第65話 選定者

「縛っ!」


 俺はに鎖を複数箇所に顕現させる。


「「「「「ガァァァァァァァッ」」」」」


 ガーゴイルの群れが俺の鎖により絡め取られ束縛される。


「圧壊っ!」


 その言葉と共に鎖は収縮し、ガーゴイル共は粉々になり崩れる。



 俺達2人は既に部屋から出て、試練に挑戦している。


 俺は少し気が荒ぶっている。


 理由は────あのバランから受け取った腕輪だ!


 この行き場の無い気持ちをガーゴイルに向けている。


 なんか俺も段々脳筋になっているような気がするな。ここはクールだ……クールに行くんだ俺! 


 ……やっぱ無理だっ!


 次の部屋に向かい歩き出す。


 アンデットやリッチ系の魔物のいる部屋も問題なく終わった。アンデットなどの実態のある魔物は鎖で捕縛してからの爆鎖で火葬にし、リッチ系は捕縛した鎖に聖属性を込めた【聖天】で送ってやった。


 そして、また俺達は歩き出す。


「レオ、本当に凄く強くなったの……まさか一瞬で終わるとは思わなんだ」


 途中、アナに褒められ、さっきまでバランのせいで荒ぶっていた気持ちが少し落ち着いた。


「これなら試練クリアできそう?」


 この際に前から気になっていた事を聞く。ここの試練に挑戦した事のあるアナにしかわからない事だ。


「…………」


 アナは立ち止まり沈黙がその場を支配し、沈痛そうな面持ちになる。


 まさか、強さが足りない?


 でも2人なら行けるよな??


「そんな顔するな! 俺がなんとかするから! さぁ行こうぜっ! ほれほれっ────ぐはっ……」


 元気付けようと頭をポンポンと叩いていると────胸に激痛が走る。


 胸元を見ると剣が貫いていた。


 警戒はしていた……俺とアナが気付かなかっただと!?


 と思い、アナに視線を向けると────俺の後ろを見たまま微動だにせず、震えていた。


 いったい何が────っ!?


『ようこそ』


 俺は声のする方向に振り向く。


 そこにいたのは────



 ────歪んだ笑顔を浮かべる──女性だった。


 ……人形みたいに整った顔に、スタイルも良い。頭から角らしき物を生やし、蝙蝠のような羽を広げ、漆黒の露出の高い服を着たがいた。


 ヤバいな。


 俺は直感でそう感じ、一瞬逃げようか頭によぎったが────これは試練だと思い出し、踏みとどまる。


 アナのこんな姿は初めて見たぞ。いったいこいつ誰なんだよ。


 俺はその魔族を睨み付ける。


「ダメっ、レオ逃げよう」


 俺の服を震えながら引っ張り提案してくるアナスタシア。


「こいつ──」


 こいつ誰だと聞こうとした瞬間に俺の全身に斬撃が襲い血が噴き出す。


 俺はその場で倒れ込みかけるがアナスタシアにより、抱き抱えられ支えられる。


『こいつとは──失礼な。私にはリオンという名前があるというのに』


 俺は自身を回復し、自分の足で立つ。


「そのリオンは──ぐっ……。何の用だ?」


 無数の斬撃が再度襲うが、俺は蛇腹鎖で防ぎつつ凌ぐ。


『ほぅ……やるではないか。呼び捨てとは躾のなってないな小僧だな。私はこの試練の洞窟のだ。あまりに暇で戦闘の気配のあった此処に来ただけ……本来は次の最後の部屋にいる。んー、今回はまぁまぁか……その後ろの奴は昔に見たな……生贄にされた聖女アナスタシア』


 ビクッ


 アナスタシアは呼ばれ反応するが、その表情は顔面蒼白だ。


「俺がなんとかする」


 俺はアナスタシアを抱きしめ、声を掛けた後にリオンに振り向く。


『そこの女は試練の価値なし。心の弱き者はそこで見ているといい。そこの男は楽しめそうだな』


 完全に上から目線だな。まぁ間違いなく強いからだろうな。そもそも1番奥の部屋にいるなら出てくるなよ。アナに対する態度も気に入らないな。


「俺はレオンだ。選定者とは?」


 しばらく沈黙の後、リオンは口を開く。


『冥土の土産に教えてやってもいいか……この────お前らには試練と言った方がいいか。試練を受け、見事に達成した者には魂の受け皿があれば──神より、恩恵を授かる。ちなみに受け皿がない者も授けられる事は可能だが……魂が耐えきれず────いずれ死ぬ。ただそれだけだ。選定者に選ばれるのは、私のように力のある者が世界の意思により選ばれる。……そういえば昔に、唯一の達成者シアンが、こことそこの女を繋げて……不死王にしたな……わざわざ私に会いに来て、「お願い」と言付けまでしてな……懐かしいな』


 ──!? 姫杏ってここクリアしてんの!? それでここに縛った? けど──言付けまで頼まれてるのに、アナのこの怯えはなんだ?


 それにゼドも世界の意思に選ばれたのか!?


 というか、俺恩恵いっぱいあるんだけど!?


 一応、神の爺さんから貰ったから大丈夫なのか??


「なんで、そんな事知ってるんだ? 前に試練をクリアした時の選定者だっけ? そいつは知らなかったぞ?」


『当然だ。私は魔族の────初代魔王だからな。昔からそう聞いておるし、実際に私が挑戦した際に言われている』


 はっ?!


 魔王!? しかも初代!?


「とりあえず、質問に答えてくれてありがとう」


 とりあえず戦う事に変わりはないだろう。終わってから考えよう。


 ジャラジャラジャラ────


 俺は鎖を二連出し、身体強化魔法を全開にして構える。


『なに、死にゆく者には親切にせねばな。私に勝てなくても恩恵は与えられる。生き残れば帰してもやる。ただ、生き残ればな?────さぁ、選定を開始しようではないか』


 人形のように美しい顔の口元は三日月状に歪む。



 ────アナスタシアを必ず解放するっ!!!


「行くぞっ────!?」


 次の瞬間、俺の視界は暗転した────

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