1-16 ニアの新技炸裂

「ちょっとカイ!!なに勝手に話進めてるのよ。私だっているのよ」

 頭から湯気を出しながら可愛らしく怒りだす。

「いや、忘れていたわけではないぞ。しかし、ニアの得意な魔法は火だろう?」

 ニアは、不思議な顔をし頷く。

「それに対してラフクスは水が得意なんじゃないのか?」

「なるほどね。水は火に強いものね」

 握り拳を俺に向けながら笑う。 

「だけど負けたわけじゃないわ」

「ああ??俺の水がてめぇの火に負けるってことか?」

 ラフクスの調子が戻ってきたようだ。

「ねぇ……君たち?盛り上がっているところ悪いけど。先程の試合は僕が勝ったんだよ……」

 ウドが訂正するように入ってきた。

 ラフクスは口を丸く開け、呆然としている。

「ちょっと〜何してるの?次始めるわよ」

 フォン先生が足をバタつかせ子供のように叫んできた。

 ニアとウドは急いで戦闘位置に移動した。

「正直、カイはどっちが勝つと思うんだい?」

 俺の横にピカトルが座り話しかけてきた。

「どうなるかは、わからないから見てて楽しいんだろう」

「カイは優しいんだね。僕は体力的にニアが負けると思うよ。治してあげたと言っても疲労は体に残るからね」

「ニアは負けず嫌いだからな。ニアが勝つかもしれないぞ」

 俺が中央へ目を向けると既に二人の試合は始まっていた。

 ウドは土で壁を作り終えた頃のようだ。それに対してニアは目を閉じ何かに集中している。俺は魔眼で彼女を見る。彼女は大気中に魔力を分散させている。

「ピカトル。お前もあれが見えているか?」

「魔力のことだろう?」

 俺は頷く。

「魔力を大気中にばら撒くなんて珍しい事してるけど、相手が魔眼を使えるんだとしたら自殺行為だね」

「やはり、お前もそう思うか」

 俺には、ニアが何をしようとしているのかわからなかった。しかし確実にニアの放った魔力の粉はウドを囲んでいく。

豪炎ファラン

 彼女が魔法を唱える。何も起きなかった。しかし、それは普通の眼で見ていたらの話だ。魔眼で見ると、大気中に舞っていた魔力の粉はウドにくっつき始めた。

「なんの魔法を唱えたんだよ……何も起こらないじゃないか……」

 ウドは警戒して壁を分厚く高く作る。その時、彼が燃え始めた。

「熱い……なんで!?急に僕の体が……こんなの無理だよ!熱い。助けて…降参だよ……」

「ニア・リヴァイアスの勝利!!」

 フォン先生が声を張り上げる。

 ラフクスが空かさず水をウドにかける。

「つめた!!」

 ウドは、叫ぶと恥ずかしそうに頭を下げ

「さっきは悪かったよ……」

 不貞腐れた感じで謝る。

「気にすんな。お互い様だ。次やった時は手加減しねぇぞ」

 ラフクスは口は悪いが優しいようだな。

「青春だねぇ、仲直りしたところ悪いけど早く次やっちゃいましょう」

 フォン先生が、戦いたくて待ちきれないと言わんばかりに急かす。

「おい、フォン。そんなに急かすな。ニアも連戦は辛いだろう。先生だったら生徒の事もしっかり考えるんだな」

 俺は、子供のようになり始めているフォン先生に対し注意した。

「これじゃあ、どっちが先生かわからないわね」

 顔を赤くし静かになる。

「それにしても、さっきの魔法は凄かったな」

 ニアは照れくさそうに笑う。

「あれでも威力は抑えてる方なんだよ」

「俺にもあの技を使う気か?」

「もちろん。手加減はしないわよ」

 やはり、ニアはプライドが高いなそれだけ彼女は努力してきたという事なのだろうな。

「もし、お前が勝てたらなんでも一つだけ言う事をきいてやろう」

「ほぼ無理に近いと思うんですけど…」

 ニアは俺を睨みつけてくる。

「そのぐらいが丁度いいだろう。無理な事を可能にする事は大事だと思うぞ」

 隣からピカトルが声をかけてきた。

「そういえば、二人は仲が良いけど付き合ってるの?」

「そんな事……あるわけ…ないじゃなぃ」

 そう言いながら、俺を横目で見てくる。

「ニアとはこの国で初めてまともに会話した相手だからな。少し接しやすいんだ」

 変な想像をされるとニアも困るだろう。ここははっきりと違うと言わなければな。

「俺は、全くと言っていいほどこいつに興味はない」

 はっきりとその一言を口にした瞬間、横から蹴りがとんできた。

「急になにをする?」

 俺は、死角から来た蹴りを見ずに避けた。

「カイってさ、いろんな意味で規格外だね」

 ピカトルが溜息をついた。

「溜息をつくと幸せが逃げると言うだろう?溜息はあまりしないほうがいいだろう」

 俺がそう言うと、その場にいた全員が同時に溜息をついた。

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