第11話 チョコ菓子大好きなめちゃくちゃかわいい小動物系女子高生に勉強教えるよ
べつにだからと言ってなにもないのだが、立花の姉がおれと同じ大学であることが判明した日の翌日。
おれは短編執筆のラストスパートをかけるべく、やはりスタバに来ていた。
これまでのように後からやってきた立花と軽くあいさつを交わして、互いに無言で過ごすことしばし。
ふととなりを見ると立花のペンが止まっていたので、ついでに問題を見てみれば数学の問題をやっていた。例によって即座に解答への道筋を見いだしたおれだったが、口を出すべきか迷う。立花が十分に考える前に口を出してしまったら立花のためにならないみたいな問題があるからな・・・・・・。
少しだけ悩んだおれはとりあえず様子を見ることにして、立花から視線を切ると同時に、視界の隅で立花が答えを取り出しぺらぺらとめくり始めたのが見えた。
・・・・・・それなら、ヒント出せばよかったな。
そんなことを思いつつ、ヒロインの心情に思いを馳せていると立花が答えを前に、やや頭を傾け眉間にささやかなしわを寄せているのに気づいた。答えが理解できないのだろうかと思いつつ見ていると、ぷくーっと立花のほっぺたがふくらんでいき、最後にはふぐみたいになった。続いて立花は左のほっぺたを人差し指でぐいぐいする。そしてさらに頭が傾く。ぐいぐい押してない方のふくらんだほっぺたが今にも机に触れそうだ。
・・・・・・よく分からないが要するに、立花は答えを理解できなくて困っているのだろう。
かわいい悩み方するなぁ、とひっそり思いつつおれは口を開く。
「どこが分からないんだ?」
「!?」
立花の肩がびくぅっと跳ねて、それと同時にほっぺたから空気が抜ける。
「あ、しぼんだ」
「っ~~~~~~~~~!?」
残念に思ったおれが半ば反射的にそれを指摘すると、立花のもちみたいなほっぺたが今度はみるみる赤くなっていく。
「あ、ごめん」
「あ、い、いいいいいいいえ!? 気にしないでください!?」
そんなことを言いつつ下を向いてしまう立花。なにやらあうあう言っている。
そんな立花に申し訳なくなってきてこのまま傍観していることに居心地の悪さを感じ始めたおれは母親が好んで食べるために家に大量に常備してあるブラックサンダーを取り出す。立花にキットカットをもらって、糖分を補給したことによっていつもよりも筆が捗った気がしたので持ってきていたのである。
「・・・・・・おわび。いる?」
言ってノートの手前に置く。そのまま立花がしゃべるのを待っていると、気を遣って受け取られなさそうなので続けて言う。
「まあ、甘いものでも食べれば気が紛れるんじゃねえかな、と。立花甘いもの好きそうだし」
キットカットをバカみたいに食べてたからな。
「・・・・・・!」
下を向いたままの立花におれは不安を覚え始める。
「あ、いらなかった?」
「!? (ふるふる)・・・・・・!」
おれはその反応にこっそりと息をついて、立花が回復したとき、立花に問題の答えを上手く理解してもらうために伝え方を考える。
それを終えたおれが短編のヒロインの心情に再度思いを馳せながら待っていると、立花がおれの方を見ないようにゆっくりおずおずブラックサンダーに手を伸ばし包装紙をびりっと破る。そしておれの方をちらりと見て「いただきます」と小声でつぶやき、はむさくっとかじりついた。
「!」
こっそり横目で見た感じ、おいしそうに頬を緩めている様子の立花におれも思わずにやけつつしばらく画面と向かい合っていると立花が食べ終わったようだった。
「あ、ありがとうございました。・・・・・・お、おいしかったです」
「いや、まあ、おれも変なこと言って悪かった。おいしかったのならなにより」
「い、いえ」
「なんならまだ持ってきてるけどいる?」
「!? あ、え、あ!? い、いえ! だいじょうぶです!?」
おれの問いに一瞬顔を輝かせたのを見逃さなかったおれは、必死に否定する立花に笑いそうになりつつかばんから取り出したブラックサンダーを立花の前に置く。
「どうぞ」
「!!!!!!」
立花の顔が真っ赤に染まる。
しかし今度は下を向かず、かばんをごそごそやるとおれの前にキットカットを置いた。
「ど、どうぞ」
「お、悪いな」
おれがキットカットを食べ始めると、立花もブラックサンダーを食べ始めた。
甘いものを食べてにこにこ立花が、きゅきゅっと口許についたチョコレートを拭ったのを確認しておれは口を開く。
「で、立花の分からない解説はこれか?」
「!?」
おれが指差しながら視線で問うと立花はびっくりしたようにおれの方を向く。しばらく首をかしげるおれと見つめ合っていた立花だったが、やがて頬をじんわりと赤く染めると顔を少し逸らしてこくりとうなづいた。
「なるほど。で、どの辺りが分からないんだ?」
おれもそれを見てうなづき解説の方に視線をやって尋ねる。それに合わせて立花が「こ、ここです・・・・・・」と人差し指をそっと書かれた文章に添える。示された場合分けの条件に、まあ要するに書かれているように場合をわける理由が分からないのだろうと解釈したおれは少し戻って順番に立花の反応を見ながら解説していく。
かばんからコピー用紙を取り出し、数直線を書いたり、グラフを書いて言葉を添える。基本はしっかり理解していたので、めちゃくちゃ詰まるということはなかったがまあ数学苦手なんだろうなぁという感じだった。
「いけた?」
「は、はい!」
「よかった」
俺に気を遣って理解したと嘘をついている様子もない。
「あ、ありがとうございました・・・・・・!」
「ああ、うん。まあ、おれも気分転換になって楽しかったし」
「そ、そうですか・・・・・・?」
「ああ」
不安そうに揺れる瞳におれはしっかりうなずく。
「ずっと作業してるんだけど、ちょうど詰まってたとこだったから」
「そ、そうですか」
「ああ。だから、まあ、理解できないところがあったら遠慮なく聞いてくれ。教えるの嫌いじゃないし」
「は、はい」
言葉を重ねるおれに呆気にとられたようにこくりと首を縦に振る立花。
これぐらい言っとけば気を遣って聞いてこないようなこともないだろう。
それからしばらくは同様に数学をしていた立花だったが学校から出された簡単めな課題をしているのか大きく詰まる様子もなく解いていた。そういうわけでその日はそれ以上、教えることはなくおれは席を立った。
「じゃあおれ、帰るわ」
「あ、はい。お疲れ様です」
ぺこりと軽く頭を下げた立花におれも会釈を返して帰路につく。
踵を返したところで頭をよぎったことがあったので言っておく。
「あ、お礼のキットカットいらないからな」
「ぇ・・・・・・?」
「・・・・・・やっぱりもらおうかな。明日楽しみにしてる」
「は、はい!」
どれだけ立花はおれにキットカットをあげたいんだ。
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