第2話 角田さんがいない
そういえば今日、角田さんを見ていない。
休みだろうか? 彼が休むのは珍しい。
結婚記念日は確か九月だったので、違う理由だろうか。
角田さんは一昨年の九月に結婚した。
角田さんに恋人がいるのは知っていた。職場のおばちゃんが云っていた。
角田さんに恋人がいるか解らない時、私はどんどん彼に惹かれていった。
上司も後輩も分け隔てなく接する角田さん。
そして彼はどの女性にも平等に接する。そして熱心で優しい。
思い込みの激しい私が、優秀でイケメンの角田さんに惹かれるのは自然だった。
あの時手が触れたという事実。それだけで私は充分。
角田さんがいないので、朝礼が始まらない。
所属長が「今朝、角田を見かけた者はいないか?」と聞いていた。
皆が騒ぎ始めた所に、部長が現れた。
朝から部長が登場するなんて、何かあったのだろうか。
〇
夏季連休初日は、角田さんのお通夜だった。
あの部長が現れた日、角田さんの訃報が告げられた。
あの日の朝、いつまでも起きてこない角田さんを奥様が起こしに行った時すでに亡くなっていたと。突然死と発表された。
角田さんはまだ三十一歳だった。
皆驚いていた。前日までいつも通り一緒に仕事をしていた。
「角田さん、連休中は何かするんですか?」私は聞いた。
「今の所、特に予定は無いなぁ」嘘か本当か解らない調子で、角田さんは答えた。
多分あれは嘘だ。
本当は愉しい予定があったはずだ、奥様との。
角田さんはそういう所を出さない、特に女子社員の前では。
角田さんはフェミニストなのだ。
そういう所が、私は好きだ。
「岩渕さんは予定あるの? 連休」今度は私の目を見て聞いてきた。
あれが最後の会話になってしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます