13.最強さん、の記憶。

 ――生まれたときの記憶がある。


 そんな彼の言葉に対し、彼女は言った。


「へー。何かの啓示でも受けましたか?」


 言わなきゃよかった、と彼は後悔した。


「……聞かなかったことにしてくれ」


「いやいやいやいや、そこまで言っておいて言わないって無しですよ先輩! ほら、どんな神秘体験をしたのか聞かせて下さい!」


「……母親の声を聞いたってだけだよ」


「ははあ、先輩のお母様ですか。どんな方なんですか」


「知らん。なんか協会長だったらしいけど、俺が生まれたときに死んだから」


「…………」


 彼女は笑顔のまま凍り付いた。「あ。やっべ」と考えている気配が伝わってくる。冷や汗を垂らしながら、彼女は何とか口を開いて言った。


「先輩。十秒だけちょっとアレなことしていいんで、チャラにしてくれませんか?」


「やめろ」


「だってこれじゃあ、私が空気読まず地雷踏んだ奴みたいじゃないですか! 最初からこれが狙いでしたね! はめられた!」


「誰が思うんだよそんなこと」


「さーて。先輩は十秒の間に一体、私に対してどんなやらしいことをしてくるのか、それとも、何もできないのか――こいつぁ見ものですね。はい、今からスタート! スタートですよ先輩!」


「一人でやってろ」


「なるほど。放置ぷ――」


「黙れ」


 精神を落ち着かせるため、大きく息を吐いて、ゆっくり息を吸うことに十秒間を費やしてから、彼は言った。


「……だいたい、探索者で親のことを知らない奴なんて、ざらにいるだろ。俺の場合、片親は生きてるし、母親についても、多少、どんな人間か知ってるってだけでもマシだろ」


「そういう単純な比較の問題じゃないでしょう。こういうのは」


「かもしれんが」


「まあ、確かに私も、自分の親のことなんてまったく知りませんが」


「……そりゃ、悪かったな」


「先輩にそんな顔させておいて恐縮ですが……私みたいなのからすると、ぶっちゃけ、その方が気楽ですよ」


「それは――」


 どうなんだ、と言いかけたところで、自分と父親の関係を思い出して口を噤んだ。


「――そういうもんか」


「ろくでもない親ならいなかったことになってる方がまだマシってもんです」


「気持ちは――わからないでもないな」


「は? 何を言っちゃってんですか? 先輩のお父様って、時期協会長候補の筆頭でしょう? 親として最高じゃないですかふざけんな」


「生憎と仲が悪くてな」


「頑張って修繕して下さい。私の玉の輿プランが台無しになるじゃないですか」


「お前は本当にたくましいよ」


「でしょう? ところで先輩、一つ――ちょっと聞きづらいことをお聞きしても?」


 と、そこで彼女は珍しく口ごもった。

 だからその時点で、予想できていた。


「先輩の、お母様のことなんですが……」


「何だ」


「えっと、その、ですね」


「だから何だ。言えよ」


 そう促すと、彼女はこちらが予想した通りの質問をしてきた。


「先輩――」


      □□□


「先輩――私、生まれたときの記憶があるんですよ」


「ほほう」


「実は意外なことに、私には親がいないんですが」


「重い話題を気楽に話してもらったところ悪いが、後にしてくれねえか?」


 銃声が響く――連続して。

 ダンジョンのモンスターがたまに装備している、ダンジョン産の銃火器の特徴だ。

 探索者たちが使っている銃火器とは異なり、射撃の際に、弾丸を送り込むために必要な一連の操作を必要とせず――さらには高速で連射できる。


 ちょっと冗談みたいな代物だ。


 その大半が動作不良に陥っているか、銃弾が劣化しているかで使い物にならなくなっているが――作動する良品を「熊」なんかが装備していたりすると、最悪、それ一つで威力探索チームが一瞬で壊滅状態に陥る。


