第95話 再会

 父さんは親子喧嘩の後は気を失っている。



 その間にフローラを召喚し、転移を使ってもらい──アイリスを連れて来てもらった。


 その際に「私には転移しかないのか!?」と訴えかけて来たのが印象に残っている。


 帰ったら何かしら奢ってやろう。それで許してくれるはずだっ! 


 だって今も無限収納から出したミノさんバーグを頬張っているからなっ!



「お兄ちゃん……お父さん生きてるの?」


 アイリスが気絶している父さんを心配し、俺に話しかけてくる。



「──もろちろんさっ! 兄ちゃんは頑張ったんだぞ?」


 けっこう、ギリギリだったけど、殺してなんかいない!



 そんな会話をしていると──



 ピクっ


 父さんの体が少し動いた──


 ──もう目を覚ましそうだな。



「うっ──……アイリスっ!?」


 目を覚ました父さんはアイリスがいる事に驚いていた。


「お父さんっ」


 アイリスは驚いた父さんに抱きつく。



「何でアイリスが……レオンか?」


 アイリスの頭を撫でながら俺に問う。



「あぁ、母さんにそっくりになっただろ?」


 俺はクスクスと笑いながら返事する。



「──そうだな……きっと将来は母さんと同じように美人になる」


 父さんの顔は険がとれ、温かい笑みを浮かべる。



「なぁ……母さんはもういない──けど、俺達はまだいる。一度は選べなかった選択みたいだけど──これから一緒に暮らして行こうぜ……」


「アイリスもずぅ〜っと、お父さんと一緒にいるっ!!!」


 俺達は2人で父さんに訴えかける。



「……一度踏み外した俺をお前らは受け入れてくれるのか?」


 俯きながら、後悔しているように言う。



「当たり前だろ? 親子じゃねぇかっ! あんまり駄々をこねてると──もう一発頭突きだからな?」


 そんな父さんに俺は──揶揄いつつも、一緒にいるのが当たり前だろ? と伝える。



 もう父さんから禍々しい気配はしない。



「だが──朱雀は既に復活している……その内、滅びに向かうだろう……」



 ────!?


 その時──先程と同じような魔力の高まりを感じた。


 これは早く行かないとヤバいかもしれないな……。



「父さん、俺は嫁を助けてくるよ。黒髪の女の子いただろ? あの子が子供の頃に言っていた────アナスタシアだよ。可愛いだろ?」


 俺はさりげなくアナスタシアの自慢をしつつ、助ける旨を伝える。



「そうか──なら助けに行かないとな。レオンの嫁さん、ちゃんと紹介してくれよ? もちろん俺も行くからな。後始末ぐらいはつける」


 父さんも俺と一緒に来てくれると言ってくれる。あの鎖の能力は心強い。



「あぁ、その方が助かる。父さんなら足手まといにならない。何度も悪いが──フローラ、アイリスを連れて帰ってくれ……頼む」


 父さんなら厄災にも十分戦えるはず。そう判断した俺はアナスタシアの元へ向かう為にフローラにアイリスをヤマト王国に連れて帰るように言う。



「むっきゅ〜っ! 最近、扱いが運び屋だぁっ! ご褒美を所望するっ!」


 確かに最近、フローラには転移ばっかり使わせてるな……。


「わかった。カツ丼食べ放題と──「それ以外っ!」──なら、俺の手料理でどうだ? 異世界の料理食いたくないか?」


 カツ丼食べ放題は却下されてしまったので、手料理を振る舞うと提案する。俺は琴音が死ぬまで自炊ばっかりしてたから、そこそこ作れる。



「むぅ〜異世界の料理……」


「カツ丼も異世界の料理だぞ? この先、食べれるといいなぁ〜」


俺は迷ってるフローラを、その気にさせる為に更に言葉を続ける。



「うぅ〜わかった! 絶対だよ! 必ず戻って来てね!」


「あぁ、約束だ────頼んだ。アイリス、大人しくしてるんだぞ? 俺と父さんは悪い奴をぶっ飛ばしてくるからな!」


 フローラとの交渉は無事成立し、アイリスに一旦別れを告げる。



「アイリス、良い子で待ってるんだぞ? 俺がお前らを必ず守る。安心しなさい」


 父さんもアイリスを安心させるように優しい声をかける。



「お父さん、お兄ちゃんにボコボコにやられたんだから無理したらメッ!」


「ぐはっ……」


 アイリスの純真無垢な言葉が父さんに突き刺さり、その場で四つん這いになる。父としての威厳がなくなった瞬間だった。


 俺は苦笑する。




「……3人でぎゅーしよ?」


 アイリスは唐突にそんな事を言う。


 死地に向かうのがわかっているのだろう。2度と会えなくなるかもしれない──そう思っているのかもしれない。



「そう……だな。父さんっ」


「あぁ、せっかくの家族の再会だしな。ぎゅーでも、ちゅーでも好きなだけしてやる」


 父さんは立ち上がり、そんな事を言う。



「髭がいやー」


「「ぷっ、はっはっはっ────」」


 父さんの言葉にアイリスが返事をし、俺達は笑い出す。



 そして俺と父さんの間にアイリスを挟み、抱きしめる。


 久しぶりに親子3人が揃った。母さんもきっと喜んでくれてるはずだ。



 こうやってまた再会出来た事が本当に嬉しい。これも一つの幸せの形なのかもしれない。


 家族がいる幸せ──それは前世の俺が欲していたものだ……爺ちゃんはいたけど──あれは一般の家族の形として何か違う気がする……。




 必ず──戻って、母さんに報告しないとな!


 久しぶりに家族4人で集まりたい。



 抱きしめ終わった後はフローラがアイリスを連れて転移し、その場には父さんと2人になる。




「さぁ、行こう」


 俺は真剣な表情をし、父さんに話しかける。



「あぁ」


 真剣に返事をした父さんと一緒に──



 走り出す────

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