第86話 羞恥心は大事だよね

 この世界の女性は逞しい気がする。


 いや、皆が皆じゃないとは思うんだが────



「「「「「私達は必ず、そこの彼と結婚するっ!!!」」」」」



「お断りじゃっ! 我がおるからお前らなんぞいらんわいっ!」



「「「「「妾でも良いっ!!!」」」」」



「……ふむ……レオよ……妾なら我も許しても良いぞ?」



 ──この目の前の光景を見ていると、そう勘違いしそうだ。


 発言だけ聞いてると物語に出てくる──どこぞのアマゾネスみたいだな……。


 妾でもいいとか……そこまで必死にならなくても良いんじゃないだろうか? 


 見た感じ全員美人さんだよ?


 アナもそこで悩むなよ……断ろうぜ!? さっきまで反対してたじゃないか! それにそこで話をこっちに振るなよ!




「え〜っと、とりあえず治療しようか?」


 パチンッ


 俺は苦笑しながら指を鳴らすと同時に黒鎖が彼女達に巻き付く────



「まさか──お持ち帰り!?」


「これで、私も大人になれるのねっ!」


「優しくして下さいね?」


「「ご奉仕するっ」」



 何か言ってるが、構わず癒しの鎖を使う。うん、俺は何も聞いてない。



 彼女達の傷は見る見るうちに逆再生してるように回復していく。



「「「「「なっ!?」」」」」


 驚いているな。俺もビックリだ……効果が半端なく上がっているな。



「良し、これで大丈夫かな?」


 俺は他に傷が無いか尋ねる。



「──皆を代表してお礼申し上げます。ご助力だけでなく、傷の治療までありがとうございます。私はアルステラ王国所属の【願いの乙女ワルキューレ】の隊長のフランと申します。先程は自制出来ず、失礼致しました」


「私はカレンだ」


「私はローラです」


「「私達はララとララだよ」」



 なんか大物っぽいぞ? 


 それより──アルステラ王国の関係者か……。


 俺は頭が一気に冷える。


 これから行く国ではあるが────偉いさんと関わり合いになりたいとは思わない。


 厄災さえ討伐すればそれでいいからな。



「お手伝い出来て良かったです。私はレオン、そちらがアナスタシアです。それでは、道中気を付けて下さい。ではでは──「待って下さいっ!」──何か?」


 俺はこのままさっさと去りたかったのだが、割って入られる。



「せめてお礼を──「既にドラゴンの肉を貰いましたので入りません」──それだけでは──「アナっ」──ちょっ──」



 今度は俺が話を割って入り、アナスタシアを呼んで──その場から離脱する。


 呼び止められたようだが、これ以上は関わり合いになりたくなかった。



 俺は胸の中に引っかかりを覚えたまま──無言で走り続ける。



「レオっ……」


「どうした?」


 アナスタシアから話しかけられ、俺は立ち止まり返事する。



「無理しないでね?」


「──あぁ、大丈夫だ……」


 アナスタシアは俺の事情を知っている。心配してくれているのだろう。


 母さんが死んだ元凶と言ってもいい国の上層部と──俺はいつも通りに話せなかった。


 心の整理はつけたつもりだったが……ままならないものだな……。


 アルステラ王国の厄災は正直──放置したい気持ちがあるが……母さんの最後の願い──いや、約束を果たす為に俺は厄災を討伐しなければならない。


 厄災が滅ぼそうとしてる世界で幸せになるにはそれしかない。


 例え──神の爺さんの掌の上であろうと、皆の笑顔がない世界に幸せなんてないと思う。



 だから──俺はやりたいようにやる。



「本当に大丈夫?」


 真剣な表情をしていたからだろう、もう一度心配の言葉をかけてくれるアナスタシア。



「────なぁ、復讐ってダメだと思う?」


 俺は前世の最後に復讐しないでと願ったアナスタシアに質問する。



「──!? 良くないと思う──けど……綺麗事だけでは生きていけない……私はこの世界に転生して思ったわ。悪意が多すぎると……だから──レオがしたいなら私は止めないっ! むしろ手助けするっ!」


 俺を肯定してくれるアナスタシアの言葉に、俺は先程まであった胸のつっかえがとれた気がした。



「ありがとう。なるべくないようにはしたいが……ただ、俺も感情があるからな……八つ当たりぐらいにしとくわ……それより──手伝うんじゃなくて止めてくれよ!?」


 俺のつっこみで目が合い──


「「ぷっ、あはははっ」」


 ──笑い出す。



 こういう時間ってやっぱり嬉しいな……嫌な気持ちが吹き飛んだ気がする。



「あー笑ったわー。大丈夫……レオンの事ずぅ〜〜っと見守ってるわ! だって──貴方の聖女よ?」


「そうだな、俺の聖女だ。今も俺の心は救われてるよ」


「一つ聞いていい?」


「ん? なんだ??」


「いつの間に恥ずかしがらずに、そんな事言えるようになったの? 前世じゃ全然だったのに」


「──! 師匠のお陰だな。千年弄られたからな……俺にその手の羞恥心はなくなった! だから、アナに──俺は好きなだけ愛を叫ぼうっ!」


 俺は声を高らかに上げる。



「えへへっ、凄い嬉しいなぁ〜〜。ご褒美だよっ! えいっ」


 照れたように笑い────キスをしてくれた。



 すると──



「若いってすげぇなー」


「本当ねぇ。あんたもあれぐらい大きな声で言ってほしいわ」


「いや、あれは無理だろう。俺は2人きりの時に言うから勘弁してくれ」


「そうねぇ、私もこんな所でキスは出来ないわねぇ」



 ────そんな声が近くから聞こえてきた。



 俺とアナスタシアは、2人の世界に夢中で気付かなかったが──周りには結構な人がいた。



 いや、なんでこんなに人いるんだよ!? と心の中でつっこみ。



 アナスタシアもその事実に気付き────段々と顔を赤らめる。



 俺と違って恥ずかしいようだ。



 そんなアナスタシアは──


「馬鹿ぁぁぁぁぁぁっ」


 ──涙目になりながら、業火を収束した極太のレーザーを俺に放ってきた。その威力は羞恥心と重なり────レッドドラゴンのブレスより強そうだった。



 俺は避けようとするが──


「──!?」


 ──磁力により動けなくされていた。



 紅い閃光が迫る瞬間──俺は決意した。



 今度は場所を選ぼうと。





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