 今のところ、その機構は再現できていない――と、魔術学院側は主張している。

 が、まあたぶん嘘だろう。

 確実に試作品は完成させているだろうし、量産化していても驚くには値しない。

 協会と同様、国家から独立した組織である魔術学院は、ダンジョンから解析して作り出した武器の製造法を各国に伝える一方で、有事に備えて、その手のより強力な兵器を複数隠し持っている。


 それはともかくとして。


 今現在、そんな物騒な銃火器を発射してきているモンスターの姿を遮蔽物の影からそっと覗き見る。

 

 一言でいうと箱だ。


 もうちょっと正確に言うなら、一つ目と四本脚の付いた四角い箱の上に銃火器が乗っている。そして、それ以上は特に説明することがないただの箱だ。


 故に、探索者たちはそのまんま「箱」と呼ぶ。だってどう見ても箱だし。


 ダンジョンで探索者が遭遇するモンスターの中では、戦闘力は最弱の部類だ。

 というか、そもそも今回のように武装していない場合すらある。どうもバリエーションに富んでいて、脚も六本だったり車輪だったり「履帯」と呼ばれる特殊な魔術機構だったり八本だったりするが、基本的に戦闘力の低さは変わらない。

 防御力は皆無で、上手いこと当てなければ銃弾を弾いてくる「熊」とは異なり、上手いこと外さなければほぼ確実に破壊できるか、破壊できなくても無力化できる。

 動きも遅い。

 乗っかっている銃火器は固定されているため、こちらに照準を合わせるためには本体の方で動く必要があるらしいが、その動きが、ごく一般的な人間の動きにまるで追いつけない。思いっきり横に走るだけでも照準を外すことができる。

 何なら、回り込んでいって、背後から近づいて思いっきり蹴飛ばしてやるだけでも撃破可能だ。蹴飛ばす代わりに銃の方をもぎ取ってやれば、捕獲すら容易い。

 実際、魔術学院には捕獲された「箱」が余るほど大量にあるようで、魔術者によって改造された「箱」が連中の作業を手伝っていたりするらしい。

 ただし、とここには一つ注釈が付く。


 単体では。


 そして、「箱」が単体で現れることはまずない。一体いればまず確実に追加で十体くらいわらわら出てくる。そしてそれらが武装した「箱」である場合、一斉に放たれた大量の銃弾が嵐となって探索者に襲いかかってくる。

 さすがに「熊」には及ばないものの、探索者の死因の上位に食い込んでくるのが、武装した「箱」の集団との遭遇戦だ。

 「箱」の一機が動くのが見え、とっさに頭を引っ込めると、再び銃声が連続する。


「武装した『箱』がいるなんて聞いてないんですが」


 一番死亡率が高いとされる遭遇からの数秒間を何とか生き抜いたグレイは荒い息を一つ吐いてから、肩に乗っているちっこい元右手に向かって言った。


『いや、いなかったんですって。元々』


 と、元右手ことリィルは答える。


『たぶん、相手の戦術AIが保管庫から引っ張り出したキューブにFCSと銃火器を装備させて、即席の兵隊にしたんでしょう。なかなかどうしてやってくれます』


「すみません。俺、魔術者じゃないんで一部何を言ってるかわからないです。説明して下さい」


 そう言ったがリィルは無視した。その代わり、すぐ隣にいるメトが銃に弾丸を送り込みながら、


「でもですね、予想はできたのでは――おっと」


 かあん、と。


 遮蔽物の影から射撃しようと顔を出して、即座に引っ込めたその頭の上。ヘルメットの上部を銃弾が掠め、良い音を立てながら明後日の方向に飛んでいった。

 彼女は、ふむ、と一つ頷いてから一度ヘルメットを外し、銃弾が掠めた傷を確認した後で、ふむ、ともう一度頷いて、


「……何か、この『箱』、やけに狙いが正確じゃないですか?」


『なかなか良いFCSを使ってるみたいですね。相手の戦術AIの支援も利いてますから、普通の適当に並んで弾幕張ってくるだけのキューブよりも配置に隙がありません。下手に頭を出したらヘッドショットされますよ』


