1-2 能力審査怪物現る


 俺は、長蛇の列ができている最後尾に並ぶと後ろから声がかけられた。

「ねぇ、君。さっき、ラフクスと争ってた人だよね?」

 振り向くとそこには長い長髪の似合う少女が立っていた。

 変に目立つのも億劫だな。適当に誤魔化すか。

「だ…誰のことかなぁ?わからないや。」

 声を高くし、本当に適当な感じで誤魔化す。

「あなたね。そんな覚えやすい容姿でしらばっくれても、すぐバレるわよ」

 長髪の少女はため息をつき、呆れた顔を浮かべた。

「やはり、ごまかすのには無理があったか。もしかしたら、ごまかせるかもしれないという淡い希望にかけてみたのだがな」

 最高レベルの苦笑いをすると、長髪の少女は頷いた。

「そんなことよりさ。君、さっきの凄かったね。どうやったの?」

 彼女は可愛らしく首を傾げた。

「なにか凄い事したか?話の流れてきに、ラフクスの話をしているのだろうが。全く心当たりがないのだが」

 少女は俺がまだ誤魔化そうとしていると感じたのか怒った表情を浮かべた。

「なにがって、さっきのよ。あのラフクスの魔法を片手だけで消せる少年がいるなんて。聞いたことないわ。誰かに鍛えてもらったの?」

「そうだな、俺を育ててくれた人が魔法ではなくろうそくの火で軽くやってたからな、真似をしたんだ。あの程度の炎なら皆出来て当然だと思うが」

 俺の話を聞いた少女は顎が外れる勢いで口を大きく開けた。

「すごいわね、あなた。もしかして、相当な規格外なんじゃないの……」

「あれだけで規格外と呼んでくれるのか。面白い冗談を言うな」

 役員の声が誰かの名前を読んだ。しかし、話している最中だったので聞き逃してしまった。

「次、……」

 ん?今誰かの名前を読んだみたいだな。まぁ、あれだけの人数がいたんだ俺ではないだろうな。

「でも、俺の育ての親は『こんなの赤ちゃんでもできるぞ』と言ってたものだ」


 俺は話を再開すると、眼前の少女が俺の後ろ指差した。

「ん?どうした?話でもあるのか?」 

 俺は女に耳を傾けた。その時、役員の怒鳴り声に近い声が響いた。

「カイ・グリアムズいないのか!!」

 俺は声のする方へ顔を向ける。

「なんだ?」

「いるんだったら早く返事をするんだ。こちらへ早く来い」

「すまない。気づかなかった」

 俺は役員の下へ急いで向かった。

「では、最初は魔力測定だ。これを腕に着けて、あの的に全力の魔力をぶつけるんだ」

 ほう、なるほど。このリングのようなもので魔力を測定できるのか。凄い技術だな。しかし、全力でやっていいものなのか。魔力の流れを確認してみたが、なんの付与魔法もかけられていないようだが。

 不安は残るがやらなければ進めないようなので仕方なくやることにした。

「了解した。全力だな」

 息を吸って、吐く。右手に集中だ。手が暖かくなってきた。魔力が集まっている証拠だ。

 俺の右手が大きな黒色の光を放ちはじめる。

 まだだ。もっといけるはずだ。もっともっと、無駄に大きくならないように収縮させながら、魔力を圧縮するイメージで。

 黒色の光は徐々に小さくなっていき、魔力特有の禍々しさが増していく。

 今だ!

