第66話 いつかの記憶 〜爺ちゃん〜

 ふと目が覚める俺は起き上がり目の前を見る。


 なんで俺寝てんだ!? 試練どうなった!?


 リオンはどこだ!?


 周りを見渡し、目にした光景は──


 慣れ親しんだ


 そして目の前にはが寝ていた。


 なんで日本にいる? これから初代魔王と戦う所だったはず……これは────


 ────夢?


 子供の頃の俺は起きたようで、欠伸をしながら部屋を出る。


『なぁ……』


 目の前に立ったけど、気付いてくれない。どうやら見えないし、それに声も届かないようだ。


 やはり夢か?


 仕方ないので、俺は着いて行く事にした。


 しばらく歩くと────70歳ぐらいの時の爺ちゃんが庭にいた。


 とても70歳ぐらいに見えないぐらい若作りでナイスガイな爺ちゃんが凄まじい速度でを使い、素振りしていたが、幼い俺に気付いたようでこちらを見る。


「おっ、起きよったか! お前もやるぞっ! さぁ来いっ!」


「やだ……」


「何言うとるか! いつものように爺ちゃん──! って抱きついてこんか! 昨日虐められたのだろう? 仕返しする為に特訓じゃ!!!」


「人には優しくしろって言ってなかった?」


 俺の爺ちゃんの記憶では確かにそうよく言っていた気がする。


「馬鹿者が! やられたらやり返せ! 前、虫に刺された時にちゃんと言ったじゃろ!」


「何て?」


 幼き俺は聞き返す。


 そんな事あったかな? 俺も覚えてないな。


「『いいから殺せっ! そいつがお前に何をしたのか忘れたのかっ!』と言ったじゃろ? 人を殺せとは言わんが舐められるな。ほれっ、持て」


 小刀を渡す姿に俺は顔が引きつる。


 あー確かにそんな事あったな……。誰かの仇を悟すような言い方で、俺は信じたのを今思い出した。


 結局どっちなんだよ!?


 それと今考えたら子供が真剣で特訓するとかおかしいだろっ!


 あぁ、でも懐かしい……爺ちゃんの姿を見て笑顔になる。


 爺ちゃんと幼い俺が動き始める。


 拙い動きの俺を爺ちゃんが上手に指導しながら打ち合う姿は本当に懐かしい。こんな風によく打ち合いをしていたな。


 ふと俺は思う。


 これは────夢というより、記憶を見せられている?


 試練の内容は結局わからないままだ。


 これが試練……なのか?


「────ゔっ!?」


 爺ちゃんの鋭い一撃が当たり幼い俺は仰向けに倒れる。


 そういえば特訓中だったな。俺は倒れる昔の自分を見て意識が戻される。


「戦闘中に考え事するでない! 峰打ちでなかったら死んでおるぞ!? それに寝るでないっ! ここが戦場なら死ぬぞっ! 立てぇいっ! 前死にかけたじゃろがっ!」


「……」


 痛さで立ち上がれない昔の俺は、その場で蹲る。


 ……爺ちゃんは俺にどんな想定をして何をさせようとしてたのか疑問に思うが────日常的に危険な訓練をさせられていたな。


 この時は確か────が終わった後だから9歳ぐらいか?




