青が短い季節に 月亮編


「おやすみ私の愛」

おやすみ私の愛、愛してるとは言わないわ。今日も永い永い夜だけど、会えるいつかの日を思って過ごすね。もしも今、これがお別れの瞬間なら、口元に浮かべた天使のキスをなくしてしまうかもしれない。堪えたはずの涙も頰をつたって、あなたの誓った永遠はにせものになってしまうかもしれない。それでも別れを選ぶと言うのなら、さようなら私の愛、元気でいてね、あなたの残した傷は消えることはきっとずっとないだろうけど、立派に生きていくわ。そう、伝えるはず。



「Heart」

あなたの聴いた歌、あなたの口ずさんだ歌、あなたのそばに留まったであろう歌。最近は夜が心地いいといいますね、あなた、怖がらないでという言葉があまりにも近くにあったあの頃とは、何かが確かに変わったのでしょう。永遠という波音、愛するという丸よりももっといいものがあればと口にしたあの日を私は決して忘れない。絶対に、忘れない。今夜届いたあなたの新しい愛の形を私はまた記憶するし、この愛を受け取ったことがわかるよう、温もりを飛ばします。



「それは、また今度」

傷だらけの姿を突き放さないで。目を閉じなきゃ見えないものなんて所詮掴めやしなくて、触れることさえままならないけど、でもそれが君の幸福だっていうのなら、私は否定しないよ。ありのままを愛そうね、そのまんまの自分を愛そうね、夜は私達を息苦しくさせるけど、青になろうと遠くに行くのは先送りにしてただ今は、生きるんだ。



「水に溶けた、あるいは透明のもの」

ピアノの音が聞こえたら、僕達あの丘の上で会うんだよ、待ち合わせするんだ。もし雨が降っていても雪が降っていても、曇っていても晴れていても、必ず、あの丘で会おう。そう約束したあなたは、あの日あの丘の上にはやってこなかった。小さな頃は裏切られたと酷く腹を立てていたけれど、今は違う。その理由を見つけようと必死になってるわ。町中の人をたずねてもみんな知らないとだけ言って、私から目を逸らしてた。あなたは今どこにいますか。風に綻びる口元を初めて見たときは、私、この胸が、内側が、酷く揺さぶられたのを覚えています。もう一度だけ。もう一度だけ、ちいさな愛を交わしたい。あなたは今どこにいますか。



「大好きで、大嫌いなあなたに」

あなたを忘れることにしました。いつだって柔らかい笑みを浮かべてくれたあなただったけど、その瞬間がたまらなく幸福を生んだけど、それと同時にあなたが、大嫌いでした。大好きと同時に、あなたを嫌っていました。おかしいと笑ってくれてもいいです、怒ってもいいです。好きが嫌いに変わることほど、悲しいことはないと、お母さんも言っていたっけ。羽のような歌声も、最高な歌声も、もう聞きたくはないから、勝手に離れる私を、憎んでいてください。



「私だけの物語」

夜が来れば君は現れて、かなしみを食べていってくれる。私の代わりに私を、愛してくれて、ちゃんと叱ってくれるいいひと。苦しい時に苦しいと言わなくて、痛い時に痛いと言わなくて、どうして黙ってるのかと、どうして何も言わないのかと怒ってくれたひと。初めて私と向き合ってくれたひと。出会った季節は春で、不完全な私を温かいと言ってくれた妖精さんも、そこにいた。これからきっととおい星のきらめきがやってきて、愛を交わすことになるんだと、私は信じて疑わない。



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