第20話 由希子さんの友達との勉強会と不穏な電話
毎週というわけでは無いけれど、時々週末に里沙さんと早苗さんが来るようになっていた。
もう、本当にね。誰の家か分からなくなっている。
彼女たちが来るのは、進学塾が終ったお昼過ぎ、僕は紅茶とお茶菓子を出して勉強を見るようになっていた。
「ふ~ん。じゃあまだ塾と言っても本格的な事をしてるわけじゃないんだ」
「そう、これが二年の後半にもなると、ここに来られないくらいの時間になっちゃうから、今のうちに塾で訊いたら恥ずかしい……ってところを教えてもらってるの」
道理でね、僕でも教えれる内容だと思ったよ。里沙さんの言葉に少し納得した。
休憩が済んで、さぁ次の科目を……と、思ったところで電話が鳴る。スマホじゃなくて、固定電話の方が鳴っていた。
「ちょっと、失礼。先に勉強始めてて……」
二人にそう言い残して、席を立って電話に出た。
「はい。桜井です。
……はい。松平由希子の保護者は私ですが」
由希子さんの学校からだ、なにか嫌な予感がする。
「はい。……はい、え? バイト? いえ、知りませんでした。
はい、分かりました。伺います」
僕は、嫌な気分で電話を切った。少し深呼吸をする。
このままじゃ、あの子達に八つ当たりしそうだった。
振り向くと、二人がこちらを伺っている。
「ごめんね。由希子さんが無断でバイトをしてたみたいで、学校から呼び出されているんだ。
出かけないといけないから、今日はもうお開きにしてくれないかな」
本当は、この二人に聞きただしたいのだけれど、きつい言い方になりそうだ。
「バイト……バレたんだ」
里沙さんがボソッと言って、慌てて口に手をやっているのが見えた。
「……何か知っているの?」
せっかく、そのまま帰そうと思ったのに。
「愛理とファミレスの厨房でバイトしていて。何かお金がいるとかで……」
早苗さんが、教えてくれた。
「そう。それで、僕の気をそらすために、君たちが来てたの?」
「そう思われても仕方無いです。でも、由希子からも愛理からもそんなこと頼まれてないです。私たちが勝手に……というか、本当に勉強を習いに来てたんです」
早苗さんは、懸命に言い訳をしている。
僕は、不機嫌で怖い雰囲気を作っているのだと思う。二人は普段の口調と違い、敬語になってしまっていた。
「何でお金が必要か、訊いてる?」
「由希子さんの留学費用。愛理からはそう聞いてます」
里沙さんが、答えてくれた。
「愛理は、元々アメリカの方の大学に進学を希望していて、由希子はそれに引き摺られてるって感じなんだけど」
「そう」
里沙さんも、早苗さんも、僕の方を心配そうに見ている。
気持ちを切り替えないと、この二人は悪くない。
友達の事を大人に言えないでいるのは、いつの時代も同じだ。
「ありがとう。教えてくれて。
でも、今日はここ誰も居なくなるからね。また、来週にでも勉強会をしよう」
多分、ちゃんと笑えていると思う。
目の前の二人がホッとした顔をしているから……。
彼女たちを帰した後、僕はスーツに着替えて学校に向かった。
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