第22話 ギルドのお仕事

 俺とユアルはマフの様子を見たあと、簡単な着替えを買いそろえ、そうして二人でギルドに来たころにはそろそろ昼も近い時間になっていた。

 俺たちがギルドに入るなり、昨日と同じ受付のお姉さんが声をかけてくる。


「ああ、いらっしゃいませエディンさん、ユアルさん」


「ああどうも……えっと」


「そういえばまだ名乗っていませんでした。トリシュです。何か困ったことがあったら遠慮なく言ってくださいね」


 受付のお姉さんはそう名乗りつつにっこりと笑う。

 俺はさっそく彼女に要件を告げた。


「俺らに丁度良い仕事なんかありませんか」


「お仕事ですね。うーん、初心者向けの仕事となると今は……」


 言いかけたトリシュさんの言葉を遮って、後ろから声がかかる。


「仕事探してんのお兄さん?」


 明るい女性声の声に振り返ると、そこには昨日技能検査をしてくれた魔導師がいた。


「……ああと、ミュルニアさん」


 俺が彼女の名前を言うと、昨日と同じく三角の帽子をかぶった魔導師はニヤリと笑みを浮かべた。


「ミュルニアでいいよ、お兄さん。親しみを込めてミュルちゃんって呼んでくれてもいいし、敬愛を込めてミュルニアお姉様とか呼んでくれてもいいけどね!」


「それでミュルニアさん、どうかしました?」


「……お兄さん、ノリが悪いって言われない?」


 俺の言葉に顔をしかめつつ、ミュルニアは言葉を続ける。


「実は調合に使う薬草が切れててね。南の渓谷に自生してるんだけど、あの辺は魔物も出るからさぁ。もしもの為に何人か連れてきたいな~って思って、ギルドに依頼を出そうとしてたんだよね。……どう? 新人向けでしょ?」


 ミュルニアはそう言って胸を張る。

 たしかに採取任務となれば、初仕事にはうってつけかもしれない。


「本当は昨日のうちに依頼出す予定だったんだけど……ま、昨日は恥ずかしい姿見せちゃったから、ギルドにまた顔出す気にはなれなくて……えへへ」


 彼女はそう言って視線を逸らした。

 耳が少し赤い。


 しかし彼女の言葉を聞いていたトリシュさんは難色を示した。


「ミュルニアさんもBランク冒険者の一人とはいえ、万が一があったとき護衛が新人だけでは対応できない場合があります。いきなりEランクの冒険者に依頼するのはちょっと……。渓谷の危険度が今は微妙ですし……」


 俺たちはその渓谷を抜けてきたわけではあるが、かといって素人を送り出して全滅されても困るというギルド側の気持ちもわかる。

 無理に受けたいわけでもないので、何か別の仕事を探してもらおうか……と思ったところでまた別の方向から声がかかった。


「――困ってるようだな、ボウズ。それならこの俺が――」


「――わたしがいきましょうか」


 左右から二つの声

 俺は交互に視線を向けた。

 一方は昨晩風呂でも出会った、やたら先輩風を吹かせるハゲ頭の冒険者だ。

 ――そしてもう一人は。


「わたしが付き合うなら、問題ないでしょう?」


 銀髪の女剣士、ロロ。

 彼女の言葉に、受付のトリシュさんは頷く。


「は、はい。Aランク冒険者のロロさんが付き添うなら、こちらとしても異議はありません。ギルドのメンター制度を適用しますか?」


「いらない。べつにずっと付き添うわけじゃないし、報酬は二人にそのまま渡してあげて」


「わかりました」


 ロロとトリシュさんの間で話が進んでいく。

 ……よくわからないが、これは突然先輩に呼び出されたような状況か?

 あとで人気のない場所に呼び出されて袋叩きにあったりしないか?

 俺は過去の騎士団のときの記憶を思い返し、少し警戒した。


 依頼主であるミュルニアが、ロロとトリシュさんの様子を見て笑顔になる。


「ロロっちがついてきてくれるなら安心だ。新人のお守りなんてどういう風の吹き回し?」


「何よ、人を冷酷な人間みたく言わないでちょうだい」


 そう言ってロロは唇を尖らせる。


「ただちょっと渓谷には気になることもあるから一緒に行くだけ。ついでよついで。それに簡単な魔物ぐらいならあなた一人で何とかできるでしょ」


「うちは実戦向きじゃないんだよねー。できないことはないけど、不意打ちで死んだご同業も何人か知ってるから、念のため誰かはいて欲しいなーって」


 まあ俺たち二人としては特に異論はない。

 ユアルを戦力として数えるわけにはいかないし、Aランクの冒険者が着いてきてくれるのは心強い限りではあった。

 ミュルニアは俺とユアル、そしてロロに向かって親指を立てる。


「じゃあそういう感じでオッケー? ちゃちゃっと準備して、さっそく出発しよっか」


 ミュルニアはそう言って、トリシュさんに携帯食や移動手段の手配を頼む。

 俺とユアルがその様子を見て冒険者の依頼を受ける手順を学んでいると、後ろから俺の肩が掴まれる。


 振り返ると、そこにはハゲの人がいた。


「――頑張ってこいよ、ボウズ……」


「え? は、はい……」


「期待してるからな……」


 彼は朗らかな笑みで俺を激励した後、背中を向けて仲間たちのもとに戻っていった。

 よくわからなかったが、もしかするとAランクであるロロに見せ場を取られて悲しかったのかもしれない。

 ……あとで礼だけでも言ってフォローしておくか。


 俺はそんな風に周囲に気も遣いつつ、初めての冒険の準備を整えるのだった。

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