1-19 カミュの謎

『俺も帰るとするか。こんなに連戦をしたのは初めてだ。慣れないことをしたからとても眠くなってきてしまった』

 俺は大きな欠伸をするとニアが声をかけてきた。

「呑気なものね。さっきまですごい試合をしていたとは思えないわ」

 俺は重たい瞼を両手で持ち上げる。

「そこまですごい試合はしていないと思うのだがな。俺は本気を出していなかったしな」

 そう言うと、その場にいたクラスメイトが全員俺の方を向き驚いた顔をした。

「俺たちじゃ、全く敵わないぜ。お前が好戦的なやつじゃなくてほんとによかったよ」

 クラス全員がラフクスの言う事に首を縦に振り賛同していた。するとピカトルが質問をしてきた。

「カイ。さっき浮遊魔法を使っていたようだけど、君の師匠はいったい誰なんだい?」

「それは、私も前から気になっていたわ」

 全員の視線が俺へ向けられる。

「俺の師匠はな、ガイル・グリアムズっていうんだ」

 ピカトルたちはもちろん少々耐性のあるニアまでも硬直してしまっていた。

「どうした。知っているのか」

 最初に硬直状態が解けたニアが反応した。

「知っているも何も元魔王様じゃないの……」

 俺は呆れた表情を浮かべるニアに向かって

「驚いているところ悪いがとても眠くてな帰ってもいいだろうか」

 驚いているやつらを残し俺は、寮へと帰った。


 重たい体をやっとの思いで部屋まで運んだ。

「カミュ、もう帰っていたのか」

 先に帰っていたカミュに声をかける。

「別にあなたが遅いだけ」

『いつも通りの冷たい反応だな』

「いい加減普通にしてくれないかな。とても話しかけ辛いのだが」

「私はいつもと変わらないけど、話しかけ辛いのなら話かけなければいいじゃない」

 俺は、少しずつ襲って来る眠気に逆らえず寝てしまった。


 少しして目が覚める。時計を見ると夕方が終わった頃だった。

『カミュのいるこの部屋には居辛いし、ニアのところにでも行くとするか』

 俺は部屋を出るとニアの部屋へ向かい歩き出した。


『確かここだったかな』

 俺はチャイムを鳴らす。

 中から出てきたのは、ニアではない別の少女だった。俺と同い年ぐらいだろうが俺は会った事がないだろう。

「どちら様?」

 彼女は首を傾げる。

「ニアに会いにきたのだが、この部屋で合っているだろうか」

 俺はニアに会いにきたことを伝えると、彼女はハッとなにかを思いついたように天井を見る。そしてニヤついた。

「ニアは今いないけどすぐ帰って来ると思うから少し部屋で待っていたら?」

「それじゃあ、少し待たせてもらおうかな」

 彼女は俺を中へ案内し、お茶を出してくれた。

「ニアとはどう言う関係なのかな?」

 相変わらずのニヤつき顔で話始める。

「どう言う関係もなにもただのクラスメイトだが?」

「へえ、君確か入学式で代表の挨拶をしていた人だよね」

 俺が頷くと再びニヤつき始める。

 

 俺がお茶を飲み終えると、後ろの方つまり風呂場から物音が聞こえてきた。

「誰かいるのか」

 俺が彼女に聞くと

「ニアが今お風呂に入っているのよ。そろそろ上がって来る頃だと思うわ」

 部屋のドアが開くと洗剤の良い匂いがドアの隙間から部屋の中へと入ってくる。

「エミリー。上がったから、次入っていいよ」

 声のする方へ顔を向けると、可愛らしい赤色ベースのパジャマを着ている青い長い髪の少女が入ってくる。

「ニア、学校ぶりだな。上がらせてもらっているぞ」

 部屋へ入ってきた少女ニアは固まってしまった。するとエミリーと呼ばれた少女は速攻で部屋を飛び出した。


 エミリーが部屋を飛び出して数十秒が経過した。

「いつまで固まっているんだ。早く髪を乾かさないと風邪をひくぞ」

 ニアの顔が見る見るうちに紅くなっていく。ロボットダンスのようにカクカクと動き髪を乾かし始める。

 数分経つと髪を乾かし終えたようで話しかけてきた。

「なにしにきたのかな?」

『髪を乾かしている最中に平常運転に戻ったようだな』

「いや、それがな。俺の同居人のカミュ覚えているか?」

 ニアは頷く。

「カミュがな、最近どうも俺と距離をとるようになったんだが、その理由がわからないんだ」

「へえ、結構仲良さそうにしていたのにね」

 彼女は意味ありげにそう言い放つ。

「嫉妬かなぁ。ニアちゃん」

 いつ帰ってきたのかエミリーがニアをからかう。

「違うわよ!!」

 ニアがエミリーの頭に軽く空手チョップをくらわせる。

「イテッ……それで誰の話をしているの?」

 エミリーの質問にニアが空手チョップをくらわせた状態で説明する。

「カイのルームメイトのカミュって子が最近変なんだって」

「カミュ?もしかしてEクラスの?」

「カミュを知っているのか」

 俺は食い気味に質問をした。

「当たり前でしょ。同じクラスだもの。でもあの子クラスで暗いしよくわからないわ」

 彼女は両手を上げ、首を左右にふる。 

『クラスでも暗いのか。しかし最初にあったときはそこまで暗そうな雰囲気はしなかったんだがな』

 などと考えているとエミリーが話を続ける。

「あの子、うちのクラスで落ちこぼれ扱いされているのよ。Eクラスでの落ちこぼれはこの学校で最下位と言われているような者ね」

「そんなにあいつは弱いのか?」

「成績もあるけど、あの子うちのクラスで虐められているのよ」

『弱いのをコンプレックスに感じていて、それが原因で暗くなり虐められたということか?』

「なるほど、そうなのか。ありがとう二人とも。そろそろ暗くなってきたので、帰らせてもらおう」

 二人は俺を玄関まで見送ると手を振った。

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