第6話 ナツ、そしてドラッグと戦争
『セイレーン』の一国『ハワニィ』では、国家軍隊の半数を殺戮集団が占めていた。平和的均衡を保つために戦争と講和を重ねた結果である。興事よりも実質的な科学技術が盛んな『ハワニィ』では、高性能な陸用Carや飛行機、コンピュター、ロボットからシュミレーションゲームや音響装置、そしてシステムキッチン、システムバス、オートマティックドアといった日用品等まで…ハイテクな乗り物やハイテクマシーンやシステマティックな日用的道具等を殺戮集団に提供して接待し、殺戮集団の気狂いを抑え込んでいた。
しかしながら、今回の時運は、西方地域『セイレーン』の西方の大国『クリア』と東方の大国『リ・ワース』が、協定して法を犯した殺戮集団を大検挙したのである。殺戮集団の怒りは普段の収め所では収めきれず、セイレーンの諸国に離散していた殺戮集団は、『ハワニィ』に集合し始めた。
『セイレーン』の他の諸国では、殺戮集団が国家軍事権力を占める割合はほぼ3割程度であり、例えば『クリア』では殺戮集団を麻薬とアルコール漬けにしたり、『ララ』では舞台や技芸、音楽などの芸術事や賭博等の歓楽事に興じさせたりして殺戮集団の関心を軍事権力から遠ざけていた。
『セイレーン』地域の中で実質的な産業―いわゆる私たちの為の生活的な産業が表立って盛んな『ハワニィ』は、以前から殺戮集団にとっての分かり易い目の敵であった。『ハワニィ』では到底溢れ出す煩悩を満たすことはできないのである。そして、だから故に、軍部の掌握割合もこちらの方が高い。殺戮集団が『ハワイニィ』に集い軍事権力掌握を強行しようとするのは殺戮集団の自然な感情の流れであった。
『ハワニィ』の殺戮集団の暴動に、『ハワニィ』の国民たちは国家権力から離れ国外へ亡命した。『ハワニィ』周辺諸国は、その動きに合わせて各々の国の軍権力から殺戮集団を静かに追い出し、『ハワニィ』へ集合することを後押しした。気の流れのままに『ハワニィ』で集合した殺戮集団は、『セイレーン』西側を西側諸国の軍隊の威圧により後方を顧みることがしにくくなった。
が、しかし、殺戮集団はそのことを意識しないように脳内のストレスを集中して『セイレーン』最大の奴隷地帯である『セイレーン』地域東部『クリノアイ』へ向けた。
『クリノアイ』が奴隷地帯とはいっても『セイレーン』に所属し国を持たぬ人々―クリノアイ人が自治権を持ち大陸を実質支配していた。『クリノアイ』の中心地帯は巨大な奴隷収容施設があり、その中に研究所や闘技施設があった。収容されているのは『エリア』地域所属の人々であり、政治権力と人権を概ね持ち合わせる『セイレーン』所属の人々ではなかった。
殺戮集団はそこにあるセイレーン人に造らせた闘技場で、エリアの奴隷たちや、殺戮集団同士の同士討ちで敗退した殺戮集団の中でも最下位の集団―“サリ”を闘技させ完敗したものを1人ずつ集めて研究所で更に拷問を加えていた。闘技は毎日休みなく行われる時期もあれば、しばらく放置される時期もあった。
それは権力を握る殺戮集団のその時の気運次第だった。囚われの身のエリアの人々は、闘技が行われる度に最下位にならないように神経を尖らせ闘技に身を挺した。その中でエリアの奴隷たちをまとめ中心的な存在として『ナツ』という存在がいた。
今シーズンはまだ闘技大会は開催していなかった。
が、急に、『ハワニィ』の国家軍としての肩書きをつけた殺戮集団たちが、武装して『ハワニィ』製の戦車に乗り大砲を放ちながら轟々とけたたましく音を立てて『クリノアイ』へ向かって来た。『クリノアイ』人たちは目立たないように簡易武装し、そして早急に闘技大会の開催の準備を始めた。闘技施設を開き、牢屋のような宿舎に居るエリアの奴隷たちや最下位殺戮集団サリを集め配置させた。
『クリノアイ』人たちは『クリノアイ』の玄関口で音波を行い、微小な力ながらも向かってくる殺戮集団の脳内をコントロールし思考を鈍らせた。平屋がまだらに軒を連ね一区画ごとに二階建ての小さな建物がある街並みだった。全ての建物は大地と空の色に馴染んで隠れるような薄い黄土色の壁で薄褐色の屋根であり、道路はだだっ広く、遠目で見ると道路ばかりに視界が集まるように目立っていた。思考力を鈍らせられた殺戮集団は殺気ばかり際立てて大砲をある限り縦横に打ちながら、ただ道なりに進んだ。大砲は周囲の建物を破壊した。
「ナツ…ナツ…。」
ナツの耳奥に隠してつけていたマイクロテレフォンから声が聞こえた。
ナツは、他のエリア奴隷たちと共に闘技場の控室にいた。向かいの格子の柵の向こうには、最下位殺戮集団サリたちが、どよどよと重苦しい不穏な空気を醸し出して集まっていた。