「はぁっ!!」

 掌から放たれた魔力は、野球ボール並みの大きさだったが的に触れた瞬間。物凄い大きさの音を立て目の前にあった物全てを消し炭とかした。被害は的だけではなく、その向こうの城壁まで行き届いていた。

 これはやらかしてしまったな。まぁしかし、案の定、頑丈ではなかったようだな。

「すまない、少し制御がうまくいかなかったみたいだ」

 役員に声をかけるが、返事がない。

 これは、やりすぎたか。それとも弱すぎて言葉が出ないのか。普通だったらもっとうまく魔力をコントロールして的だけを的確に壊さないとだめだったのかもしれないな。

「おい、聞いてるか?」

 やはり、返事がない。弱すぎて話をする価値もないという事か……もう帰るか。

 壊した方を見ると綺麗に修復されていた。後ろを向き出口へ向かおうとすると、先程まで石化の魔法をかけられているようだった。役員がようやく口を開いた。

「待ちたまえ!!その腕につけたバングルを見せてはくれないか」

「ああ!すまない、忘れていた」

 俺は、急いでリングを外した。

「なんだって!?なんだこの数値はありえない。この歳で魔力レベルSだと…学長先生達といい勝負じゃないか」

「と、とりあえず。次の測定へ進んでくれ。後でたぶん各校の学長先生から呼ばれると思うからそのつもりでな」

 学長先生に呼ばれる!?もしかして『お前みたいなクソ虫は学校へ来ても何も学べないぞ!!』的な事を直接言われるのかもしれないな……。

 俺は道なりに沿って歩いていくと、百メートルほどの広さのある広場についた。他に審査を受ける人の姿が見当たらなかった。

「次、体力測定だ。シャトルランとか50m走があるから、奥で説明を受けてね」

「わかりました」

 俺は案内役員に返事をし、教えられた奥へ進んだ。

 俺は、体力にはそこそこ自信があるんだ。体力だけなら最近はガイルにも負けたことが無いからな。よし、体力で挽回だ。気合を入れていくぞ。 

「シャトルランは音楽に合わせて走れよ」

 音楽にペースを合わせるのか、自分のペースで行けないのは難しいな。


一時間後


 役員が驚いた声を上げた。

「結果9873!?」

「疲れてこれ以上はもう無理だ」

 息を荒げその場に座り込み、少し休憩を挟んだ。


50m走


 役員のゴールの掛け声はどこか疑問系だった。

「よーい、ドン。ゴール?」

 俺は肩を慣らすように回しながら歩く。

「今日はちょっと調子悪いな。あんまり風にのれないな」

 驚いた顔をした役員が俺へ声をかけてきた。

「これで、調子が悪いのかい?」

「そうだな。調子よかったら、もっといけたと思うぞ」

 よりによってなんで今日こんなに調子悪いんだ。落ちたら、笑い事じゃないぞ。もし、俺が落ちたらガイルが抗議してやるとか言っていた。もしそれで入学できたとしても絶対その後の学園生活に問題が発生する。絶対合格しなくてはいけない。

「次は、実戦を想定した模擬試合になります」

「りょ、了解した」

 俺は、緊張のせいか口がうまく回らなかった。それを聞いた役員は優しそうな笑顔を浮かべた。

「そんなに緊張しなくていいよ。この実戦の勝敗が直接試験に反映されるわけじゃないから」

 俺は、そっと胸をなでおろした。

 そうなのか。それなら少し助かるな。もし負けたとしても合格する可能性があるからな。

 天井につけてある拡声器から声が聞こえてきた。

「両者とも準備ができたら、闘技場へ入ってください。武器の使用は禁止です。魔法は相手を殺さない程度なら許可します。それ以上は危険行為で即失格になります」

 暗く長い廊下を光が差し込む反対側へ向かい歩いていく。廊下を出るとそこには円上の広場があった。障害物などはなく正々堂々としか戦えないようになっていた。上の客席には偉そうな奴らが座っていた。

 服装的に学園の先生たちか?だが、学生っぽい奴らもいるな。もしここで負けたら公開処刑だな。入学早々弱いやつ扱いされるわけだ。気をつけないとな。  

 闘技場の反対側から青い長髪の女が闘技場へと入ってきた。

 あいつは見たことあるな。さっき話しかけてきた少女だ。

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