第108話 閑話

「うぅ……」


 頭が痛い……昨日酒を飲み過ぎたか……。


 太陽が真上にあるな。既に昼か……。


 さて────昨日シバが呪いの事はシャーリーなら知っているだろうと言っていた。


 シャーリーさんは城にいるだろう……。


 俺は城に向かう為に、1人宿の出口に歩いていく。


「「若っ」」


 ジョンとセスは既に出口付近で待機していた。


「ご苦労」


「「はっ」」


 この2人は絶対に付いてくるのはわかっているので、特に俺は拒否する事もなく、3人で外に歩き出す。


「若、なんで昨日助けてくれなかったんですか?!」


 ジョンが昨日、アリスに襲われた時に助けなかった事を言ってきた。


「ジョンは若の奥方を殴ったんやから仕方ないやろ?」


 セスの言葉に俺は頷く。


「まぁ、とりあえずは済んだ事だからいいだろ?」


「俺、死にかけたんですけど!?」


「生きてるじゃないか」


「そうやそうや、情けない顔してんなや! このヘタレがっ!」


「それで城に付いてきてどうするんだ?」


「2人とも酷いな……。とりあえずは俺達の顔を売ります。若に逆らうとどうなるか知らしめてやりましょう!」


「せやせや、前世の時みたいに裏世界を牛耳ってややりましょう!」


 2人とも物騒だな……。前世では確かに裏世界の全てを支配していたが……。


「それは無しだな……とりあえず穏便に行こう。父さんの事を最優先にして動く──邪魔するなら潰せばいい」


「「御意」」


 なんか俺怖い人みたいになってるよ……こいつらの存在で昔みたいなノリになってるな。


 今世では普通に生活したいだけなんだよ。


「懐かしい?」


 ──!?


「「お嬢っ!?」」


 何でいる!? アナスタシア……全く気付かなかったぞ……というか──お前らいきなり跪くなよ! ここ道だから! 外だからな!?


「まぁ、懐かしいと言えば懐かしいな。琴音が死んでから継いだからなぁ……」


 俺は立ち止まり、驚いた素振りを見せずに普通に答える。


「ふーん、私が死んだ後って何してたの?」


 ──やはり聞いてくるか……。


「お嬢あれやで、若な──お嬢死んだ後は立派な裏社会のボスになったんやで? そらもう立派でなぁ〜恵まれない子供達の為に寄付したり、悪を成敗したり──「セスっ」──わかっとるて〜心配せんでも若の武勇伝は、わいが伝えたるって!」


 俺の制止を聞かずにセスは話し続け、それをアナスタシアは頷きながら聞いている。


 アナスタシアは自分の死後、俺がどうしていたのか気になっているようだ。


 セス、あれだけは頼むから話すなよ〜頼むぞ!


「若止めた方がいいぞ? あれ絶対そのうちボロが出るから……お嬢舐めてると痛い目に合うぞ?」


 知ってるよ! お前こそ言うなよ?! 前世でお前が1番ボロを出してたじゃないか!


「そういえば──私の実家とかどうなったの?」


「あー、お嬢の実家なぁ〜、若話してええんか?」


「それぐらいなら構わないぞ」


「ほな、許可降りたし話すで? お嬢の実家の会社は若が潰したわ」


「えっ?! 確かうちの会社って潰せるような小さい会社じゃなかったと思うんだけど……」


 確かに、日本トップクラスのIT企業だったな。潰すのに苦労したのを覚えている。


「そりゃー、若の愛やな〜。周りからドンドン削って、最後は身動きが取れなくなった所を──情報操作して、自滅させた後に傘下に加えるというエゲツない方法やったわ……」


「それって愛の力なの?」


「そやで? 若がお嬢の遺体を実家に渡しに行った時の出来事が琴線に触れたみたいでなぁ……」


「あー、なんとなくわかったわ」


「別に殺したりしてへんし──大丈夫やで? 社会的には抹殺されとるけどな」


 セス……その辺は別に言わなくていいだろうに……その言い方だと、他で殺してて、殺さない場合は社会的報復をしてるみたいじゃないか!


