1-20 カミュの決意

 ニアたちの部屋を後にすると、俺は自分の部屋に帰ってきた。ドアを開けると昨日のようにカミュは布団に包まっていた。

『もう寝てしまったのか』

 俺は、困った顔をし寝ていると思われる彼女に近づいた。

「カミュ、話があるんだが」

 俺の声に彼女はピクリとも反応しなかった。

「本当に寝ているのか」

 俺は怪しく思い再度話しかけるが、先ほどと同様に全く反応は無かった。

『ほんとに寝ているようだな。わざわざ起こす必要も無いだろう。明日聞くとするか』

 俺は寝る準備をし始めた。


 いつもより早く起きた。窓から指す明かりはまだ薄明るく太陽が出たばかりだと思わせる。カミュも起きたのか。隣の方でゴソゴソと布団が動いた気がした。

「おはよう。カミュ」

 彼女は布団を払いのけ起き上がると頷くだけだった。相変わらずの冷たい反応は昨日と全く変わっていなかった。

「お前に少し話があるんだが」

 続けて彼女に話しかけると嫌な顔をされた。彼女はベッドからおり学園の準備を始める。

「なに?私今から学校の準備するから忙しいんだけど」

『この状況では軽く雑談するのは無理だろうな』

「単刀直入に聞こう。お前虐められているのか?」

 彼女は表情一つ変えずに否定するとさっさと支度を終了させる。そして、俺を一瞥すると部屋を出て行ってしまった。

『何か要因は確実にあるんだろうがな。それがなにかまではわからないな』

 彼女が出て行き、閉じようとしているドアを眺めながら俺は考えた。

 学園の支度を終えるといつもより時間が余っているのに気が付いた。それもそうだ。いつもより早く起きたのだから。

『いつもより早く起きた分、時間ができたな。本でも読んでおくか』

 学校へ向かう途中にニアと出会った。会ったというよりか待ち伏せされていたと言った方がいいかもしれない。

 横を歩くニアに質問をした。

「お前のルームメイトのエミリー。あいつの言っていることは信用できるのか?」

 ニアは即答する。

「多分ね。嘘はつかないでしょうね」

「そうか」

 軽く雑談をしていると、学園へ着いた。


 教室へ入った瞬間、チャイムが鳴り響く。

「おはよう。みんな昨日はよく眠れたかな?今日は自己紹介をしてもらうからね」

 何事も無かったようにフォンが明るく入室してくる。軽くクラス全員の自己紹介が終わると昼食休憩に入った。

 俺は今、食堂へと向かっているのだが、中々食堂へと着く気配がない。俺は長い廊下をひたすら前へ進んでいた。

『こういう日に限ってニアはいないんだよな。ここは一体どこなんだ。教室棟からだいぶ離れてしまったようだな』

 耳を澄ますと誰かの話声が聞こえてきた。

「この落ちこぼれが学園に通ってくんじゃねえよ」

 複数の男の笑い声が聞こえて来る。

『あまり雰囲気のよろしくない会話のようだな。落ちこぼれか……どこかで聞いたような気がするな』

 少しの間、立ち止まって考えていると昨日の事を思い出した。

『もしやカミュではないだろうな』

 俺は少し心配になり、急いで声のする方へと向かった。

『何事もないといいのだが』

「キャァァァァァ!!」

 女性の悲鳴が聞こえてきた。

『この声には聞き覚えがあるぞ。カミュだ!!』

 悲鳴は段々と弱々しくなっていく。それに対応し男たちの笑い声は大きくなっていった。

 俺は、廊下を飛び出し裏庭へと出る。裏庭にある大きな木にカミュが縛りつけられ魔法の練習代にされていた。カミュは火傷や切り傷などがあり、白く綺麗な肌は血で赤く塗りつぶされているのが俺から見てもわかった。

「おい、貴様ら」

 俺は体全身から魔力を放ち、男たちを睨みつける。

 男たちは俺に気づくと腰が抜けたのか尻もちをついた。

「ひぇぇぇ」

 男の一人が情けない声をあげる。俺は男たちに近づき胸ぐらを掴んだ。

「なにをしていたんだ」

「すみません。許してください!!」

 男たちはなんとか土下座の形になる。

「俺の質問が聞こえていなかったのか?なにをしていたと聞いているんだが?」

『男たちは頭を下げるのが精一杯なのか。なにも話さない。これでは埒が明かない』

 俺はカミュの方へと近づく。

「カミュ。大丈夫なのか?体中怪我をしているようだが」

 カミュを大木から解放させると、安心したのか俺の胸の中で気を失った。

「貴様ら、よくも俺のルームメイトをここまで可愛がってくれたな」

 男たちは怯えるだけで、全く逃げようとしなかった。いや、しなかったのではなくできなかったのだろう。

痛分ぺシャル

 俺は男たちに魔力を飛ばし、カミュが受けた痛みを男たちにもくらわせた。男たちは少しの間苦しむと気絶してしまった。

 回復魔法をかけ彼女を抱き抱える。そして寮へと足を進めた。


「やっと起きたか?」

 カミュは勢いよく起きあがり布団を払い除けた。そして辺りを見渡す。俺が横にいるのを確認すると泣き出してしまった。

「うっ、うっ」

 俺は、泣いているカミュの頭に手を置き

「安心しろ。もう大丈夫だ」

 カミュが落ち着くまで俺は彼女の背中を何度も何度もさすった。

 しばらくすると、カミュは落ち着いたのか深呼吸をゆっくりとだがし始める。

「落ち着いたか?」

 彼女は頷くと涙目を俺に向け、感謝の気持ちを表した。

「ありがとう」

「気にするな。やっぱり虐められていたのか」

 俺がそう聞くと彼女は頭を下げる。

「どうする?お前はこれからも虐められ役でいいのか」

 彼女は無言で首を横に振る。

「それじゃあ、俺についてこい。お前を優等生に鍛えてやる」

 彼女はなにも言わなかったが彼女の目が彼女の決意を表している。

「手加減はしないぞ。泣いても、気絶しても大怪我をしても途中でやめないからな」

 俺は彼女に笑ってみせた。

「わかった」

 彼女も俺に笑顔を向ける。

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