第33話 冒険者ランク更新
「それではこちら、ミュルニアさんからの報酬になります!」
遺跡の探索――本来は冷蘭草の採取依頼――から帰った俺たちは、その日はギルドに報告だけして解散となった。
そしてその翌日、俺とユアルはその報酬をもらう為にギルドへと足を運んでいた。
そんな俺たちの前に受付のトリシュさんが持って来たのは、両手に収まらない大きさの金貨袋だった。
「……えっとこれは」
「仲介料ならびに手数料、各種保険や税などで約二割は事前に徴収させていただいております」
「あ、はい……」
俺は袋の口を開けて中を覗き込む。
すると中には金貨が詰まっていた。
……大金だ。
「……あ、これもしかして二人分ですか?」
「いえ、ユアルさんの分はこっちです。金額に差はありませんよ」
そう言ってもう一袋持ってくるトリシュさん。
一袋の中に入った金貨の量は、騎士だった頃の俺の数ヶ月分の給料に匹敵した。
「……何かの間違いでは?」
「いえいえ、たしかにEランクの冒険者としては破格の報酬ですが、それ相応の活躍があったと報告を受けています。ミュルニアさんから特別報酬が上乗せされているんです」
ミュルニア……。
脳裏に彼女のおちゃらけた笑顔が蘇る。
……あいつ、いいやつだったんだな……。
この場に彼女がいたら”今更!?”とか言われそうな失礼なことを考えながら、俺はその報酬を受け取る。
……しかし商人でもあるまいし、常にこんな量の金貨を持ち歩くわけにもいかないな。
そんな俺の考えを見透かすかのように、トリシュさんは口を開いた。
「報酬をそのままお預けになることも可能ですよ。ただしこのご時世、何があるかわからないので分割して保管することをオススメします」
預けておくだけでなく、現金や資産に変えて持っておけということか。
まあギルドの仕事は金を預かるのが本業じゃないのだし、当たり前か。
俺がそんなことを考えていると、ユアルが報酬の金貨袋に手を添えた。
「ではこちらを預けます!」
「はい、わかりました。口座を作って入れておきますね。ギルドで支払いが必要になった場合、そこから差し引かれることになります」
「はい、よろしくお願いします」
そう言って全額預けるユアルに、俺は小声で尋ねる。
「おいユアル、べつに財布まで俺と一緒にする必要はないんだぞ」
俺の言葉にユアルは笑顔で首を傾げる。
「でも一緒の方が効率は良くないですか?」
「まあそれはそうだが……」
「無駄遣いしちゃダメですよ、エディンさん。わたしのお金でもあるんですからね」
「お、おう……」
俺はそう言いながら、手持ちの分を二人で分けることにする。
……たしかに俺はしばらくユアルの面倒を見ると言ったし、パートナーとして共に冒険者の仕事をするとも思うが。
でも財布を一緒にしてたら、ユアルが一人立ちできないのでは……?
そんな疑問が心の中に渦巻いていたが、トリシュさんの言葉でその考えは打ち切られた。
「エディンさん、一つお伝えしなくてはいけないことがありまして」
「え? なんです?」
俺が尋ねると、トリシュさんが少し言いにくそうに言葉を続けた。
「冒険者ランクのことです」
冒険者ランク。
初心者はEランクで、冒険をこなし実力を認められるごとに上がっていく。
一流冒険者ともなればAランクとなるとか。
……もしかして俺があまりにふがいないばかりに、Eランクより下のFランクに格下げになったとかそういう話だろうか。
ユアルも戦力にならないわけだし、ありえない話でも――。
そんな悪い想像をしていた俺に言われたのは、予想外の言葉だった。
「実は……ロロさんが、お二人をAランクに推薦していまして」
「……はあ?」
俺は思わず間抜けな声をあげてしまった。
Aランクて。
俺はロロみたくグールを一太刀で切り伏せたり、間合いを無視した多段斬撃なんてできませんけど?
俺の驚きの声を気にせず、トリシュさんは言葉を続ける。
「ロロさんが言うには、エディンさんは単純な戦闘力こそCランク相当なものの、状況判断能力や冒険者として有用な知識の多さ、そして武器として魔剣オーディナル・ブランドを所持していることなどを鑑みての推薦……ということです」
あ、この剣そんな名前なんだ!?
てっきり無銘の剣と思ってただけに、ちょっと違和感すら感じてしまう。
……お前、実は立派な銘持ちだったんだな……。
そんなことを考えていると、トリシュさんは何やら申し訳なさそうに口を開いた。
「ですが……ギルドとしてこの短期間での昇格となると異例でして」
「でしょうね」
俺もそう思う。
Aランクともなれば、おそらくギルドの看板と言える冒険者のはずだ。
それを昨日初仕事だった新参者が務めるとなれば、周りへの示しも付かないだろう。
俺が同意する様子に、トリシュさんは安堵した表情を浮かべる。
「そこでギルド内で協議した結果、ひとまずBランクとして様子を見るのはどうかと……」
「それでも高くないですか?」
俺の言葉にトリシュさんは少しだけ「うーん」と考える様子を見せた。
「ロロさんの査定通りであるなら、Bランクは妥当です。ミュルニアさんなんかも戦闘だけで見ればCランク相当ですが、それ以上にさまざまな技能を持っているからこそのBランクですし」
そういうものなのか。
どうやらギルドは騎士団なんかの年功序列とは違い、どこまでも実力主義のようだった。
それを見ていたユアルが、横から口を挟む。
「あの……わたしもなんですか……?」
「……はい。ユアルさんの場合は、また別の事情です」
トリシュさんはそう言って説明を続ける。
「高ランクの冒険者はギルドからのサポートが増えたり、仕事を回しやすくなります。それだけ厚遇されるということですね。その理由は下位ランクの冒険者に対して向上心を持たせるという意味があり、そしてもう一つ囲い込む為の理由があります」
囲い込み。
冒険者ギルドは領主の認可をもらって運営している。
領主としてみれば、冒険者たちは非常時の戦力になる。
強い冒険者ほど、よその街に行かれてしまうと困るのだ。
「ロロさんの話では、ユアルさんには未知の技能があり、それを逃すと絶対にこの街の損失になる……とのことでして。こちらはミュルニアさんからも進言がありました。……なので危険な依頼を出さないという条件付きでのAランクを推薦されています」
「は、はえ~……」
ユアルはどこか他人事のように声をあげた。
そんな様子にトリシュさんは苦笑する。
「……とはいえユアルさんは戦闘経験もないそうですし、こちらもやはりBランク相当が良いかとギルドでは考えています」
俺とユアルは顔を見合わせる。
お互い、特に異存はなさそうだった。
「……こちらは特に問題ないですよ。Bランクで。むしろ俺たちのような素人がAランクなんて言われても、荷が重い」
「良かった。ありがとうございます」
トリシュさんはそう言ってホッとため息をついた。
……とはいえ正直Bランクでも分不相応な気がする。
そんな俺たちの雰囲気を感じ取ったのか、トリシュさんは優しい笑みを浮かべた。
「大丈夫ですよ。しばらくは先輩の冒険者と一緒の依頼や、簡単な街周辺の依頼をお願いするつもりです。その上で、徐々に慣れていけば良いかと」
「ああ、それなら良かった」
結局は新人としての地位は変わらないらしい。
それなら問題はないだろう。
「それじゃあユアル共々、よろしくお願いします」
「はい、こちらこそよろしくお願いしますね」
トリシュさんはそう言って、深く頷いた。
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