第5話 以座為非正伝為

 東の政治御所の玄関の門が開けられた。

馬車は急いで門を潜ろうとした時、政治御所の建物の上の方から高速で鋭利なものが飛び出し空間を割いた。

馬車の幌を貫通し真ん中に突き刺さった。

そこにいたのは、わたし―今日きょう

わたしの額に矢が刺さったと思うと、わたしの周囲の空間が布を絞ったように捩れ、光がねじ切られ、馬車の中に闇が覆った。

馬車内の闇の中に二つの双眸が煌いた。一つは青白く、もうひとつは…闇に吸われ、されど光を放った。

ゆらは石のように身体が固くなり、表情も多少強張ったが、目の前で憎らしいわたし―今日きょうが打たれたのである。心は笑わずにはいられなかっただろう。

 わたしは西の都で、自分の身分を形にして猶臥ゆうがに攻撃した。それが因を発した。

かつては、自分の戦闘能力に縋り、自由に生きてきたように見えるわたしは、時代の変わり目に自分一人では生きてはいけない世界というものを思い知った。

そして繰り返し唇に刻み込む

「…万有因果万象を得る。」

わたしの指先は…少し痙攣していた。身体の中はふるふると僅かに震え、全身に血を送りこまなければ維持できない精密さと繊細さを感じなくてはいけなかった。

単細胞生命体という単純で簡単な構造のわたしの本体は、どんな言いがかりをつけられても真理を追究して自己実現を可能にする身体だった。その単純明快であり、憎きものを簡単に退けたがるわたしの性格は、そのことにこだわり過ぎて繊細な自分の心を置き去りにしていたかもしれない。そのせいか他者の心も上手に扱えてなかった、かも、知れない。

このように矢の当て的になるしかない自分を作り上げていたのが事実なのだから。

もっと正直に伝えても良かったけど、それも本望ではない。気難しすぎる自分は、自分でも扱い辛いね。


 本望という方角を自分の本物の目が指した時、

塊の様に固めて隠してたわたしの情愛は確かに未完成であったことを認めたが、熱く熱を帯びてそうしてゆったりと空気の流れに沿った。

川が引力に沿うて流れることが当たり前になったこの世界に寄り添うように。


 だけれども生命体の違いというのは誤解を山の様に抱えやすい。

葵様は冷泉なる世界(更に冷たい)で生まれた人物である。愛情を熱として訳しても彼の心にその愛が潤いとなるとは限らない。

 「ほうル…。」

 熱の扱いが得意なわたしの身体では高速に指を操れば冷気を呼べる…。

冷たい風が葵様の仕事の手助けとなるように、そして冷たさで自分を固めて次の指図を伺い出来るだけ急いで次の戦場へ赴きたいわたしだった。

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