第26話 季節は巡る
二年生になると、由希子さん達は忙しくなった。
ただ、留学を決めたのが少し遅かったので、結局はこちらの大学に籍だけ置いてアメリカにある系列の大学に進学をしようと考えてるみたいだった。
愛理さんも由希子さんに合わせたのか同じ進路で、とりあえず向こうの生活に馴染んでから、改めて他の大学を受験しなおすかどうかを決めるらしい。
後の二人も、塾だなんだと中々来られなくなっている。
休日、みんながここに集まることも少なくなっていった。
そうして、季節は巡りまた春が来ていた。由希子さん達は、もう高校三年生。
僕らの時代なら、女性はもう結婚している人も多かった歳だ。
僕は一人庭に降りてみる。
怖くて確かめられなかったことを、確かめる良い機会なのかも知れない。
花びらが舞う度に、もう枯れている花もあるんじゃ無いかと思って……。
何だろう、枯れてはいない。だけど、あんなに咲き乱れていた花のかずは、随分減っているような気がした。
この庭に降りられるのは、僕だけだ。
最初から、子ども達は……由希子さんですら、この庭に降りようという気になれないらしい。
中から眺めることはあっても、まるで結界でも張られたように、誰も庭に降りようとしなかった。
そして、三階に上がってみる。
僕が、服薬自殺をさせられて、眠った場所だ。
二度目に目覚めさせられた後、僕も由希子さんも一度も三階に上がらなかった。
空気がよどんでいる。もう、六年くらい誰も入ってないんだから仕方無いか。
僕は窓を開けて換気をした。
明るい日差しが入る。
春の柔らかな日に照らされたベッドを見る。
ベッドには、まるで眠っているかのような穏やかな表情の僕がいる。
状態もとても綺麗だ。そんな、あり得ない光景になっていた。
多分、本当の遺体はお墓の下のはずだ。
桜井家の墓に、僕の名前も彫られているのを確認した。
自分の墓に参るのも変な気がしたけど。
でないと、あの時代とはいえ遺体の放置は問題になっただろう。
僕は、一階に降りていった。多分、もうすぐ呼び鈴が鳴るはずだ。
「珍しいね。愛理さんが一人でここに来るだなんて……。
しかも、今の時間だったら、まだ授業中じゃないのかい」
どうぞ、と言って中に招いた。
「まるで、来るのが分かっていたみたいですね。伸也さん」
愛理さんは少し警戒をしているみたいだ。口調が硬い。
「うん。分かってたよ」
僕は穏やかに笑って言った。
「どうぞ、座って。
今、紅茶を入れるから」
いつものリビングではなくて、サロンの方に愛理さんを招き入れていた。
庭に続くガラス戸は開け放っている。
春の暖かい風が吹いていた。
愛理さんは大人しく座って待っている。
お茶菓子のクッキーと紅茶を入れ、愛理さんの目の前に出した。
「ありがとうございます」
愛理さんは、お礼を言う。
「それで? 学校をサボってまで、僕に何か用があったのかな?」
僕も座って、愛理さんに訊いた。
「伸也さんは、由希子の事をどう思っていますか?」
愛理さんは、思い詰めたように訊いてきていた。
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