 ◆◇◆


 一年経ち、昔の俺は10歳になった。


 時間の経過は1日1日過ぎていっている。幸せな懐かしい日々を俺も見ている……


 大人になるにつれて悲惨な目に合っていく、そんな俺の思い出を見せつけてくると思うと少し嫌だな。


 だが──俺には何も出来ない。魔法も使えなかったし、そもそも俺は人に触る事も話し掛ける事も出来ない。


 そして過去の自分から離れようとしても一定の距離から離れられない。


 本当にただ、ゆっくりと過去の自分を見るだけだ。


 しばらくして……あんな元気だった爺ちゃんが癌だとわかり、寝たきりになった。


 癌は末期で入院はせず、最後は家で死ぬと断言して家で休んでいる。


 この頃の俺は爺ちゃんが心配でよく学校を休んでいた。


 ちなみに爺ちゃんの看病はどこから来たのかわからないが、凄い美人さんが毎日入れ替わりでしてくれていた。


「毎日来る女の人は誰なの?」


 あの女性達は誰なのか、誰もいない時に聞いた過去の俺。


「爺ちゃんはたくさんの人からモテるんじゃよ。お前も将来たくさんの女性から言い寄られて大変になるぞ? 金と力は偉大だな! はっはっはっ────ごほっごほっ…」


 金と力は偉大だと自信満々に答えた爺ちゃんは咳き込んだ。


 あの時は聞き流したが────改めて聞くと爺ちゃんの発言って子供が聞いていいような内容じゃない気がするな。


 爺ちゃんは女性達と俺を見てる時は、ニマニマした顔をしているが、夜になると苦しそうにしている姿を見かけていた。痩せ我慢しているのを知っている。


 心配になった俺が近寄ったら笑顔で頭を撫でてくれた。


 爺ちゃんは厳しく(女性と俺以外だが)もあり、優しく、そして強い──俺の中のヒーローだったと再認識した。いつか爺ちゃんみたいな人になりたいとよく思っていたな。


 たまに、女性以外の人も来ていた事は来ていたが────どう見てもまともな人種の人達ではなかった。


 黒服着た裏社会の人達で、よく遊んでくれていた。


 爺ちゃんの横でよく、サイコロを振っておわんに入れた後は、丁か半か聞かれたのも懐かしい思い出だ。


 爺ちゃんが後でお金を払っていたな……どう考えても博打だ……。


 子供に何やらすねん! と俺はその時、近くで突っ込んだ。


 そんな人達に、学校に行かない俺に爺ちゃんが子供を連れてくるようした事があった。


 そして1人だけ俺と同い年の子供がいたようで、紹介され、友達になった。


「よろしくね!」


「はっ! 若の為に私はこの命を使いますっ!」


 出会って間も無い頃によろしくと言ったら、凄く重い返事が来たのが印象に残っている。名前は確か────丈二じょうじだったかな?


 どんな教育を受けていたのか今でも気になるし、爺ちゃんは裏社会ではどんな地位だったのか今でも興味がある。


 でも、俺からは話しかけられない。それにもう……時間もない。



 そして────その日は来た。



 爺ちゃんは横になりながら幼き俺に声をかける。


「わしはどうやらここまでのようじゃな。今日死ぬだろう……正よ、強く生きろ。そして困難な状況になっても──決して諦めずに足掻け。己の道は己で切り開くんじゃ……お前は息子に似て優しいが、この先絶対に損をする。だが、そんな一面がわしは好きじゃ……だから────人に優しく、人の痛みをわかるように精一杯生きなさい……可愛い孫──正よ」


 幼い俺は涙を流しながら黙って話を聞くが


「爺ちゃぁぁぁぁぁぁんっ! 1人嫌だよぉぉぉ、ずっと一緒にいようよぉぉっ! 爺ちゃんは強いんだろ? 前も襲ってきた人達返り討ちにしてたじゃないか! 病気なんてやっつけてよっ! 爺ちゃんは負けないって言ってたじゃないか!!!」


 耐えきれなくなり、幼き俺の慟哭がその場を支配する。


 子供故に病気を理解できずいた俺は、爺ちゃんに出来ない事なんてない……そんな風に俺は思っていたはずだ。


「そんな顔をするでないわ。わしもな……幼きお前を置いていきたくないが、こればっかは仕方ないんじゃ……生ある者いつか死ぬが────お前に何か残したい思いでこの数年間色々教えたつもりじゃ……術や知識は力になる。この先いつか役に立つ事を祈っておる」


「嫌だよぉぉぉっ! そうだっ、爺ちゃんっ! お姉ちゃん達呼んだら元気になる?! 今から電話するからっ」


「正っ!」


 びくっ


「爺ちゃん?」


「良いか? お前は賢い子じゃ。どんな時であっても取り乱さず冷静になれ。わしの最後の言葉じゃ。しかと受け止めよ。────返事は?」


「────!? ……うん! 俺、優しい男になって爺ちゃんみたいに強くなるっ! だから爺ちゃん力一杯抱きしめて!」


 目に涙を浮かべながら、精一杯の笑顔を作り、最後のお願いを告げる。


「この甘えたがりが……こっち来い」


 爺ちゃんは起き上がり、満面の笑みで精一杯抱き締めると幼い頃の俺は泣き始める。


 そして、泣き疲れ、静かになった幼い俺を優しく撫でている。


 俺はその光景を見ながら、頬を濡らす。


 爺ちゃんは死ぬ間際でも俺の事を考えてくれている。そんな思いがとても嬉しくて胸が熱くなった。


 俺は爺ちゃんを見つめていると、走馬灯のように数年間、再度体験した思い出が頭をよぎっていき、異世界でも役に立った事も同時に思い出す。


『ありがとう、爺ちゃん。教えは役に立ってるよ』


 聞こえないとわかっているが、俺は気が付いたら声に出していた。


 そして────目が合った気がした。


「幸せにな」


 その言葉は俺の言葉に反応したのか、それとも幼い俺に向けて放たれた言葉なのかはわからない。


 けど、確かに2届いたよ。


 あの時、実は寝てなかったんだ。


 泣きそうになったのを堪えたんだ……ただ爺ちゃんの温もりを感じたかったのを覚えている。


 しばらくして、頭を撫でている手が止まり、幼い俺を包み込むようにし、爺ちゃんは動かなくなる。


『爺ちゃん、安らかに……』


 俺の独り言が木霊し。


 幼い俺は動かなくなった爺ちゃんを強く──強く抱き締める。


 爺ちゃんの顔は孫に看取られて幸せそうに笑顔を浮かべていた。


 ……例え過去であったとしても、親しい人が死ぬのをもう一度体験するのは辛いな。


 でも、いっぱいの思い出があった事を再確認出来た。



 ────お疲れ様。



 爺ちゃん────そして────



 ────ありがとう。

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