「それ先に言うべきじゃないですかね?」


 先程ヘルメットも付けずに頭を出した彼は思わず言ったが、やはり無視された。

 薄々気づいていたことだが、この元右手――および本体は、どうも自身が特殊であるが故に、その基準で物事を考えている節がある。微妙に当てにできない。


「というか、先輩」


 と、メトが聞いてくる。傷物になったヘルメットを被り直しながら、


「さっきの竜は即座に倒してたのに、『箱』相手だとできないんですか?」


「的が小さいとどうしてもな――絞りずらい」


「絞りづらい?」


「だから、全部一塊にまとめて――」


「まとめる?」


 メトの疑問には答えず、彼は呟く。


「――■■■」


 瞬間、能力が発動する。

 こちらに向かって放たれていた連続する銃撃の音がかき消え、大量のガラクタをぶちまけたような音が続いて、それから沈黙がやってくる。

 メトが再び、ちょこん、と頭を遮蔽物の裏から出して確認し、


「全滅してます」


『ふう……作戦通りですね』


「随分と行き当たりばったりな作戦ですね」


 彼も遮蔽物からのそのそと這い出て、原型を留めない程ばらばらになっている「箱」の残骸の山を確認する。


「ま、こんなもんか」


「妙ですね」


 と、メトが言った。


「何がだ」


「先輩が強キャラっぽく見えます」


「ああ、うん。お前が俺を馬鹿にしていることは分かった」


「いえいえ。先輩のことはちゃんと尊敬してますよ」


「それはそれでおかしいだろ。つい最近初めて会ったばかりなんだから」


「細かい矛盾は気にしないでください――ともあれ、これならもうきっと楽勝ですね。さあ、私の汚名を晴らすためにも頑張って下さい。先輩」


「お前もな」


 「箱」の残骸を踏み越え、先頭に立って進むメトに告げる。案内役は彼女なので必然的にそうなる。そして当然、先頭は死ぬ可能性が比較的高くなる位置だ。


「安心して下さい。こう見えて私はしぶといのでたぶんきっと死にませんし、先輩もどうやら自称最強(笑)ではなかったようなので、死なないでしょう。これで私ももう、死神(怖)なんて分不相応な異名とはおさらばです」


「状況は一応聞いてるが」


 元々、このダンジョンはすでに探索済みのダンジョンだ。調査はすでに完了しており、詳細な地図も完成している。ちなみに彼は知らないことだが、フーコとマリーが駅舎から侵入できたのもそのためだ。

 もっとも、単純に劣化したり、あるいはダンジョンそのものに複雑な魔術装置が組み込まれている場合は変に自己修復したりするので、定期的に探索路の確保とメンテナンスのために調査のための探索者が送られる。

 というわけで、メトの部隊の任務は極めて危険性が低く、よって、貸与された装備も集められた探索者もそれなりの部隊だった。例え、現れたのが「熊」一体だったとしても苦戦していただろう。


 そこに竜数体の襲撃である。

 おまけに魔術霊の支援付き。


 幾ら半壊している自我を失っている個体ばかりだったとしても、竜は竜だ。まあ全滅するに決まっている。するはずだ。


 実際は、そうなっていない。

 メトが生き残っていたから。

 メトだけは生き残ったから。


「どんな手品を使ったんだ?」


「死んだふりです」


「ふざけんな」


 竜は目や耳や、その他魔術的知覚によってで人間の生死を判別する。死んだふりは通用しない。直後に本当に死体にされる。


「まあ、普通の竜ならダメだったかもですけど。今回の竜って……ええと、魔術霊でしたっけ? その指示を受けて行動してるんでしょう?」


「らしいな」


「そのせいか、なんか統率が取れてる気がしたんですよ。だから暴走してる普通の竜みたいに執拗なまでに破壊を続けるような無駄な行動はしない――そう考えました」


「……」


 思った以上に的確な判断で、彼はちょっと驚く。もしかして、目の前のヘルメットの少女は、こう見えて意外と――


「というわけで、あたかも錯乱したかのように大声でわけのわからないことを叫びつつ、障害物除去用の爆弾を抱えて近くの建物に突っこみ、自爆。瓦礫の下敷きになるという熱演でことなきを――」


