1-5 魔族さらい

「そういえば、教官。今日桜の花が咲いたから宴があるらしいですよ」

「カイ、いつも言ってるだろう。特訓が終わったら、私は教官じゃないんだから。敬語はやめろと」

「すまない。つい敬語になってしまった」

「気をつけろよ。もう宴の時期か」


 ガイルが何かを懐かしむように遠くの空を眺めている。ガイルは宴があるといつもこうやって、どこか遠くをみる。昔、なにを見てるのか聞いてみたけれど教えてはくれなかった。


「ガイル、宴に参加するか」

「おお、そうだな」 


 俺たちは桜の木が一本だけある町の広場に到着した。もうすでに何人か集まっていたようだ。町長たちがこちらに気づくとこっちに向かって歩いてくる。


「来てくれたのか。ガイルさんも」

「ああ。今日が最後だろうし最後くらい宴に参加させてもらおうと思ってな」

「もう最後か、そうだな。あっちに行っても頑張るんだよ。カイ」

「強くなったら、町長にお土産話をきかせに来くるさ」

「そうか、そうか。それは楽しみだ。長生きしないとな」

「さぁ、みんなそろそろ宴を始めようか!」


 町民たちは、踊ったり騒いだりと暗くなるまで宴を楽しんだ。俺は、町の子どもたちがいなくなっていることに気がついた。 


「ガイル」


 呼んでみたが、お酒を飲みすぎて、寝てしまっていた。


 そういえば、さっき酒豪バトルしていたな……俺一人で探すか。それにしても、大人全員寝ている。どこか可笑しい。


 魔力をみる目。魔眼を働かせる。


 何だ?大気中に魔法とは違った。なにかの形跡が残っている。明らかに変だ。


 俺は、体を魔力で包み得体のしれない謎の力から体を守った。


 怪しいな。もしかして、子供たちは攫われたのかもしれない。すぐ探さないと。この謎の力の後を追っていけば、術者に会えるはずだ。

 謎の力は人族の生活区域へと繋がる森の奥へと続いていた。


 もしや、人族が子どもたちをさらったのか!もしそうなら、不味いことになる。


 しばらく走ると、複数の大きな人影と小さな人影が見え始めた。


 あれだ!気づかれないように音を出さずに近づこう。バレたら、子どもたちに危害を加えるかもしれない。


 ゆっくりと音を立てず。しかし、確実に近づいていく。四人の大人が子供を囲むように歩いていた。


「おい、さっさと歩きやがれ。いちいち泣いてんじゃねぇ。魔族のくせに」


 あの言いよう、確実に子どもたちをさらったのは人族だ。何故人族が魔族をさらっているんだ。


 注意深く人族を見ると、すらっと伸びる刀を腰に差していた。

 静かに近づき、後ろの二人を気絶させる。


「おい、何かが来たぞ!刀をかまえろ!!商品をできるだけ傷つけるなよ」


 リーダーのような人族が声を上げると、残りの一人が子どもたちを縄で近くの木へ縛りつける。逃げられないようにしたあと、刀をかまえた。


 カイは、目にも止まらぬ速さでリーダーに近づき一撃をくわえると、リーダーは数メートル先の大木に叩きつけられた。


「くそ、何だこいつは。ガキのくせに力がありえなく強え。おい!お前、俺の防御力をあげろ。」

「了解です。授堅気功グラン!」


 部下が唱えると謎の光がとびリーダーの体を包みこむ。再度殴るが、先程のようにはならなかった。


「全然効かないなぁ。舐めたマネしやがって。次は俺の番だ!」

 リーダーが刀を振り下ろす。皮膚が切り裂かれ勢いよく流血した。


 痛いな。駄目だ。本気で殴らないとダメージが入る気がしないな。ちょっと本気を出して。


「おら!」


 腹へダイレクトに入ると泡を吹いて倒れた。部下が戦意を喪失し逃げようとした。後ろから蹴りを入れて気絶させる。


「怖かったね。もう大丈夫だ。歩けるか?」 


 子供たちを縄から解くと、泣き顔に笑顔が戻る。


「ありがとう。カイ〜!」

「カイって強かったんだ〜」

「邪魔してんじゃねぇよ。あと少し来るのが遅かったら俺があんな奴ら倒してたわ!!」

「それは、申し訳ないことをした」


 静かに空からガイルが降りてくる。


「派手にやったな。こりゃ、国家問題につながるぞ」

「そうだろうな。でも、仕方がないだろ。下手したら、この子たちが連れて行かれるところだった」 


 子供たちも口々に訴えかける。


「ガイルさん、カイを怒らないであげて。」

「ん?カイを?怒ってなんかないよ。そこに転がってる人族に言ったんだよ。君たちはカイと一緒にもう帰りな」


 森をぬけ、俺が村につくと、すでにガイルが到着し説明をし終えた頃だった。子供たちを親のところへ返すと、親たちは感謝の言葉を言ってきた。


「ガイル。あのあと、人族はどうしたんだ?」

「あいつらは、軽く記憶を消して人族の方に返したよ。それにしても、魔族を奴隷にしようとしている輩がいるなんてな」

「大人相手によく一人で頑張った」


 俺の頭をクシャクシャにする。


「ガイルに鍛えてもらったおかげだな」 

「おう、嬉しい事言うね。待ってろ。いま傷を直してやる」


 手をかざし軽回復リカブを使うと、カイの傷が跡を残さず綺麗にふさがっていく。


「ありがとう。ガイル」

「よし、今日はもう帰って寝るか」


家へ帰り寝床に入る。


「カイ、明日卒業試験をやるからな。しっかり寝ておけよ。」

「はい!了解であります」

「まったく…」

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