1-7 元魔王との約束

 ああ、俺には力がない。体術だけの実戦だったが、ガイルに負けていた。もっと強くならなければ、俺にはやらなきゃいけないことがあるんだ。傷は癒やしてもらったのに、まだ心が痛む。


 俺たちは約束を守るため地下室に来ていた。


「卒業試験に合格したことだし、カイに私が持っている本全部あげるよ」

「なにっ!?どうして」


 俺の言葉に返事をせず、ガイルは暗い顔をして話を続ける。


「正直私もこの中にある魔法をすべて使えるわけではないんだ」

「それだったら、ガイルが使えるようになってからでいい。俺はガイルの後に覚える」


 ガイルは俺の頭に手を乗せた。


「いいや、私じゃ使えないんだ。それに悪いなんて思うなよ。私はカイに託したいんだから」


 ガイルが使えない魔法をガイルより弱い俺が使えるとは思えない。どうして託すんだ。


「ガイルが使えない魔法を俺が使えるとは思えないんだけど?」

「いいや、カイならできる。なんてったって私のただ一人の息子だからな」


 カイは今までに無い程の笑顔を向けて言った。


「わかった。いつか俺がここにある魔法全部使えるようになってみせるよ」

「おお、よく言ったな。これ全部しっかり覚えろよ」


 先程まで暗い顔をしていたガイルが急に、にやつきながら壁にかかっているろうそくに火をつけた。すると、明かりが部屋中に届き、奥の方まで見えるようになった。部屋一杯に本が、隙間なく並べられていた。


「えっ……こんなに?」


 カイが本の数に圧倒されている。横でガイルは、にやつき続けている。


「いやぁ、楽しみだなぁ。カイが全部の魔法を覚えてくれるのか」


 やられた。さっきまでのシリアスな雰囲気はこれの為だったのか。


「い……言ったからにはやってやる」

「ほほぅ。楽しみにしてるよ」


 俺はなにかに惹かれるように本棚に目を向けた。そこには『収納魔法』と書かれた本があった。


「収納魔法?これはどんな魔法なんだ」

「この魔法はな。この地下室みたいな魔法だな」


 俺は、理解ができなかった。


「どういうこと?」

「それはな。空間を作り出す魔法なんだ。収納したものを取り出したい時は、室内から直接運び出すことも出来るし、外からでも取り出したいものをイメージして魔法を唱えればすぐ取り出せる」 


 収納魔法か。使えれば便利だろうな。この本しまってみるか。


「その魔法は俺にもできると思うか」

「ある程度の魔力と魔力制度があれば誰でも使えるぞ」 


 俺は手をかざし魔法を唱える。


収納ジレド


 魔法陣が現れると、静電気に似た刺激がカイを襲った。


 ぐっ!もっと魔力を制御しないといけないのか。体に流れる魔力を意識して、体の周波数と魔力の周波数を重ね合わせる。


収納ジレド


 魔法陣が、床と平行移動すると手に持っていた本を飲み込んでいった。


「これでいいのか」

「そうだな。次は取り出してみな」 


 先程収納した本をイメージし魔法を唱えた。


差出ゼント


 再び、魔法陣が表れる。魔法陣に手を入れると本を取り出すことができた。


「成功のようだな。やったな」


 数日後、俺宛に郵便物が届いた。


「カイ宛に学園からなんか来てるぞ」


 ガイルは、外から帰ってくると郵便物を俺へ渡してきた。


「制服と手紙が入っているな。手紙にはなんて書かれているんだ」


『入学おめでとうございます。貴殿は魔王城立魔王育成専門学園への入学が確定しました。並びに制服と寮についての案内状を渡します。学園に担当の者がいるので、寮について質問があればその者にどうぞ』


「カイ。やったな……これからも頑張れよ」


 俺は、寮と言う単語に素朴な疑問を持った。


「寮生活って事はガイルと離れなきゃいけないという事か」

「そうみたいだな。でも、悲しむな。カイには私のすべてを教えたからな」

「悲しんでなどいない」


 本当は泣きたいぐらい悲しいが、強くなるためには仕方ないことだ。


「おいおい、入学式の時間、明日の朝にここを出発しないと間に合わないぞ」

「なに!?そんな急に!!みんなに挨拶して来なくては」


 俺は、重たいドアを思いっきり開けると外へ飛び出した。


「カイも親離れの時がきたんだな」


 カイの後ろ姿を見ながらどこか悲しむようにガイルは見送った。


 多分これで全員に挨拶したな。この町意外と人が多くて全員に挨拶するのは骨が折れるな。なんか疲れで悲しさもどこかにいってしまったな。


 家に帰るとガイルが出発の準備をしてくれていた。

 カイが帰ってきたのに気付くと本を持ってきた。

「おう、帰ったか。カイの部屋掃除してたらこんな本出てきたぞ。また読んでやろうか」

「懐かしいな。読んでくれ」

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