 ――いや、やはりやべー奴だった。


「何で生きてるんだ」


「瓦礫の下敷きになって生き延びるのは得意なんです。コツがあるんですよ。何たって、瓦礫の下から生まれてきましたからね。私は」


「どういう意味の比喩だ。それは」


「いえ? そのまんまの意味ですけど」


「は?」


「記憶喪失の状態で、瓦礫の中から見つかったんです。私」


「え」


「そんなことより、『熊』はいないんですかね。リィルさん。一応、鈴は持ってきてるんですけれど」


『いませんよ。事前調査で判明してます』


「フラグですよそれ」


「いや待て。重要そうな話をさらっと言っておいてスルーするな。話を進めるな。戻せ。説明しろ」


「瓦礫の下敷きになって生き延びる方法ですか? いいでしょう。では、まずはヘルメットを被って下さい。後は押し潰されないことを祈りましょう」


「違うそこじゃない」


「そうでしたそうでした。私、両親がいないんですよー」


「今度はまた随分と戻ったな……まあいい。それで?」


「は? それだけですけれど」


 まるで会話にならない。

 諦めようとしたが、その直後に、相手の方が口を開いた。


「そうです。そうでした。私、記憶がないんですよ先輩」


 やっと話が繋がった。そう思ったが、


「すごくないですか?」


 直後に会話が理解できなくなる。どうもこのヘルメット少女の思考は彼の理解の外にあるらしい。


「すごくはないと思うけど……」


「なので、厳密には両親以外にもいたかもです。個人的には格好良くて優しくてでもちょっと抜けたところのあるお兄ちゃん希望です」


「話が進まねえぞおい」


 何だろう。話している量に比して内容がまったく入ってこない。話の順番がぐちゃぐちゃ過ぎる。解読する誰かが必要だ。彼はそっと肩のリィルに視線を送った。元々、このやべーヘルメットを連れてきたのは彼女(の本体)だ。


『なんですかグレイくん。褒めてもらいたんですか? しょうがないですねえ。それじゃあ、おねーさんが頭なでなでしてあげましょう。ちょっと頭を下げてください』


「要らねえよ」


 通訳は期待できそうにない――ここは諦めて、自分の力で未知のヘルメットとコミュニケーションを取るしかない。


「瓦礫生まれとは言いましたが」


 また話が明後日の方向に飛んだ。


「正確にはダンジョン生まれですね」


 そしてまた理解できない話が出てくる。


「何だそれは。どういう意味だ」


「ダンジョンが新しく出現するときに、たまに元の位置にあった町や村を飲み込むじゃないですか」


「ああ」


「私はそんな状況で発見されたわけですよ。ちなみに名前の由来はそのときしっかりヘルメットを被っていたからです」


「じゃあ、そのヘルメットはそのときから被ってる大事なヘルメットなわけだ」


「は? 何言ってんですか? そのときのヘルメットは捨てたに決まってるでしょう? 知らないんですか? ヘルメットは消耗品なんですよ? 今回のもちゃんと新品です。常識ですよ」


「お、おう、そうか……ええと、その、つまり、その飲み込まれた村や町の人間なんじゃねえのか?」


「その可能性が高いですが。っていうかたぶんそうなんでしょうけれど。私の方の記憶もないですし、記録の方もダンジョンに呑まれて跡形もないわけで、実感としてはダンジョン生まれですね――それに、こうは考えられませんか? 先輩?」


「……何だ?」


「ところで、何となく今、私たち誘いこまれている気がしませんか?」


「今さっきしてた話の続きは!?」


「ああ、はい。そんなわけで、駄目野郎かと思っていた先輩の強キャラ化に戸惑っている私です。強すぎでしょ。どうするんですか。『一言呟く。相手は死ぬ』とか。いろいろとバランス取れませんよ」


