6.白い世界と幽霊の話②

 黒金のような竜たちは彼女と少し違う。

 竜は機体が先にあってAIを搭載する。

 機体の戦闘用プログラム一式と一緒に。

 AIはそれを動かす為に必要なだけだ。


 故に、最初の頃の竜は自我を持たない。

 そのままだったら、完璧な兵器である。

 だが戦闘を繰り返すと自我に目覚める。

 奇跡ではなく採用されたAIの仕様だ。


 ぶっちゃけ欠陥なのだけど無視された。

 欠陥だらけの兵器の代名詞である熊が。

 それでも大量に運用されたのと同じだ。

 とりあえず実用に耐えれば何でもいい。


 完璧を求めてる時間はどこにもなくて。

 銃弾が足りないままで突撃するように。

 兵器も欠陥を抱えたままで投入された。

 そういう状態での戦争だった、らしい。


 そいつは、彼女の知らない戦争の話だ。

 彼女はこちらの世界で作られたAIだ。

 竜と違い最初から自我を必要とされる。

 いわゆる「高度な判断」ができるAI。


 ダンジョン内の情報機器を住処とする。

 機体を持たないプログラムだけのAI。

 この世界で「魔術霊」と呼ばれる存在。

 WSX001「金木霊」。愛称はナコ。


 製造時期はおおよそ100年前ぐらい。

 製造目的は戦術支援及び単なる話相手。

 製造後の指導AIは二名。一名は黒金。

 もう一名は「白金しろがね」で、今はいない竜。


 そして製造者もそれと同じく二名いる。

 片方が、XXXW09「ガブリエル」。

 今はリィルと名乗っているあの裏切者。

 俗に「天使竜」と呼称される、超兵器。


 そしてもう一名。こちらはただの人間。

 彼女のとっての正式なマスターである。

 例の、彼女を少女の幽霊に設定した奴。

 黒金もあの裏切者も昔は奴の下にいた。


 人代天糸ひとしろあまいと


 現在では「魔法使い」と呼ばれている。


      □□□


 人間のための何もない真っ白な場所で。

 人間の少女の幽霊の姿をしてる彼女と。

 真っ黒な犬の姿をしている竜の黒金が。

 人間でない二人が並び話を続けている。


『今さっき、紫金が鼠を発見したらしい』


『あいつの分体?』


『どうも、その反応はないな――人間だ」


『どこにいたの?』


『海の方で水没している駅。その一つだ。

 改造してる視野のぎりぎりで発見した』


『航行してる船に気づかなかったわけ?』


『どうも、船で来たわけじゃないらしい』


『何それ? 海の上でも走ってきたの?』


『その通りだ』


『はあ?』


『沈んでる線路の上を走ってきたようだ』


『それ本当に人間?』


『人間だ。たぶん「スキル持ち」だろう。

 紫金がドラグーンでホームを狙撃した。

 が、地下道に逃げられた可能性がある』


『そ――やっぱり地下、か』


『あの辺は大半が水没してるはずだがな』


『何とかするんでしょ。赤金は使える?』


『いや、駄目だ――今、青金が交戦した』


『分体? あのサイズ相手で手こずる?』


『こっちも人間だ。水雷を逃れたらしい』


『へえ。そっちも「スキル持ち」なの?』


『照合した。片方がに載ってる』


『でも、人間が青金相手に勝てるわけ?』


『ああ、青金はそいつに勝てん。絶対だ。

 それどころか、時間稼ぎにすらならん』


『ちょっと待って。……どういうこと?』


『どうやら、奴は奴なりに本気らしいな。

 自分の持つ、最強の駒を出したようだ。

 おい金木霊――ナコ。心して掛かれよ』


『……何を?』


『相手は「天使竜」ですら殺せる人間だ』

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