第3話 奥様

 お通夜は角田さんの地元の葬祭ホールで行われた。

 ウイルス感染予防策として、同じ職場の人だけが参列した。

 角田さんは他の課とも繋がりがあったが、その人たちの参列は叶わなかった。

 香典だけを所属長が預かった。


 喪主は角田さんの奥様だった。

 私はお通夜で角田さんの奥様を初めて見た。

 美容室に行けなくなる前の私と同じ髪型だった。耳が隠れる位のボブ。

 何だか変な気持ちになった。

 角田さんの奥様が、以前の私と同じ髪型だなんて。

 しかし決定的に違う所がある。角田さんの奥様は、綺麗だ。


 くっきりとした目鼻立ちは、美女の代名詞ワンレンがよく似合いそうだ。

 けれども短い髪型は、綺麗な輪郭をより際立たせている。

 角田さんと並んだらきっとお似合いだろう。

 さすが角田さんの選んだ人だ。

 私は喪服のスカートをぎゅっと握った。


 お通夜が終わった後、同僚たちと話をした。

 角田さんの家は新築だ。その家はどうなるのかと皆は噂していた。

 保険金などの単語が出てきて、私は少し嫌だなぁと思った。

 けれども角田さんの事を知っておきたくて、話に加わる。


「あのさ……」同僚の小田桐が急に声色を変えた。

 

 ただならぬ雰囲気に皆が黙った。


「角田さんの奥さん、浮気してたらしいよ」小田桐が云った。

 皆がざわついた。私も動揺した。

 小田桐は社内にも知り合いが多く、角田さんの奥様の友達とも通じているようだ。

 小田桐の彼氏も社内の人間だから、男子特有の情報を持っている。

 小田桐の情報は、正確だろう。


 許せない。


 お通夜から帰宅し、塩をまいて家に入った。

 私は部屋で一人、小田桐の話を思い出していた。


 角田さんの奥様の浮気相手は、若い男。

 角田さんの奥様はアパレル関係の仕事をしていて、そこで浮気相手と出会った。

 浮気相手はパソコン業者を装って角田さんの家に行っていた。

 奥様が平日休みの日、角田さんが会社に行っている時間帯に浮気相手と会っていた。


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