第96話 朱雀

 〜アナスタシア視点〜


 レオが父君と立ち去った後は、父君と一緒にいた男もいつの間にか消えており──王城内は慌ただしく動き出す。



「「「「アルステラ王──指示をっ!」」」」


 バラン、ジョン、セス、イレーネは朱雀が復活し──会議どころではないと指示を仰ぐ。



「しばし、待て────詳しい状況は?」


 王は少し待つように伝え──報告に来た近衛兵に事情を聞く。



「はっ、現在、姫とワルキューレ──その場にいる兵士が対応に当たっておりますっ! ただ────既に部隊は半壊状態、至急応援をと姫より言伝を受けておりますっ!」


 姫が現場にいる? ワルキューレって、確か来る途中に出会った人達だよね?



「わかった、至急応援に出れる者は最低限の人数を残して出撃せよ────下がれ。────聞いていた通り、猶予はもうない。すまないが、現場に向かってほしい……場所は────!?」


 部下に指示を出した後に、各国の助っ人に向かってほしいと言い、場所を教えようとしたのだろう……窓に向けて指を差した時──


 ──その先が炎の海に変わる。



「「マジか……」」


 ジョンとセスは唖然とし──



「これが厄災か……」


 バランはこの先立ち向かう事に躊躇いが生まれ──



「勝てるのか?」


 イレーネは不安がる。




「娘は恩恵【封印】持ちだが──無理を承知で頼む──娘を助けてくれ」


 封印持ち……それが意味するのは生贄。全員、その事を知っているのか黙り込む。


 王も人の親、娘の幸せを願っているはず。厄災に封印無しで立ち向かうのは不可能。


 だからこそ──無理を承知で頼んでいるのがわかる。



 かつての姫杏を思い出す。


 おそらく覚悟を決めて────その場にいるはず……。きっと不安で仕方ないだろう。


 

 私が沈黙を破る。



「さぁ、怖気ついた者はここに残るといいのぅ。さすが国の最高全力じゃのぅ────闘う事の出来ぬ戦士は戦場にいらぬわっ!!!」


 私は叱咤し──煽る……これでこの人達が動けないならそれまでの人達……レオが到着するまで私が時間稼ぎをするっ!



「俺は────若が来るまで時間稼ぎをするっ!」


「わいも────若が来るまで頑張るわっ!」


 ジョンとセスはレオの事を若と言い、賛同してくれる。


 この人達って────まさか?


 そんな思考もイレーネの発言で止まる。



「私も────レオン君を婿にする為に出来る女を見せつけるっ!」


 イレーネも動機は不順だが賛同してくれた。



 後は──バランさん────


「ふぅ……全く若いもんにはかなわんのぅ……全員生きてかるぞいっ!?」



 皆──ありがとっ!




「さぁ──行くかのぅっ! レオに褒美を貰う為にのっ!」



「「そこぉ!?」」


 ジョンとセスはつっこみを入れてくるが、私にとってはそれ以外は基本的にどうでもいい。ついでに、その可哀想な姫を助けるだけ。



 私は2人を無視して窓から飛び降り────朱雀の元に向かう。


 残りの4人も、それに続く────



 王からの去り際に「感謝する……」と聞こえ、その他に「ザックとイザベラも向かわせろっ」と言っていたような気がする。



 目指すは火の海になっている場所────





 ◆◇◆◇◆



 近付く度に温度が上昇しているのがわかる……周りもそれに比例して燃えている。


 それに尋常じゃない魔力の高まりも感じるようになってきた。



 八岐大蛇を思い出す……きっと一筋縄で行かない。



 先程、ザックとイザベラも合流している。戦力は多い方が良い。



 しばらくすると──目の前で戦闘をしている姿が目に入る。



「「ステラ様っ!」」


 ザックとイザベラの2人が叫ぶ。あの騎士みたいな格好をしてるのがステラと言うのだろうか?


 戦闘に参加しているのは計10人。


 半分の人はアルステラ王都に到着する前にレオが助けた人達と────残り4人のは見た事がないけど、白い防具を装備している事からワルキューレかな?



 他に人影は見当たらない……避難したか────既に戦死しているかもしれない。



「ザック、イザベラ────」


 ステラはこちらに振り向き、応援が来た事に一瞬安堵の表情を浮かべるが────



「────危ないっ!!!」


 炎のレーザーがアルステラ王国の戦力に向けて放たれる──


 私は固有魔法【磁力】を使い──レーザーの軌道を間一髪で逸らす。



 ズガァァァァァァンッ



 なんとか軌道を逸らす事に成功したが──辺りは消炭になり、地面には高熱であろう証拠の硝子化が生じる。



 私は冷汗が止まらない……。



『ピギャァァァァァァッ』


 鳴き声で空を見上げる──



 そこには──



 真っ赤に燃え上がる──



 複数の尾を持ち、翼を広げる──大きな鳥がいた──



 一度羽ばたけば────炎が燃え上がり、幻想的な姿だった。


 ──到着した全員が一瞬見惚れるぐらい美しい────これが──朱雀。



『キュルッ』


 朱雀は可愛く鳴くと、私を視界に捉える。



 さっき攻撃を逸らした事に気が付いていたみたいだった……。



 朱雀の羽から炎の矢が私を中心に降り注ぐ。



「「お嬢っ! 避けろっ!!!」」


 ジョンとセスは私に向かって叫んだ瞬間────




 私は磁力を使い──自分の中心に斥力を発生させる。


 私の最大の防御。これならあの程度防げるはず──



「きゃっ」


 炎の矢の一部が斥力の力を突破し────なんとか避けるも左腕に接触し──消炭になる。



「嬢ちゃん!?」


 バランさんが声を上げる。



「痛っ……だ、大丈夫……」


 私はこれぐらいじゃ死なない……凄く痛いけど。


 どこまでダメージを受けても大丈夫かはわからない──不死と言っても今まで原型を留めない程の攻撃を受けた事がない。出来るだけ攻撃を避けないと。



 逆再生するように左腕が戻り始め、少しずつ痛みが緩和していく。



「無事なら良い。しかし、これでは攻撃が当たらんのう……」


 バランさんの言葉に全員が頷く。



 そこが1番ネックだ……空高く飛んでいる朱雀に攻撃出来る手段が限られる。



「我の魔法でなんとか撃ち落としてみるかの────」


 朱雀も使っていたレーザーをお返しと言わんばかりに、こちらも業火のレーザーを放つ。


 朱雀程の威力はないが、高密度の炎は白色になり────そのまま接触する。


『ギュルアァァァァ』


 朱雀の雄叫びと共に羽の部分に貫通するが、落ちてくる事はなく、そのまま更に空高く舞い上がり──


 落下してくる──



 戦いは──まだ始まったばかり……。

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