第67話 いつかの記憶 〜社会まで〜

 爺ちゃんが亡くなった後の俺は学校にも行かず、ひたすら塞ぎ込んだ。


 しばらくすると、爺ちゃんの選んだ後見人は姿を消し、知らない内に事が進み────俺は住んでいた家を追い出された。


 この時、俺は何が何かわからなかったが、後から考えると後見人は殺されたか、脅されたのかもしれない。爺ちゃんが選んだ後見人が裏切るとは想像がつかない……人の本質を見抜く天才だったし。


 気が付いたら住んでいた地域から、離れた所の施設に保護される事になった。


 俺はここで、小さい子達の面倒を見ながら学校に通った。以前通っていた学校の知り合いはいない。


 当然、俺の事を知ってる人はいなかった。


 そして、親がいない俺は虐めのターゲットにされた。


 いくら虐めても親という抑止力がないとわかると、相手に歯止めがかからず。子供故にますますエスカレートしていく。


 俺は舐められてはダメだと思って、やり返した。


 その結果、殴った相手の親が出てきた。大人と子供じゃ、どっちの話を信じるかなんかわかりきっている。俺の言い分は誰も信じず、全て俺が悪いと結論された。


 同じ施設の人達も噂が悪い方向に広まり、それ以降は小さな子供以外は俺に話し掛ける者はいなくなった。


 その後しばらくして、前を歩く女性が財布を落としたので、拾って渡そうと近付き話すと、親にお礼が言いたいと言われたので、施設に案内した。


 そこで泥棒扱いされ────施設の人にクレームを入れられた。


 どうやら俺は盗んだ直後で、言い訳で落としたと言ったと思われたみたいだった。


 前科があると判断された俺の言い分は、誰も信じてくれなかった。


 俺はこの頃ぐらいから世の中は理不尽に溢れていると感じ始めた。



 この時ぐらいから、この記憶の時間経過の仕方が少し変わった。俺の印象に残っている部分ばかりを見せつけられるように景色が変わっていく。


 次の記憶は中学生……。


 中学生になると、知った顔がちらほらといた。


 その頃ぐらいに学校帰りの途中、丈二が黒服の人達を何人かつれて俺に会いに来た。


「若っ! 若を陥れた輩は処分しておきましたっ! どうぞ家にお帰り下さいっ! 我らは若のお爺様の遺言に従い、若の為に尽くす所存っ!」


 と言われた。久しぶりに丈二に会えてとても嬉しかったが────その頃の俺は人に対して懐疑的だった。


「帰らないよ。遺言に従わなくていいから」


『お爺様の遺言に従い』という言葉が引っかかり、丈二を信用出来なかった俺はその申し出を突き放し、断った。


「何故ですか若っ! 俺は若の為に……」


「丈二っ! 俺はもう誰も信じないっ! 俺の前から消えてくれっ!」


 俺は勢いに任せて──そう言ってしまった。


 丈二は悲しそうな、悔しそうな表情をして、その場を後にした。


 次の日に学校に行くと、その時のやり取りをクラスメイトに見られたみたいで、噂が広まっており、あっという間に俺は孤立した。


 この頃からだろう、人との関わりを持つのが怖いと感じたのは。


 そんな中である日、歩いていると────虐められていた女の子がいた。俺は爺ちゃんの教えで「女子は守るべし!」と言われていた事が頭をよぎり、助ける事にした。


 その結果、俺への陰湿な虐めはエスカレートしたが……。


 助けた子が何かと話しかけてきてくれたりしてくれが──また虐められるとダメだと思い────


「関わらない方がいい」


 ────そう言って、丈二のように突き放した。


 その後は人との関わりが余計になくなったのはよく覚えている。よく不登校にならなかったなと自分で思うぐらいだった。


 高校生の時は、虐めが陰湿な物から物理的な物に変わり、毎日殴られ、蹴られ、青タンが絶える事はなかった……やり返す事もなく、ひたすら我慢するようにした。


 通る人は皆見て見ぬ振りをする。


 そんな時に誰かが警察を呼んでくれた時があった。


 俺は警察に厄介になるのは面倒だと思って、逃げた────


 そして、裏路地に入って大丈夫だと判断した俺は帰り際に女の子が乱暴されそうになっている現場を見てしまった。


 俺は血塗れではあったが、特に問題なく動けた事もあり助ける事にした。


 喧嘩のプロや知り合いの道場主からはお墨付きを貰っているので、街の喧嘩如きで俺が負ける事はほぼない。というか爺ちゃんの特訓が1番キツかった……。


 女の子を傷付ける屑に手加減など、俺はしない。一瞬で気絶させた。


 視線を服の脱がされかけた同い年ぐらいの女の子に向けると────


 ────凄い勢いで俺を見て泣いていた。この時、俺は相当怖かったんだろうなぁーと思って家まで送って行った。


 その子の家族は襲われたと勘違いし、酷く怒鳴られ、警察を呼ばれそうになって────逃げた。


 この子がミアだと後で知った時は、びっくりしたなぁ。


 まぁ当時は善意には善意で返って来ない事もあると身を持って再認識した記憶がある。


 そもそも、人付き合いがあんまりなかった俺はどう接するのが普通なのかわからなかった。


 そんな俺も大学生の時は彼女が出来て嬉しくて、出来る事はどんどんした。


 どれだけ尽くしても彼女から愛情というのだろうか? 言葉で好きと言われるが、心に響かなかった。


 なんで響かないのか俺はわからなかった……。愛というものがわからなかったからだろうか?


 しばらくしたら、浮気をされて捨てられてしまった。


 俺の噂を色々聞いたのだろう……呼び止める俺を無視し、ある事ない事を警察に連絡してストーカー扱いされたのが、俺を完全に人間不信にした。


 確か────名前をと言ったはず……。転生してその名前を聞いた時はどこかで聞いたなと思ったが、今思い出した。


 過去の勇者と同じ名前とかどんな偶然だ。


 その頃は、人と関わりたくない────だけど、人に優しくされたい……そんな葛藤が良くあった。



 社会人になった時──── 大学生の時に助けた女の子とコンビニで再開し、大泣きされた時はまた警察を呼ばれるかと思ってヒヤヒヤしたな。


 しばらく、その子の視線を感じる事が多くあったが、あまり気にしなかった。たまに声をかけてきてくれたので数少ない話し相手の認識だった。当時の俺には既に彼女がいたから気を使ってくれていたのだと思う。


 転生してからその人がアリスと知った時はミアの時と同様に驚いた。


 アリスの前世と再開する少し前に、中小企業に就職していた俺は精神的にキツい時期でもあった。社会は厳しく、そして残酷だ。


 入った会社が悪いのもあったのだろうが、手柄は上司や同期に持っていかれ、使えないレッテルを貼られる。怒声や罵声を浴びせられる毎日。


 利用される事が本当に多かった時期だ。爺ちゃんのように何故出来ないか悩んだ時もあったな。



 そんな時に────出会った。


 俺の最愛になる彼女に────

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る