カミュに回復魔法を使うと、筋トレによって傷ついたカミュの筋肉が復活しより強固な肉体になった。

 俺はこれを見て素直に感心した。

『ここまで自分の体をいじめたのか。こいつ思ったより根性があるんだな。育て甲斐がある』

 俺は一人でニヤニヤ笑っていた。


 次の日、俺が目を覚ますと彼女はすでに筋トレに入っていた。

「朝からそんなにやって大丈夫か?今から学校だろう」

 彼女は筋トレをやめることなく笑顔を向ける。

「いや〜、なんか朝起きたらスッキリしていていくらでもできる気がするんです」

『だろうな俺が昨日回復魔法をかけてやったからな。しかし一日でこんなに成長するなんてこいつはどんだけ怠けていたんだ』

 俺は頭を抱えて支度を始め、学校へ出発した。

 今日もニアが待ち伏せをしていた。

『朝から暇な奴らばかりだな』

 俺は少々呆れていた。

「どうしたの?なんか機嫌悪そうな顔してるよ?」

 案の定、ニアがいつも通り笑顔で話しかけてきた。

「お前は朝からなんでこんなところで待ち伏せしているんだ?」

 ニアは恥ずかしそうにもじもじすると口を開いた。が言葉を声に出す前にカミュが俺に突撃してきた。

「グヘェ」

 意識外からの攻撃で変な声が出てしまった。カミュを睨みつけると彼女は頬を膨らませていた。

「なんで置いていくの!?」

「お前が朝から筋トレしていたからだろう」

 俺とカミュがハブとマングースのように睨み合っていると横からニアが怖い笑顔で話しかけてきた。

「私のこと忘れてないよねぇ」

 今度はカミュとニアがうるさくなった。

『なんなんだ。こいつらは』

 俺は頭が痛くなってきたので、手で耳を塞ぎ歩き出した。

 気が付くと目の前に学園があった。

『もうここまで歩いてきたのか。ていうか二人はまだうるさいな』

 耳を手で覆っていても微かに二人の声が手の隙間から漏れてくる。

「カミュ、お前はEクラスだろ。さっさと行け」

 カミュは落ち込み頭を下げると足に重りをつけたかのようにゆっくりと教室へ向かって行った。

 俺の横ではニアが鼻の穴を膨らませて胸を張っていた。

「おい、ニア。カミュと仲良くしろ。あいつは昨日まで色々大変だったんだ」

 彼女は適当に頷くと不貞腐れ顔になった。

 俺は外を眺め、あるものを見つけた。

『あれ使えそうだな』

 学園が終わり寮へ帰るとカミュがすでに帰っており、また筋トレをしていた。

 物音で俺が帰ってきた事に気がついた。

「教官!?もっとハードな筋トレを下さい」

「何勝手に筋トレをやっているんだ?」

 カミュは変な顔をし首を傾げる。

「今日はランニングだ。さっさと外に出ろ!」

 俺は、カミュの首根っこを掴み外へ投げ飛ばす。そして校庭で見つけた畳を半分に切ったぐらいの石を渡す。

「これを上に持て」

 彼女は言われたとおりにすると、そこに俺が乗っかった。彼女は苦しそうに石と俺を持ち上げる。

「よし、これで走れ。転んで俺を落としたらどうなるかわかってるよな」

 俺は右手を鳴らしながら脅迫した。

 彼女の体が震えているのが石を伝わって感じてくる。

「早く走れ!!」

 なかなか走りださないカミュに魔力で作った鞭を当てる。するとカミュは走り出した。

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