【短編】カエルを埋葬した話

@anko37564

【短編】カエルを埋葬した話



雨が降るバス停

帰りのバスを待つりかぽは、憂鬱だった…

隣に、えとさんが居る…

えとさんは怖い… 夜中にうさぎ小屋に入って、うさぎを殺してたとかの噂もあるし…

家からは、正体不明の恐ろしい叫び声がするとかいう噂も

愛想が悪いし、クラスのみんな怖がってる

「ちょっと、あなた そこ、どいた方がいいわよ」

うわあ…ヤバい目付けられた…意味わかんない

「はあ?なんでわたしがどかないといけないの?」

「いいから、どきなさいって!早く!」

なんだこいつ!

「ちょ、押すなってば!」

ぐちゃ… えとさんが勢い余って何かを潰した…

生き物が潰れる音、水音の混じったような…

「ひっ…」

えとさんは、長靴の裏を見ないようにしていたが、ずりりと引き伸ばした跡で、何を潰したか察したようだ

カエルだ…

「あっ!」

その時、回送のバスがやってきて、水たまりを豪快に散らし、わたしたちをびしょびしょにした

「水たまりのこと 教えてくれたの…?」

結論から言うと、彼女はいい人だった

びしょびしょのえとさんは話し出した

「わたし、照れ屋で口下手だし…

愛想が悪い風に見えるの…本当は恥ずかしいだけ…」

えとさんの噂は、全て根も葉もないもので

彼女の家は、えとさん含め、

動物好きで、たくさんの生き物を飼っているらしく、時折 聞いたこともない鳴き声がする為に、そういう噂がたったのだろうということ

うさぎの件は

体調の悪い老うさぎを心配してのことで、夜中に忍び込むのは悪いことだとは思っていたが、我慢できなかったらしい

彼女は、嫌われていたので、ろくにうさぎの世話もさせて貰えず、もう一人の飼育係の雑なやり方に不満をこらえ切れなかったとのこと

飼育係の彼女は、鍵の番号は知っていたので、

忘れものをとりに戻るふりをして、世話をしていたのだ…

そんな動物好きの彼女が、過失とは言え、カエルを潰したことに耐えられるはずもない

大号泣である

「ごめんね…ごめんね」

泣きながら、カエルに謝り続けるえとさん

泣きながら、えとさんをなだめ謝り続けるわたし

えとさんは体育の授業で使う靴に履き替え、わたしがカバンから出したビニール袋に、おずおずと長靴の裏側を見ないようにして入れた

そして二人で、えとさん家の裏庭に、靴ごと埋葬した

涙か、雨か、びしょびしょのままわたしたちは

泣いていた

あの日から、わたしたちは友達になった

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