第21話 学園の呼び出し
学校へ着くと、学園長室に案内をされた。
学園長室には、学園長と愛理さん、愛理さんの母親、そして由希子さんがいた。
「遅れてすみません」
「いいえ。どうぞおかけになって下さい」
そう学園長に言われて、由希子さんの横に座った。
「双方の親御さんがそろったところで、お話ししたいと思います。
まず、我が学園は特別な場合……まぁ、これは家庭の事情が変わって、学費を払う事が難しくなった場合なのですが、その場合を除いてバイトは禁止しております。
その事は、校則にも載っているのでご存じだと思いますが……」
そう言って、学園長は僕達を見渡す。確かに、保護者の説明会でもそう言っていたのを、覚えている。
「ですが、わたくしは部活で遅くなったり、休日に出ていたりしているとばかり思っていたのですよ」
愛理さんの母親がそう言っている。親に嘘をついていたのは、愛理さんも同じか。
「私も、そう思っていました」
そう言って、僕は由希子さんの方を見て言う。
「由希子さんも、そう言ってましたから」
由希子さんは、ずっと下を向いている。僕が部屋に入ってきたときから、ずっと僕と目を合わさない。
「二人が部活に入っているのは、本当ですが、平日は、遅くなっても他の部活より1時間程度、休日も月に……多くても二日程度の活動です。休日の活動は主に募金ですが」
学園長は、溜息交じりにそう言った。
「私が」
愛理さんが、口を開いた。学園長をまっすぐ見据えている。
「私が、由希子さんをバイトに誘ったんです。留学したときに、少しでも自由になるお金が欲しくて。二年に上がったら勉強や留学の手続きで忙しくなるから、今のうちだと思って」
「愛理、あなたなんて事を」
愛理さんの母親が怒っている。それはそうだろう、親を騙して友達を誘い、自由になるお金……つまり、遊ぶ金欲しさにバイトしていたと言ったようなものだ。
「本当なのですか?」
学園長が由希子さんの方を見て尋ねる。
「誘われたのは……本当です。でも、遊ぶ金欲しさなんかじゃ……。
私の留学費用に充てようって」
「由希子さんは、大学は海外に行きたいの?」
僕は由希子さんに訊いた。だって、費用も何も、一度もそういう相談を受けていない。
「まだ……よく分からなくて……」
「分からないから、とりあえずお金を貯めようと思ったの?」
そう訊くと、由希子さんはこくんと頷いた。
僕は、溜息が出る。
そして、学園長の方を向いて
「それで、処分はどうなるのでしょうか?」
これ以上、学園で話し合っても仕方が無い。由希子さんは、どんな理由であれ校則違反をしてしまってる。
「二人とも、優秀ですからねぇ。バイトはもちろん辞めてもらうとして、条件付きで三日間の謹慎処分と言うことにしましょう」
さすが、進学校。広告塔候補は、手放したくないか。
学園長室から出たら、愛理さんの母親が、愛理さんを連れてやって来ていた。
「すみません。この子が迷惑をかけて、自分が親に嘘を吐くだけじゃなく、由希子ちゃんにまで嘘を吐かせてしまって……。
あまり、怒らないでやってくださいね、悪いのはうちの子なんだから」
ああ。僕と由希子さんのことを心配してやって来たのか、愛理さんの母親は良い人だ。
「こちらこそ、すみません。愛理さんを悪者にしてしまって……。
誘われたのであっても、決めたのは由希子さんですから」
そういうやり取りの後、愛理さん達と別れて家に帰る。
洋館に着くまで、僕たちはお互いの顔を見ることも無く、無言で帰って行った。
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