電話の声が聞こえてナツは周囲を軽く見まわし、冷たいコンクリートの壁側に寄った。
「ぁあ。」
ナツは周りに聞こえないくらいの小さな低い声で応答した。
「世界大戦勃発は避けれない。
今、大打撃を与えて殺戮集団の軍事力を消耗させよう。
時期的によい頃合いだ。」
電話先は淡々と要件を話し始めた。
「ああ。」
ナツはナツで心が無いかのように冷静に相槌を打つ。
「例のものを用意した。
それを使って一撃を与えてくれ。」
ナツが返答をする前に、コンクリートの壁の一部がそっと開いた。
大人の顔が入るくらいの穴でそこから大振りの剣の柄が出てきた。
(!!雷鳴剣!)ナツは心の震えを抑え込んでそっと柄に手を伸ばし一気に引き上げた。そして壁と背中の間にそっと隠すようにして置いた。
穴は何事もなかったように塞がれた。
雷鳴剣は、ナツの国の伝統な剣の一つらしい。ナツの国の科学技術力で剣の刃から電撃が発せれるようになっている。そしてナツの一族特有のスピリチュアルパワーも吸収し威力が倍増する。
今から起こす一時的な激突だけでは、大量にいる殺戮集団を破壊し尽くすことは困難だが、一部に大打撃を与えられるだろうし、他の残った殺戮集団にも精神的な衝撃を与えることができるだろう。
そしてクリノアイ人やセイレーン諸国により主立って講和が進められ、自分たちはまた元のクリノアイの奴隷収容施設に戻されるだろう。今回の衝突を国際諸国が抑え込むことが出来ても、限界があり、その後、世界的な大戦を起こさなければならないだろう。
(僕は、世界大戦勃発まで生きていられるだろうか。)
先のことを考えれば、どうもマイナスなことばかり思い浮かぶ。
ナツはクリノアイに収容されたエリア奴隷たちを率いる立場にあり、そしてこの度の事件収拾の為の期待を一手に背負うことになった。
震えは“輪廻”という言葉を甘く響かせる。
(『ハワニィ』の葵様はまた生命力を再合成して生き返って帰ってきた…。)
普段の闘技も攻撃に関して派手さをずいぶん抑え、しかし、自分たちの身を滅ぼさないように慎重に闘技してきた。時には闘技場でサリを追い詰めるという事実を、軽快なパフォーマンスで誤魔化し、下手に転んで見せることもあった。
今回は理性を失い猪突猛進してきた殺戮集団を黙らせなければならない。
それは壮大なパワーが必要で、だけれども今回も心を逆なでするような派手さを抑え込まなければならない。
闘技場のゲートは重い金属とコンクリートが擦られる音共に開かれた。
そこへ大砲をぶちまきながら入ってきた。
ピ―ンピリン…
レーザービームを打つような高い電子音が鼓膜に振動した。
殺戮集団はふと一瞬表情がなくなり、戦闘機のスピードは緩まった。
殺戮集団は大砲を打つのも忘れ何かの衝動にかられるように闘技場の中へと進んでいった。
闘技場の真ん中には、ナツが一人立っていた。
少し俯いていたナツがゆっくりと顔をあげ殺戮集団へと目線を合わせた。
目は開かれ、灰色がかった瞳からは感情を感じさせなかった。
ナツは後ろに回していた両手を前へとそっと出した。
その両手には大振りの剣が握られていた。
それを見た殺戮集団は一気に血の気が上り、
「ウア゛ア゛ァァァーーー」
と雄たけびを上げ、大砲の向きをナツに向け打たんとした。
ナツは翻り大砲をかわし
「斬!!」
と叫んだ。
高く飛んで落ちてくる時の重力を利用し大振りの刃を戦車に目がけて振り落とした。
剣からビリビリと電撃が走り一番目の前にあった戦車を包み込んだ。
剣はナツの身体から生命エネルギーを吸い込みさらに剣先にパワーを溜め込んだ。
そして闘技場に詰めかけた殺戮集団の乗る戦車の攻撃をかわしながら次々と攻撃していった。
狙いを外れた大砲は闘技場を次々と破壊し穴を開けた。
戦闘が一定の頃合いを見せた頃、『セイレーン』諸国の軍隊の戦車が『クリノアイ』に集まり、殺戮集団の軍隊を取り囲んだ。ナツの攻撃やクリノアイの音波による脳コントロールで既に正気を失った殺戮集団は戦闘をやめた。そして『セイレーン』諸国戦車から場を荒立てないように数人―恐らく要人たちが下りてきた。
「講和をいたしましょう。」
棘の無い冷静な声は、殺戮集団たちにドラッグや享楽に興じた時の悦びと興奮を身体中に思い出させた。殺戮集団は破壊された戦車から降りてきた。
隙を見てすっと殺戮集団の傍に駆け寄った薄褐色の男性は、注射器をさっさと殺戮集団の身体に刺した。同じように同じ軍服を身に
中身はおそらく鎮静と享楽を誘うドラッグだ。
うとうとと気持ち良くなった殺戮集団からは殺気は消えていた。
そして翌日改めて講和会議をすることを約束した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます