1-11 入学式
この学園の入学式は一風変わったところでやるようだな。それとも、これが普通なのか?
「おい、なんで屋外で入学式をやるんだ?」
「さぁ、わからないわ」
ニアは首を傾げていた。
なるほど、ここが変わっているだけのようだな。周りを見れば、他の入学生も物珍しそうに空ばかり見ているようだ。
俺は、左隣が気になった。
「おい、カミュいつまで黙っているつもりなんだ。いい加減普通にしたらどうだ」
「うるっさいわね。なんであなたは、普通にしていられるのよ」
俺は、反抗的なカミュの手を両手で握りしめた。
「ちょっ!何するのよ」
俺は、彼女の言葉を無視し話し始める。
「俺もこんな状況には馴れていなくてな。こうすればわかるだろ。俺の手が震えている事に」
彼女は、深呼吸すると少し緊張が和らいだのか知り合って初めての笑顔を俺に向けた。
「ありがとね。もう大丈夫よ」
「そうか」
「すみません。入場の際はクラスごとに分かれるので、事前に連絡しておいたクラスの場所へ移動してください」
先生らしき魔族が指示をし始めた。
「そろそろ始まるみたいだな。お前たちはどのクラスなんだ?」
「私は当然1-Sよ」
ニアが自信満々に答えた。しかし、カミュは恥ずかしそうに答える。
「私は1-E」
「そうか。俺は1-Sのようだからニアと同じクラスかこれから先が思いやられるな」
「なんで、私と同じだと先が思いやられるのよ」
「当たり前だろ。お前と知り合ってから、ろくな事が無いからな。耳元で騒ぎ出したりな」
「それはあんたのせいでしょう!!」
ニアは再び耳元で叫んだ。
耳を抑えながら左を見ると、カミュは自分のクラスのところへ移動してしまったのか、姿が見えなかった。
カミュは、寮でも急にいなくなったな。一言ぐらい声をかけてから行けばいいものを。
俺とニアは1-Sクラスの列へ移動した。
「そういえば、代表の言葉。私にはかからなかったわ。いったい誰なのかしらね」
ニアは残念そうな顔をしていた。
「代表の言葉はその時まで誰なのか、わからないのか」
「ええ、そうみたいね。悔しいわ」
なるほどな。だから学長は内緒にしてろと言っていたのか。
しばらくすると、入場の音楽が鳴り出した。俺は最後辺りに並んでいるから入場まで時間がかかる。待っているとふとある事に気づいた。
俺としたことが、代表の言葉を考えるのを忘れていたな。どんな風にすればいいのか検討もつかない。ニアに聞くという手もあるが、そんなことを聞けば俺が代表だと教えているようなものだしな。
などと考えていると、俺の番がきた。
学生も出席しているのか。一学年百人弱ぐらいだから、それを五倍すると約五百人ほどかなかなか人数が多いな。
「新入生代表の言葉。カイ・グリアムズ。登壇してください」
俺は、立ち上がると壇上へ上がる。その場にいた生徒や先生が俺の独特な容姿にざわついていた。それを無視し、俺は話し始める。
「こんな、素晴らしい日に入学できた事、心から感謝しています。これからお世話になる上級生や先生方には大変ご迷惑をかけると思いますが。何卒よろしくお願いします」
うまくいっただろう。この短時間で考えたにしては完成度が高いと自負したくなる。
しかし、拍手もなにも起こらなかった。
なんだ?どこか変だったのか。なぜ何も起こらない。
進行役の先生へ目を向けると、何やら俺の前にある卓上を指差しているようだった。
卓上を見ると大きく『最後は魔法を空へ放つ』と書いてあった。
全くこんなものにも気づかないとは俺は俺が思っている以上に緊張していたようだな。
空へ手を掲げ、爆発をイメージしながら魔法を唱える。
「
赤い魔法陣が表れる。魔法陣から細い炎が空へと上がった。一人の学生が叫んだ。
「へっ!なんだあの弱っちい魔法は今年の新入生代表があんな雑魚だったら、他の奴はどんだけ雑魚なんだよ」
彼の言葉で上級生全員が笑い出す。そんな中、新入生は俺を睨みつけた。
「この学園も落ちぶれちまったようだな!!あんなクソみたいな魔ほ──」
謎の爆発音が彼の言葉を遮った。全員が空を見上げる。俺の放った魔法は、空で爆発し大きな花や校章を描いていた。上級生は黙って空を見上げ続けている。爆発が終わると。
「おい、さっきまで笑っていた上級生たち。なぜ、夢中になって俺のクソみたいな魔法を見ているんだ?」
そう言い放つと、ばつが悪くなったのか黙って下を向いてしまった。一方、新入生たちは物凄い拍手をして後壇する俺を讃えた。
そして入学式は幕を閉じた。
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