第10話 友達を増やしてみた
「モ~」
「も、もう、ミノちゃんったら。小さい虫にびっくりして飛び上がるなんて~!」
慌てて誤魔化そうとするテクテク達。
「いやいや、流石に無理あると思うわよ?」
しかし、そんな些細な抵抗は黒い服で身を纏った少女に一蹴されてしまった。
「どどど、どうしようミノちゃん!!このままじゃミノちゃんが血を吸う変な魔物の餌にされちゃう!!」
「モウモウ……」
テクテクの知識は、祖父がテクテクの為に様々な地域から集めた本に偏っていた。そもそも、テクテクがミノちゃんのことをバレないようにした理由はこの本の中の一部にあった。そのため、ミノちゃんとテクテクの間で秘匿しておく理由が根本的に異なるのではあるが、閑話休題、少女はそんな慌てふためいている様子を気に留めることもなく、遠慮なくテクテクに近づいた。
「ねぇ、そんなことより、その牛斧持って木を切っていたわよね? 一体どういうことかしら!? ねぇ!?」
「わ、ちょっ、まっ、あわわわわわわ」
少女は興奮冷めやらぬ調子でテクテクの肩を両手でホールドし、前後に大きく揺さぶる。お陰でテクテクは少し落ち着きを取り戻し、別の意味で助けを求めた。
「モウモウ」
ミノちゃんは、もうバレてしまっては仕方ないと腹をくくり、少女を後ろから羽交い絞めにしてテクテクから距離をとらせる。
「なにこの牛、すごくふかふかだわ!!」
布越しではあるが、それでも伝わってきた感触に少女は目を丸くした。
「あ、ありがとうミノちゃん……あたた……」
ようやく解放されたテクテクは、片手で頭を軽く抑えつつ、倒れないように近場の木にもう片方の手をついた。そうして回復を待っている間に、ミノちゃんのもふもふを思う存分堪能した少女も、そのヒーリング効果により少し落ち着くことが出来た。
「いやぁ、ごめんね。思わず興奮しちゃったわ。あ、心配しないで? このことは他の人には黙っててあげるから」
「ほ、本当?」
「ええ、ただ単に私は珍しいものやカッコいいものが好きっていうだけだから。それをわざわざ人に吹聴する馬鹿げた趣味なんて無いわ。私のこの
少女は、テクテクの不安を解消するに足る堂々とした態度でそう高らかと宣言した。
「え? ブラッ、え?」
しかし、テクテクにはうまく伝わらなかった。
「と、とにかく‼ 貴方に助けられて、貴方のあのカッコイイ姿を見て私はあなたと対等な友達になりたいと思ったの‼ お願いします。私と友達になってください‼」
「友達になってくれるのなら私もすごく嬉しいんだけど……」
今度は少女が誤魔化す様に大きな声を出し、テクテクに対して素の様子で頭を下げた。その手は何処となく震えているようにも見える。
しかし、それに対してテクテクは即答せず、語尾を濁す。
その真意は――。
「友達として対等というのなら頭を下げるもんじゃないと思うの。そして……そろそろ名前を教えてもらっても良い? 何と呼んだらいい? 私、この町の人と初めて友達になるの。名前を教えてくれたら嬉しいな」
「テクテクさん……」
「対等でしょ? さん付けは辞めて欲しいなぁ」
ああ、やっぱりテクテクはカッコ可愛い、なんでこんな子を今まで邪険に扱っていたのだろうか。そう自己嫌悪に陥りながらも、テクテクの言葉に思わず光る雫が零れ落ちる。
「あはは、ごめんごめん、名乗っていなかったわね。私はティアラって言うの。テクテク、これから宜しくお願いするわ!」
「うん! 宜しくね、ティアラ!」
そうして二人は握手を交わし……。
「ねぇ、その、友達の記念としてギュってしても良いかしら?」
「え? いいけど?」
「挨拶よ挨拶! 改めて宜しくね! ぎゅーっ」
「う、うん! ぎゅーっ」
熱い抱擁を交わした。そして初めての友達に内心テンション爆上がりしていたテクテクには聞こえていなかったが、いつの間にか置いてけぼりを食らっていたミノちゃんの耳にはしっかりと届いていた。
「スーハースーハー、ああ、良い匂いだわ。それに軟らかぁい。ふふふ、可愛い。えへへ、これが私の新しい友達……カッコ可愛い友達……マイソウルフレンド‼」
悪い奴ではないが、やばい奴としてミノちゃんの警戒対象に入ったことにティアラは気がついていなかった。
コーン、コーン、コーンという小気味よい音が森の中に響き渡る。一度荷車一杯の木材を運んだあと、再度伐採しに森まで戻ってきていた。
今度は1人増え2名と1匹で賑やかに斧を振るっていた。
「仕事の邪魔をしちゃったからね。私も手伝うわ」
「ありがとう! それにしても、あんな茂みでティアラは何をしていたの?」
「え? テクテクのストー――ううん、テクテクと仲良くなりたくて追いかけただけだわ。木材の調達を手伝ってくれるって聞いていたから」
ミノちゃんから殺気を感じ、ティアラは咄嗟に言い換えた。どうやら彼女はテクテクに悪影響を与えるのは許してくれないらしい。
「でも、ティアラが近くにいること全然気が付かなかったなぁ……これでも気配に敏感なほうだと思ってたのに」
「ああ、それは私が隠形の魔法を使っていたからだわ。この魔法を使用している限り、だれも私の存在には気が付かないわ。私の姿を見た者はこうして魔法を解いているか、相手に触れる瞬間……つまり、相手の人生最後の時だけだわ」
「あ、うん」
そして、手を動かしながらも会話は弾む。時々変な間が出来る時もあるが、双方とも気にしてはいなかった。
「それにしても、やっぱりティアラって魔法が使えたんだね。私の斧と同じ重さの斧を軽々振るっていんだもん」
「ええ、テクテクもやっぱり使えたのね。この町では私位かしら? だから今まで他の人には黙ってたの」
「やっぱり、珍しい?」
「ええ、こうやって身体に魔力を纏わりつかせることで、身体機能は向上し、こんなに重たい斧まで軽々と持つことができるようになるんですもの。そんな凄い人がポンポンいたらたまらないわ。私達のレベルとなれば王都でも引っ張りだこよ。でも気を付けてね、この秘密がバレたらダークユニオンに狙われるわ」
「ん? ダーク……あ~、ん~、ん、分かった!」
早くもテクテクは、ティアラの対応にも慣れ、スルースキルを身に着けることに成功していた。
「それにしても日差しが強いのか今日は暑いね~」
「ええ、まるで灼熱がこの身を焦がすようだわ……ふぅ、涼しい」
ティアラはそう言って頭から被っている布を外し、マスクをずり下げた。ピンクの唇が露わになり、サラサラな黒い髪が肩にたらりと垂れ下がる。
「えっ、隠している訳じゃなかったの?」
テクテクはこの時になって、初めてティアラの素顔を目にした。てっきり何かの事情があり素顔というか、色々な所を晒せないでいると思い敢えて黙っていた。
「え? この衣装カッコ良くないかしら? 手作りなの」
ティアラはキョトンと首を傾げつつ、自分の体を、その身を包む忍者のような衣装を見下ろした。
「あ、うん」
何はともあれ、ちょっと病気にかかっている人であろうが、痛い人であろうが、テクテクにとって初めて町の友達が出来た記念すべき日となった。
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