1-6 元魔王と卒業試験

 俺はテーブル一杯に広がった料理を口いっぱいに頬張っていた。

 

 このお肉美味しい!!肉汁がとろとろしている。こっちは野菜がシャキシャキして噛みごたえがいい。シェフ!次の料理お願いする。


「早く起きろ!!」


 そんな声が夢の中にいた俺を現実の世界へ引きずり戻した。

 俺は目をゆっくりあけると、状況を理解した。勢いよく起き上がると布団が宙を舞う。

 声の主が口を大きく開けた。


「しっかり寝ろとは言ったが、寝坊しろとは言ってないぞ」

「そのとおりです!!」


 俺はすぐに正座すると彼女の発言に肯定した。


「まぁ、昨日は色々あったからしょうがない。今日は見逃してやるとするか」

「ありがとうございます。寛大な心に感謝します!!」

「だろう?冗談はそこまでだ。早く着替えて朝飯を食え。」


 そう言うと、彼女はフライパンを持って寝室を出た。

 俺は、着ていたパジャマをパパッと脱ぎ捨て、服を着替えると、リビングへ直行した。


 俺は、朝食のメニューにどこか違和感を覚えた。


 ん?いつもより野菜多めだな。珍しい。


「今日は随分とベジタリアンだな。何かあったのか?」

「昨日、飲みすぎて気持ち悪いから野菜多目に取ろうかなって、ほら野菜って体によさそうだし」

「無理は禁物だぞ。ガイルも年なんだか─」


 俺の目の前に突然、4股に分かれた槍が現れた。その向こうで、ガイルが鬼の形相でこちらを見ていた。


「ええ?なぁに?今なんて言おうとしたのかな?」

「いえ、何も言ってないです」


 ガイルの前で歳のことは禁句だった。何も知らない子供の頃、歳のことを言ったら一日中、町の外周を走らされたっけ……。ん?野菜がシャキシャキしていて美味しい!


 子供の頃の思い出に浸りながら、野菜を口へ運んだ。


「なんか、今日新鮮な野菜が多いな。この野菜どうした」

「昨日助けた子供の親御さんたちがよかったらって採れたての野菜を分けてくれたんだよ。うん。確かにこいつはうまいな」


 ガイルは、説明を終えると口の中で音楽を奏で始めた。


 俺はふと、昨日助けた子ども達のことが気になった。


「子供たちは元気にしてるか?」

「特訓まで時間あるし、朝食食ったら見てきたらどうだ?」

「行ってみるとするか。ガイルも一緒に行かないか?」

「私はさっき親に会ったからな。それに、卒業試験の準備とかいろいろやらなきゃいけないことがあるから。パスだな」


「そうか。それなら仕方ないね。僕一人で行ってくるよ」

「おう、食べ終わった皿、洗ってやるから出しておけよ」


 急いでご飯を食べると先程まで野菜が乗っていた皿を洗い場に出すと、出かける準備をした。


「それでは、行ってくる」

「おう、また遅刻したらペナルティだそ!忘れるなよ」


 返事をし、ドアを開ける。すると、眩しい光がドアの間から差し込んで来た。


 今日は天気がいいな。伸びると気持ちいい。雲一つ無い快晴だ。


 ドア先で背伸びしていると、隣の家に住むおばさんが笑顔で声をかけてきた。


「カイ、おはよう。今日も元気だね」

「おはよう。隣のおばさんも元気そうだな」


 挨拶をし終えると、しばらく道なりに沿って歩き出した。目の前を歩いていた子供が石に躓き転んだ。俺は、今にも泣き出しそうな子供に近づき声をかけた。


「大丈夫か?どこを怪我した?」

「うっうっ……ここ、すりむいちゃったぁぁ!!」


 泣きながら、怪我した場所を腕から音が出るほど何度も指差した。


「いま、傷薬塗ってやるから。じっとしてるんだ」


 水筒の水を傷にかけ、汚れを落とし。そして、ポーチから薬草を絞った緑色の液体を塗りつけた。


「しみて痛いよ……」

「ごめんな、すぐ良くなる」


 最後に傷口を包帯で塞ぐ。


「ありがとう。お兄ちゃん!!バイバイ」 


 子供は笑顔で手を降る。

 

「おう、バイバイ」


 頭の上で大きく手を振りかえした。


 早く行かないと廻る時間が無くなるな。


 俺は走ってアルの家に行くと、アルのお母さんがでてきた。


「アルは今寝てるよ」


 笑顔で、そう言うと暗い顔をし始めた。


「ほんとにありがとね。アルがいなくなってたら生きていけなかったよ。なにか困ったことがあったらいつでも言っておくれ。できる限り手伝うよ。」

「困った事があったら相談するさ。それでは失礼する」


 残り二人の家を訪問し終えるとガイルとの約束の時間まで残り十分になっていた。

 全力で足を動かし家へ向かった。


 あれ、おかしいな。ガイルが外に出ていないのは珍しい。


「ガイル。ただいま。」


 家に入るとベッドがどかされてあり、ベッドの下には地下へ続く階段があった。 


 こんなところに階段なんてあったのか。


「ガイル?ここにいるの?」


 返事がないな。ここにはいないのか?


