1-4 故郷田舎町「トルイーナ」
田舎町トルイーナ。この町は、カイの故郷。城から遠く、馬車で丸1日休憩無しで走り続けると見えてくる。自然が豊かで町は緑に囲まれていた。空気が透き通っており、邪心を抱く者が一人もいない。毎日笑いながらみんなが助け合い支え合う素敵な町だ。雑草が生い茂る獣道を一人の少年が駆け抜けた。
急げ。時間まであと三分だ。遅れたら、どんなペナルティをくらうか想像もつかないぞ。
俺はガイルの元へと土煙をあげていた。
やっと、広場まで来たぞ。ん?なんか町民が集まってる。何かあったのか。
俺は、ブレーキ音をあげるようにスピードを落としながら人混みの中へ入っていく。
「っ!?桜が開花してる。やっと咲いたのか。今年はなかなか咲かなくて心配していたところだ」
俺の声に一人のおじいさんが優しい笑顔で振り向いた。
「おお、カイか。もう帰ってきたのか。そうだよ。やっと咲いたんだよ。桜が。だから、みんなで今年一年も頑張ろうって事で宴を明日することに決まったんだ!!久しぶりにカイも明日ガイルさんと参加するといい」
その会話を聞いていた町長の奥さんが笑いながら。
「カイがもう帰ってきたのかい?昨日の早朝に出ていったばかりじゃないか。なんだい逃げてきたのか?」
「逃げてなどいない。ほら、入学証明書も貰ってきたしな。合格だ」
俺が、紙を見せると
「ほんとだよ。あんたこれ見てみなよ」
「こりゃ凄い明日はいつも以上に盛り上がるぞ。うちの町で初めての才能ある若者だ!!」
トルイーナでは魔法適性が高いものがいない。町民たちは作物や家畜を育てたり、服を織ったりして生計をたてていた。
「ありがとう。町長」
「そういえば、ガイルのところにはもう行ったのかい?早く合格した事を教えてあげな」
「はい……あっ!?忘れてた。遅刻だ!!早く行かないと」
町長は、俺を見送った。
「ガイルさんは、本当に凄いやつだよ。カイをあそこまで育てたんだから」
「そうね。一人でカイを連れてきたときは驚いたけどね。ふふふ」
「確かに!あのときは、本当に驚いたな。今日まで凄く苦労したろうね」
町長の奥さんは、ゆっくりと顔を縦に振り後ろ姿の見えなくなった。道路をただただ眺めていた。
家の前に着いた。ドアノブに手を触れた瞬間、勢いよくドアが開いた。
「遅いじゃないか!どこで道草くってたんだい!」
「すまない。桜の花が咲いていて、ついな。でも、これを見てみろ。合格したぞ」
「当たり前だろ。お前が受からないわけ無いだろ。私が育てたんだからな。でも、合格おめでとう」
俺を抱きしめたガイルの目には、日光が当たりキラキラと反射していた。
元魔王ことガイル・グリアムズは初めて女性で魔王になった魔族だ。カイを拾ってからは、カイを育てることだけに集中してきた。そのため、魔王をやめてトルイーナまで引っ越してきたのだった。
ガイルの目が嫌な輝きを放つ。
「合格したことは凄い。しかし、遅れたからにはペナルティだ。明日はいつもの特訓全てにこの十キロある純鉄の延べ棒を足につけてやってもらうか」
「ほう……十キロ。しかも、また身体の特訓か?そろそろ魔法を教えてもらいたいんだ。そして魔法を使いたいんだ」
俺は、懇願したが拒否されてしまった。
「魔法は入学してから教えてもらえ、今は基礎、身体を鍛えるんだ」
「基礎がちゃんとしてないと大きな魔力を扱うことも制御することもできない。すると魔法は使えても威力は分散してしまって、カイの持つ本来の力が全部だせないんだ」
「基礎はそれほど大事なんだ」
「それにな、魔力の制御は毎日見てやってるだろう」
俺は、しょうがないなと下がる事にした。
月が地平線へと吸い込まれると、日光がトルイーナを照らし始めた。
今日もいつもと同じ特訓だ。いつもと違う事と言えばペナルティ付きだと言う事……
頭上のガイルに向かって声を出す。
「10キロは、じみに効きますね。教官!」
ガイルは優雅に石に座りながらティータイムを楽しんでいた。
「そうだろう。私は風が心地良いぞ。その調子で走り続けるんだ」
ベンチに座りながら町長が、奥さんとお茶を飲んでいた。
「投げ出さずによく頑張るよ。カイは」
「ガイルさんに頼んでこの前、乗せてもらったんだけど、丁度いい風がきて気持ちいいのよ。あの上」
「わしも乗せてくれないかな…」
町長は、子供のような顔をしていた。
三百周辺りから辛くなってきたな。心臓が五月蝿すぎて口からとび出てきそうだ。
「おい!ペースが落ちてきているぞ!もっと私に風を感じさせろ」
「すみません!」
特訓中、ガイルは凄くスパルタだ。でも、ガイルがいうには、このぐらいできて当然の事らしい。
「今日の特訓は終わりだ」
「ありがとうございました」
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