「不憫な私にレオは腹いせに実家を潰したのね」


「言い方悪いな!」


 堪らず俺は突っ込む。


「まぁ、若のお嬢への愛の深さはそれだけじゃないぞ?」


 ジョンがフォローしてくれるが──この流れは不味い。


「ジョンちょっと──「それだけじゃないの? 他に何かあったの?」──」


 ちょっと待てと言おうしたら、アナスタシアが話に食いついてしまった。


 セスはあちゃーと額に手を当てている。ジョンは己の失態に顔面蒼白だ。


「お嬢──この先は俺には話せません。若に聞いて下さい……」


 ジョンは俺に丸投げしてきた。


 こいつ……。


「アナスタシア……さぁ城に行こうか。俺達はやらなければならない事がある」


「レオ……早く聞かせて? 城に到着するまで時間かかるでしょ?」


 ちっ……。

 俺はジョンを睨む。


 両手を合わせて俺にすまないとジェスチャーしてくるジョン。


「アナスタシア……世の中知らなくて良い事もあるんだ──「早くっ」──はい……」


 有無を言わせない迫力で俺に迫るアナスタシアに俺は──もう逃げれないと悟る。


「…………んだ」


「聞こえない!」


「……KTNLカンパニーという名前の会社を設立したんだ……」


「…………それって──琴音LOVEカンパニー? 私がいなくなって何をしてたのかなぁ?」


 アナスタシアの目が鋭くなる……両手から魔力が集まり続けている。


「…………その手に集めてる魔力はどうするつもりかな?」


「ふふっ、それはね────レオを攻撃する為だよ?」


 満面の笑みで返事するアナスタシアは目が笑っていなかった。


 ジョンとセスを見ると顔面蒼白だった。

 ──俺が絶対に話すなと言った事の真意がわかったようだ。


「お嬢待って下さいっ! これも全ては若の愛の為せる所行でごさいますっ! お嬢へ愛が強過ぎた故──そして寂しさ故にです!」


 ジョンはなんとかアナスタシアの矛先を収める為にフォローしてくれるが──それだと逆効果だ!


「……レオの愛はわかったわ──けどね……私のこの恥ずかしい気持ちを何かで発散しないとダメだと思うんだよね!?」


 ──もはや、何を言ってもこれから起こる事に変わりはないだろう。


 どう考えても魔力量からして──街一つぐらいは軽く滅ぶレベルだ……。


 赤闘気の副作用が残っている俺に果たして────この朱雀並とまでは言わないが──それに近い攻撃を耐える事が出来るのだろうか?


 しかし、ここで食い止めなければ周りの被害が甚大だ。


 ────そうだっ! 前にシバは魔法を掴んで投げていた。あれは俺にも出来るはずだ!


 あれは闘気の応用技で──闘気の密度を集約させて、硬い膜を作る技だったはずだ。


 俺は闘気を出せる限界まで出して【金剛】を発動する。


「さぁ、来いっ! 今世でも俺が全てを受け切ってやるっ!」


「えぇ、愛してるわ!」


「あぁ、俺もだ!」


 俺とアナスタシアの会話が終わると同時に炎のレーザーが放たれる。


 街中だと言うのにお構い無しなアナスタシアにもビックリだが────シバ達が暴れまくってるせいか、住人の避難も迅速過ぎてこちらにもビックリだ……。


 俺にレーザーが接触する瞬間に両手で掴み取る。


 そのまま地面を擦りながら後ろに下がっていく──


「おりゃぁぁぁぁぁっ」


 レーザーの軌道を逸らして手を離すと──


 レーザーはそのまま山に直撃する。


 そして──簡単に消し飛んだ。


 ……これ失敗してたら凄い大惨事になってたんじゃ……。


 あそこは高ランク魔物の巣窟だと聞いている。人はいないだろうが……魔物は全滅だな……。



「「「「…………」」」」


 全員が沈黙する。


「俺は何も見ていない」


「私も」


「「同じく」」


 俺達は涼しい顔をして城に向かった。

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