第20話 目指せ一流冒険者
「ここからは推測になるけど……もしかすると、前に検査したときはまだ白紙の状態だったのかもしれないね」
ミュルニアはそう言って、うんうんと何度も頷く。
「腕の悪い魔導師なら、それを見て”才能なし”と判断するのはしょうがないよ。うちは天才だから読み解けたけど」
彼女の言葉に、俺は当時のことを思い出した。
前に適正検査を受けたのは騎士になる前だった。
そのとき俺はまだ剣の訓練も魔法の訓練もしていない。
すべて騎士になってからの訓練だ。
どれも得意というほどは上手くなれなかった。
だがそれが才能を創る途中なのだとしたら――。
「俺は……”無能”じゃないのか……?」
呆然とそう尋ねた俺の言葉に、ミュルニアは親指を立てて笑った。
「おうとも! 千人に一人、いや一万人に一人の希有な才能に違いないね! ……まあ前例がないから、数字はテキトーだけど」
ミュルニアは「いや千年に一人とかにしておくか……?」とうんうん唸るが、俺といえば未だ彼女の言葉を飲み込めないでいた。
才能を――創り出す才能。
予想外の鑑定結果に、俺はしばらくその場に立ち尽くした。
* * *
「じゃあうちはこれで。またね、ユアルちゃんとお兄さん」
ミュルニアはそう言って帰って行った。
ギルドには用事があって来たらしいが、彼女曰く「さすがにはやく着替えたい」とのこと。
……もしかすると「チビった」と言っていたのは、冗談ではなかったのかもしれない。
もしそうなら申し訳ないことをしてしまった。
一方の俺たちは、ミュルニアが帰ったあと冒険者ギルドの登録を済ませていた。
ユアルがどんな力を秘めているのかはわからなかったが、とりあえず二人分の名前をギルドに登録する。冒険者記章は後日発行されるらしい。
……ユアルを冒険者にして危険な目に遭わせたくはないが、俺に何かあったときの為に冒険者という肩書きもあった方が良いと思い登録しておいた。
ついでに受付に冒険者が泊まれそうな宿の場所も尋ね、ギルド割引がある宿屋を教えてもらった。
街の東にある宿で、マフのいる魔物園も近い。
俺たちはその日はそのまま宿へと向かい、休むことにしたのだった。
「エディンさん! すごいですよ! 大きなお風呂でした!」
夕食後、ユアルは宿の浴場へ行き、そして今は湯気を上げながら部屋へと帰って来た。
ちなみに夕食はこの辺りで取れる沢蟹のパスタにスープとサラダが付いて、そこそこの味のものだった。
料理が美味い店はいいものだ。
そんな共同浴場を満喫してきたユアルに、俺は苦笑しつつ尋ねた。
「ははは、それは良かったな。だがどうして風呂上がりに俺の部屋に戻ってきたんだ?」
「え? 一部屋しか取ってませんけど……」
「……だよな。おかしいと思ったんだ。ベッドがやけに大きかったから」
やたらベッドが大きいので豪勢な宿なのかと思ったが、なんのことはない二人分の寝床だったのだ。
一部屋の値段はやや高く、ギルド割引でようやく普通の宿と同じぐらい――という価格帯だったので油断していた。
部屋を借りるときにユアルに任せてしまった俺のミスだろう。
「……わかった。もう一部屋借りられるか女将さんに聞いてこよう」
「えっ、えっ……。ダメでしたか?」
「お前は男と同じ部屋で、しかも同じベッドで寝るということがどういうことかわからないのか?」
「……あったかそう?」
「違う!」
俺は男と思われていないのか、それとも彼女が世間知らずなのか。
どちらにせよ、きちんと警戒心を教え込まなくてはいけないだろう。
俺が頭を抱えていると、ユアルは口を尖らせた。
「冗談ですぅー。子供扱いしないでくださーい。……相部屋の方が安かったのでこっちにしたんですよ。まさかベッドまで一緒だとは思いませんでしたけど」
ユアルは不満げにそう言った。
……もしかすると、勝手に宿の女将さんが気を利かせたのかもしれない。
ユアルは人差し指を立て、俺に向かって詰め寄る。
「それに! わたしエディンさんのこと、信頼してますし!」
「……たかだか出会って数日の男の何を信頼しているっていうんだ」
「じゃあ聞きますけど、エディンさんはわたしが嫌がるようなことするんですか?」
「それは……しない……。でもそれとこれとは――」
「――わたしたちは今日冒険者になりましたが、まだお仕事の一つもこなせていません」
俺の言葉を遮って、ユアルはきっぱりとそう言った。
「なら安定した生活ができるようになるまで、節約できるところは節約しないと!」
「ぐっ……。た、たしかに……」
「とは言っても、宿の
そう言われると、たしかに正論のように聞こえてくる。
……あれ? 俺が間違ってたのか……?
「だから一緒のお部屋に泊まるのは、必要なことなんです!」
「……そ、そうか……」
俺は思わず納得してしまう。
……まあ俺が変な気を起こさなければいいだけの話だ。
俺はため息をつきつつ、ユアルに尋ねる。
「それにしても、本当にお前も冒険者になるのか?」
「はい! もちろん!」
ユアルは俺の言葉に力強く頷いた。
そしてそのあと、自信無さげに首を傾げる。
「……とは言っても、お役に立てそうにないならお留守番しますけど。でもきっと荷物持ちぐらいはできるかなーって。それに魔法の才能がありそうですし!」
……正確にはユアルの才能は「よくわからない」ではあるが。
まあ今度、試しに初級魔術でも教えてみよう。
「……危険な目に遭わせたくはないが、お前がそれでいいなら応援するよ」
「はい。エディンさんを一流の冒険者にする為、頑張ります!」
「ははは、まだ言ってるのか」
苦笑する俺に、ユアルはウインクした。
「ええ! なにせわたしの目が間違ってなかったって証明されたんですからね!」
「……はは」
ユアルにそう言われて、なんだか心がくすぐったかった。
――ようやく嬉しさがこみ上げてきた気がする。
「そうだな……。……そうだ、俺は――」
ずっと心に引っかかっていたことだ。
「――俺は、お前の期待に応えられるんだな」
どんなに期待されても、俺は才能が無いからと諦めていた。
いつか失望させるかもしれないと思って、期待されないように振る舞っていた。
だけど――もしかしたら、俺はここでなら上手くやっていけるのかもしれない。
俺の言葉に、ユアルは笑みを浮かべる。
「一緒に頑張りましょう!」
そう言って差し出されたユアルの手を、俺は握り返すのだった。
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