第87話 貴方が神か!?

 極太レーザーがアナスタシアから放たれた後、鎖結界【檻】を目の前に展開し、事なきを得たが────正直、予想以上の火力で死ぬかと思った。


 まぁ死なないんだけどね。


 周りに被害が出なくて一安心したよ。



 あの後、見てた人達から──


「痴話喧嘩は程々にな」


「ちゃんと慰めてあげるんだよ?」


 ──などと次々に声をかけられたが。



 アナスタシアはぷるぷる震えながら耐えていたのが記憶に新しい。



 その人達は王都から逃げる為に出てきたと言っていた。


 理由は──厄災が復活するからだと言う。


 既に噂になるぐらい広まっているようだ。


 けっこう魔物もいるのに大丈夫か? と思ったが、よく見たら護衛らしき冒険者の人達もいた。




 俺達は現在は王都に向かい歩いている。


 ちなみにアナスタシアはまだご機嫌斜めだ。


「なぁ、そろそろ機嫌直してくれよ……お願い何でも聞くからさぁ……」


 そんな事を後先考えずに言ってしまった。



「高級宿でハッスル希望」


 待ってましたと言わんばかりにアナスタシアは答える。



「──!?」


 まさか!? 謀れたか!?


「金が──「私の荷物売るから大丈夫」──ぐぬぬ……わかったよ……だからもう機嫌直してくれよ?」


 金がないと言おうとしたら、逃げ道を即封鎖されてしまった。



「うふふふっ……」


 俺の答えに機嫌が良くなったアナスタシアは顔を赤らめ妄想し出した。


 もう、俺の声は聞こえないだろう。





 アナスタシアが妄想を膨らませて惚けている間に王都に到着した。



「こんな時期に何しに来たんだ?」


 と門番に言われた。王都から逃げ出す人が多い中入ろうとすると人は怪しいよな。


 どうしたもんかと考えていると──





 ──ふと、後ろから近付く気配がする。


「レオンじゃねぇか!? 奇遇じゃのぉ」


 俺の名前を呼んだ人物に視線を向けると、そこにはバランがいた。



「……なんで此処にいるの?」


 心底不思議そうに俺は答える。



「なんじゃ、その不服そうな顔は!? お主こそなんでおるんじゃ!? わしはアルステラ王国の救援要請でヤマト王国から派遣されたんじゃ。他の国からも来るはずじゃぞ?」


「へぇ、各国が連携してるんだな。俺は──この国出身だからな。チラッと寄っただけさ」


 ちゃんと厄災の対策をしているんだなと俺は思った。


「ふむ、故郷か……。世界の危機じゃからのぉ。丁度ええわい。お主も参加じゃ。八首の仕事じゃからのぉ」


 おっ、丁度いいタイミングだ。


「参加はまぁ構わないが……なぁ、バラン。俺の給料どうなってんだ? それと八首の仕事って言っても俺はヤマト王国が危機に陥った時だけという約束しかしてないぞ?」


「なんじゃお主、何も聞いとらんのかいな。ったく抜けとるのぉ」


 うっさいわっ! ミア助けるのに聞いてる暇なかったんだよっ! その後もすっかり忘れてたわっ!


「……それで、どうなんだ?」


 早く答えろよと俺は催促する。


「ふむ、もちろん給料はちゃんと出るぞぃ。ただ、レオンがどういう契約しとるかわからんからのぉ。わしは月に金貨で20枚じゃな。国に貢献すれば上乗せじゃ。それと今回みたいな他国の厄災の救援要請は金貨500枚じゃったはずじゃ──」


 なるほど────ってか、今気付いたわ。金の価値が全くわからんっ! この間も結局シバが払ってくれたしな。


 とりあえず給料は出るが、俺に関しては確認してこいとな。厄災の救援要請はきっと俺にも適用されるだろう。


「サンキュー、バラン。じゃぁ、俺も救援要請受けるから連絡しといてくれ。後、情報もくれ。どこに泊まるんだ?」



「では、後程連絡しておいてやろう。宿は1番高い宿じゃのぅ。こんな時ぐらいは贅沢するわい。そもそも、ヤマト王国請求じゃしの。必要経費じゃわい」


 ────!? 宿代実質タダか!?



「バラン……「ん? なんじゃその顔は?」……貴方が神か!?」


「いや、違うが? わし、ドワーフじゃし? 気持ち悪いからそのキラキラした目をやめんか!」



「いや、バラン──お前は神だっ! 俺の救世主はお前だっ! この間のアイテムの件と宿屋の出来事は水に流そうじゃないか」



「宿屋の一件はお前が一方的に攻撃したんじゃろうが!」



「そうだったか? まぁ細かい事気にするな! 宿屋で酒でも奢るぜ?」


 俺の金じゃないけどな。



「そうじゃのう。どっちにせよ情報共有せんとな。晩飯時にまた会おう。宿屋は王城の近くにある派手な建物じゃしわかるじゃろ。またのぉ」



「おぅっ! またな!」


 俺は満面の笑みを浮かべ────アナスタシアに振り向く。


 紐じゃないよ?



「ちっ」


 舌打ちした!?



「いや、そこは喜ぼうぜ。俺はちゃんと給料が出るっ! 故に──紐じゃないっ!」


 紐じゃないっ! の部分を強調して俺は言葉を発する。


 って、アナスタシアが目の前にいない!?


 どこ行った────って磁力使って一瞬で離れたのか!?



「あの男の子、紐らしいわよ?」


「やぁねぇ、女の子に働かせて」


「クズだな」


「男の風上にもおけん輩だ」




 そんな声が聞こえてきた。そういえば、もう王都だったな。


 恥ずかしくはないが────なんか心に刺さるな……。



 アナはこれを見越して離脱したのか!?




 ふいに肩を叩かれる


「まぁ、なんだ。俺はお前が紐じゃない事を知ってるからな。八首なんだろ? 国を頼むな」



 俺は門番さんの言葉に心を打たれる。



「貴方が真の神か!?」


 真の理解者がここにいるっ! それだけで俺は救われるぜっ!



「いや、ただの門番だが?」



 そんなやり取りをし、俺達は高級宿に向かった。


 門番さんの目が痛い子を見る目だったのが気掛かりだったが……。

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