「違うそこじゃない!」


 こいつヘルメットむしり取ってやろうか、と思った直後、


「あ、先輩。ちょっと失礼」


 と、言うなりメトがいきなり抱きついてきた――というのは、かなりオブラートに包んだ表現で、ほぼほぼ体当たりを食らわせてきた。ちょうどいい具合にヘルメットが彼の鳩尾にめり込み、彼は「げふぅっ!」と雑魚キャラみたいな叫びを上げ、そのまま為すすべもなく地面を転がる。


 直後、頭上を掠める銃弾。上下左右がもみくちゃになった視界の端に「箱」の姿。


「やっぱ誘いこまれてません?」


 と、メト。


「……かも、な」


 と、鳩尾の痛みに耐えつつ、途切れ途切れ何とか返す。どうやら助けてもらったらしいがもう少し別の方法はなかったのかふざけんな、という言葉を出す余裕は色んな意味でなかった。


「それで、さっき言った、私には生まれたときの記憶があるという話ですが、」


 今はそれどころじゃないどこか隠れる場所を、と周囲を見回してぐるぐるとのたうち回っていると、腕を引っ張られた。


「要はダンジョンで目を覚ましたときの記憶が、私に残っている最初の記憶で、」


 何やってんですかこっちですよ先輩、と腹が立つくらい的確な遮蔽物に彼を引っ張り込んでから、言った。


「探索者になりたい、というのが生まれたばかりの私が一番最初に考えたことです」


 つまり、私はダンジョンの申し子なのですよ。


 そう言ったメトは、なぜか腹が立つくらいのドヤ顔で――彼はやっぱり後でヘルメットをむしり取ってやろうと心に決めた。


      □□□


「――先輩のお母さまは」


 と切り出したところで、彼女は視線を逸らした。続く言葉をためらって、代わりに、別の質問をしてきた。


「その……何て言ってたんですか?」


「たった一言だけ」


 彼は呟く。たった一言だけ。



「―――■『■[■(■<■{■……/■……/■…?}>■<■{■……/■…?}>■<■{■……/■……/■…?}>)■(■<■{■……/■……/■…?}>■<■{■……/■……/■…?}>■<■{■……/■……/■…?}>)■(■<■{■……/■……/■…?}>■<■{■……/■……/■…?}>■<■{■……/■……/■…?}>)]』■『■[■(■<■{■……/■……/■…?}>■<■{■……/■……/■…?}>■<■{■……/■……/■…?}>)■(■<■{■……/■……/■…?}>■<■{■……/■……/■…?}>■<■{■……/■……/■…?}>)■(■<■{■……/■……/■…?}>■<■{■……/■……/■…?}>■<■{■……/■……/■…?}>)]』■『■[■(■<■{■……/■……/■…?}>■<■{■……/■……/■…?}>■<■{■……/■……/■…?}>)■(■<■{■……/■……/■…?}>■<■{■……/■……/■…?}>■<■{■……/■……/■…?}>)■(■<■{■……/■……/■…?}>■<■{■……/■……/■…?}>■<■{■……/■……/■…?}>)]』」



 彼女には理解できない一言。


「……今のって」


 それを聞いた彼女は言った。


「私にも分かるよう説明ってできます?」


「できない」


「でしょうね」


 この世界の彼以外の他の誰にも理解できない、その一言を聞いて。


「それが」


 と、彼女はこちらを見て言った。


「先輩が、先輩自身のスキルを始めて自覚した瞬間ですね?」


「そうだな」


「やっぱり、私が睨んだ通りでしたね」


 いつだって、こちらを見透かしているような目を細めて、彼女は笑った。


「先輩は、


「何のことだかさっぱりわからないな」


「そですか。……ねえ、先輩」


 そして、今度は聞いてきた。


「お母様の死因ですけど――」


 だから聞かれる前に答えた。


「――『俺』だ」

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