 疑問を抱きつつも階段をゆっくりと降りていった。


「ガイル?ガイル〜?」


 すると、下の方から返事がきた。


「カイか?ここに入ってきちまったのか」


階段を降り終えるとそこには、椅子に座り本を読んでいるガイルの姿があった。


「特訓の時間になっても外にいなかったから。心配になってな。こんなところにいたんだ。」

「そうか、心配かけて悪かったな」


 ガイルは、机に本を置き、立ち上がった。

 暗くて奥のほうが全く見えない部屋に俺は興味が湧いてきた。


「いったい、この部屋はなんだ?」

「昔、魔法に関する本を集めたんだ。この部屋はな、それを保管する場所いわば、魔法専門の図書館ってやつだな」

「魔法の本か。ちょっと読ませてもらっても構わないか」


 了解を得ようとする俺に向かって、ガイルは否定した。


「今は駄目だ。卒業試験に合格したら全部見せてやる」

「ほんと?」  

 聞きなおす。


「合格したらだぞ」

「わかった」

「それじゃあ、卒業試験をするか」


 俺は、ガイルの後ろをついていき、階段を登っていった。俺たちは階段を登り終え、ベッドを元の位置に戻すと。


「卒業試験ってどんなことをするんだ?」

「それはな、私と体術だけの実戦をする」


 ほう、ガイルと実戦か。勝てる気がしないな。


 ガイルは俺の気持ちを表情から読み取ったのか安心しろと言ってきた。


「大丈夫だ、今のカイは体術だけだったら私といい勝負をするだろうからな」


ドアを開けながら、外へ促す。


「ほら、やらないと本は読ませてやらないぞ」

「よし。やるからには手加減は無しだ」

「もちろん。そのつもりだよ」 


 ほう、手加減する気は最初から無かったのか。


 家を出ると町外れまで歩いてきた。


「この辺でいいか。私がこの石を投げる。石が地面に落ちたらスタートの合図な。わかったか」

「了解です。教官!!」


 石が縦回転、横回転しながら地面に落ちた。瞬間ガイルが間合いを詰めて、拳を入れてくる。速すぎる攻撃に避けることができず、それを受け止める。 


 手加減しないってのは本当みたいだな。しかし、なんだろう。体がうまく動かない。


 俺は、気づいた。ガイルの目に殺気が宿っていることに


 もしや、ガイルの殺気で動きづらくなってるのか。


「どうした、どうした?防いでばかりでは死ぬぞ」 


 ガイルのラッシュが炸裂する。 


 こんなの速すぎて防ぎきれな──。


 ガイルの拳がカイの無防備なお腹へ入る。俺は宙を舞い、数百メートル先の森の中へと飛ばされた。 


 全身に痛みが走る。やはり、殺すつもりで来ている。

 状況を理解し、すぐ立ち上がる。そして目の前に迫りつつあるガイルに向かって、拳を入れた。


「そんな単純な横払いが私に通用すると思っているのか?」 


 ガイルは、笑いながら軽々と拳を躱した。


「いいや!そんな事思ってない」


 横払いはガイルを下へ避けされるための囮だった。カイは、ガイルの顔面に膝をいれる。


「ってー。甘く見ていたな。こんな連続技をしてくるなんて思わなかったよ」  


 ガイルの目が一瞬輝くのを確認した。のと同時に俺は殴られながら空高くとんでいく。ガイルは空へとんでいく俺を見ても攻撃の手を緩めない。空中で永遠と殴り続ける。


 無理だ。空中じゃどうやっても避けられないガイルにはまだかなわないな。 


 諦めた俺だったが。しかし、無意識に右手に魔力を込め、ガイルの腹部へと拳を入れた。ガイルは地面に叩きつけられると。


「よくやった。合格だよ」

「なんで?」 


 唐突の合格発表に驚きを隠せなかった。


「この卒業試験の目的は、魔力を使い。自分の身体能力を向上させることだったんだ。今まさにカイは、右手に魔力をためて私に一撃を入れた。それが身体強化の感覚なんだ」


 説明を始めるガイルに疑問が生まれた。


「でもなぜ、わざわざ卒業試験だったんだ?普通に教えてくれたって良かったんじゃ?」

「それはな、これは教えられてできるようなものではないんだよ。殺気を感じながら死ぬかもしれないと言う状況でこそ初めて使える魔法なんだ」

「そうだったのか。しかし、騒ぎすぎたみたいだな。町の方から心配そうにみんな見ているぞ」


 町の方では、俺とガイルが親子喧嘩しているのではと心配になった町民が道が見えなくなるほど集まって来ていたようだった。

 今気づいた様子のガイルは急いで、説明しに向かった。


 これが身体強化魔法か。俺は右手を握りしめた。初めてガイルに教えてもらった魔法だ。 


 初めてということが嬉しくつい口が緩んでしまった。 


「おい、カイ。大丈夫か?気持ち悪い顔してるぞ」


 説明を終え帰ってきたガイルに顔を見られてしまった。急いで表情を直し。


「なんでもない。少々嬉しくなってしまってな」


それを聞いたガイルは笑っていた。

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