第12話 やたらと照れる後輩がおれのpcの画面を頻繁にのぞき込んでいたらしい
ゴールデンウィーク9日目。
まだ入学して1ヶ月ほどしかたっていないのに、明後日から大学に行かないといけないのはほんの少しめんどくさい。まあ行くけどな。
おれが着いてからしばらくして、となりに座った立花とあいさつ以外の会話を交わすことなく黙々とキーボードを叩いていく。ラストスパートである。起承転結の転でぶち上がった気持ちそのままに結へと移行し、後日譚を綴っていく。
たんっ!
「あー・・・・・・やっと、終わった・・・・・・」
全力でエンターキーを押したおれは背もたれに寄りかかり力を抜いて息を吐く。
解放感がえげつない。
話を考え始めたときから今日までの9日間、ずっとこの短編面白いのか、そもそもちゃんと書き上げられるのか、などという不安が決して大きくはないがおれにのしかかっていたからだろう。これからはまあ、推敲などがあるとはいえ、とりあえず今書き上げた短編について考えなくていいので、1つ重しが取れたような心持ちがする。
・・・・・・まあ、夏休みに公募用の原稿を書き上げる予定でいるのでこの解放感も束の間のものなのだが。
だからといって、今すぐに物語を考え始める気にはなれないのでラノベでも読もうかなとかばんの中をごそごそする。
ラノベを机上に出すと、立花がこちらを見ていたことに気づいた。が、立花はさっと目をそらす。
分からない問題でもあったのかな、と立花の手元をのぞいてみると一問一答式の世界史のテキストが開かれていたのでそういうわけでもないだろう。というか、おれ、世界史分かんないので聞かれても答えられないけど。
勉強の邪魔するのもよくないので、まあ、何かあれば声をかけてくるだろうし、おそらくたまたまおれの方を見ていただけだろうと結論づけてラノベを開く。
「し、執筆、おつかれさまです」
そうすると、おれの目の前にキットカットが差し出された。
「ああ、ありが・・・・・・」
包装紙を破こうと手をかけたところで、よぎった違和感におれはぱちぱちまたたく。
「え、おれ、立花に短編書いてたこと言ったっけ?」
言った覚えがないのだが、立花は確かに『執筆おつかれさまです』と言った。
おれが首をかしげて立花に視線をやると、
「あ」
立花の口からそんな音が漏れた。
続いてさーっと顔から血の気が引いていき、
「ご、ごごごごごめんなさい! その、あのっ! い、いいいいいいい出雲さんの画面のぞいてい、いました!」
言って、立花はおれにつむじを見せた。要するに頭を下げた。今気づいたが立花にはつむじが2つあるのだなぁ。
「いやべつに気にしないから。それを言ったらおれも立花がなんの勉強してんのかときどきのぞくし」
そりゃ、もちろんエロマンガを読んでるときとかはのぞかれたら困るけど、基本的にそういう困るものは一人の時しか見ないしな。まあ、LINEのトーク画面とかは誰か周りにいても開くけど他人に見られたりすると居心地が悪かったりするから必ずしもそうとも言えないか。
ともかく場合によるとしか言えないが、今回のケースに限っては全く問題ない。
すると先ほどの青くなっていた顔から一転、やや染まった立花の顔がわずかにのぞく。
「そ、そうなんですか?」
「ああ。見てる見てる超見て・・・・・・いや・・・・・・今のは嘘で、ほんとはたまーに、だけど」
「そ、そうですか」
フォローしようとして自分で言いすぎたことに気づいたおれは、恥ずかしくなって明後日の方を向くと慌てて言い直す。立花はぽっ、と染まって再び瞳を黒髪の奥に隠す。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
気まずくなったおれは口を開く。
「・・・・・・あれか? 立花も最近短編書くのか?」
「あ、は、はい。新入生歓迎冊子用に書きました」
立花が顔を上げこくりとうなずく。
「へー新歓用の冊子か」
「は、はい」
「・・・・・・」
「・・・・・・・」
「で、新入生入った?」
ほんの少し間を置いて意を決したおれは尋ねる。部員が0にならない限り廃部になることはないが、やはり自分が入っていた部活のことは気になるのだ。しかも人気のある部活ではなく文芸部なんていう、新入生が割と入ってこないこともある部活なのだからなおさら。
「は、はい。入りましたよ」
おれはその答えにひとまず胸をなで下ろすがまだ油断は出来ない。
「ちなみに何人・・・・・・?」
「ひ、1人、です」
「・・・・・・1人かぁ」
「ご、ごめんなさい・・・・・・」
「いや、立花のせいじゃないだろ・・・・・・そんなこと言ったらおれが2年の時新入生0人だったし」
「そ、そうでしたね・・・・・・」
「・・・・・・うん、まあ」
お通夜みたいな空気になるおれと立花。
というか立花おれの自虐に対して正直すぎでしょ・・・・・・事実だからいいんだけど。
「・・・・・・うん、まあ、ともかく、なに・・・・・・0人じゃなくてよかった」
「そ、そうですね・・・・・・」
それからは特に会話が弾むことなく、おれはラノベを読み、立花は勉強をした。今日は立花が最初に帰った。
明日はゴールデンウィーク最終日! 満喫するぞ☆
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