第52話 束縛する者

 八首と十傑の戦闘は激しいものだった。


 周囲の被害が半端なく、常に風圧や衝撃が襲いかかってきていた。


 恩恵、固有魔法、闘気、戦闘スタイルは違えども、さすが国の最高戦力達だ……高レベルの技と技のぶつかり合い……犬のジョンは速攻でやられてたけど。


 オリバーと言われる男の恩恵【遅延】はかなり厄介そうだ。


 今はシバを庇いながら、シャーリーさんが範囲攻撃をしているが、厳しいかもしれない……。


 シオンを見ると、まだ回復している最中だ────出るなら今しかないな。


 俺は穿通鎖をオリバー目掛けて放つ────


「我にはその程度、無意味。シバと同じ目に合うといい」


 オリバーは遅くなった鎖を掴み、引き寄せてくる。


 鎖を解こうとするが、それ解除自体も遅延の効果を受けているようで直ぐに解けない。


「ぐっ、痛っ……」


 何で攻撃をした素振りもないのにダメージを受ける!? どうなってやがる!?

 引き寄せられた俺はオリバーの数m手前で斬撃を至る所に受ける。シバも何も無い空間で斬撃を受けていた。


「……無防備に我の遅延撃をくらっても即回復するとは……やはり、その異常な回復は恩恵持ちか」


 俺の傷がみるみる回復する姿を見てオリバーは恩恵持ちだと判断する。


 遅延撃か……言葉からして予め攻撃した所に相手が来た時発動する技か?


 オリバーはさっきから剣を使って舞っている。剣舞って奴だ。遅延撃を用意しているのだろう。そういや、シバの時もしていたな……挑発だと思ってた。


「さぁ、どうだろうな?」


 俺はオリバーに挑発するように答える。


「我の前では全てが停滞する。それはお主の鎖も同様。シオンが出るまでもない────沈滞」


 周囲が異様な雰囲気に包まれる。おそらく遅延の効果が及ぼされているのだろう。


 さっきの近付くと傷を負う攻撃に気をつけないとダメだな。



「とっとと終わらせて帰りたいんだ。倒させてもらうっ!」


 俺は左手で八岐の舞を出し、鞭状の攻撃で牽制するが────


 ────やはり動きが鈍い。


「無駄だ」


 攻撃は全て盾で防がれる。


 シバはこんな中で戦ってたのか……身体強化してるのにかなりキツい。


 体が鈍りのようだ。


 これでシオンが参戦してきたらまずい……。



「シャーリーさんっ! 援護をっ!」


「わかったわ! レオン君は好きなように動きなさいっ!」


 助かる。せめてシバがいればいいのだが……。俺が来た時みたいに不意打ちみたいな形ならシバを回復出来ただろうが……今やると致命的だ。


 油断出来る相手ではないっ!


 攻撃が減衰するならそれ以上の威力を出すしかないっ!


 シャーリーさんと目が合い、俺は頷き矢をつがえる。


 すると────オリバー目掛けて流星を放つ。


 おそらく、強化されたであろう大量の矢はガイとオリバー中心に全方位から放たれる。ガイは鉄壁を出し囲み始める。おそらく、遅延によって勢いを殺して完全に防がれるだろう。


 俺は両手を挙げて上空にありったけの鎖を放つ。そして────


 ────鎖でを作る為に鎖を丸め始め、土魔法も込める。


「完成っと! くらえっ!!!」


 重量は軽く1トンは超えてるだろう。土魔法で強化した鎖の塊だっ!


 俺は────手元の鎖を下に勢い良く引き下げる。


 重力の力を借り、凄まじい速度で上空より降ってくる塊は隕石と変わりがないと思う。


 これなら────いけるはずっ!!!


 その頃には矢の猛襲は終わり、ガイは鉄壁を解除していた。


「オリバーっ! 上じゃっ!」


 ガイの声にオリバーは反応し、上を見る。


 だが、既に遅いっ!



 ────!? これは魔力!?



 当たると確信した時、魔力を感知する。その瞬間、鎖塊に俺から右方向から光線が貫く────


「なっ!?」


 俺は急な出来事に驚き、声を出す。


 貫かれた鎖塊は砕けて落ちる。


 それでも、十分な威力を保っており所々にクレーターと衝撃波が生まれる。


 視線を光線の発生源に向けると光姫と言われた女がいた。そこには先程まで一緒にいたシオンの姿がなかった。


 視線を周りに向けシオンを探すと────


 ────俺の左後方にいた。


「ミアっ!?」


 だが、その手にはミアが抱えられていた。ミーラとフローラは地面に倒れ、こちらを見ている。


「悪いが、任務を優先させてもらったよ。────クリスっ」


 くそっ! 戦闘に集中し過ぎていた! 奴らの目的はミアじゃないかっ!


「わかってるわよ。自己紹介してなかったわね。私は────【光姫】クリスよ。覚えなくていいわ。さようなら────」


 ガイやオリバーの場所に移動したクリスから膨大な魔力が溢れ出る。


 光がクリスの前で収束される。先程の光線が来るのだろう。


 そして、その線状には俺を含め、十傑以外の全員が射程圏内にいた。


 後ろを振り向くと────


 シバは血塗れの状態で闘気を出して大斧を構え────


 シャーリーさんは弓を構え、魔力を込めて迎撃しようとし────


 アイリスは気を失っているハクマを抱き抱え不安そうにし────


 アリスは目が覚めたみたいで俺を心配そうに見つめる────


 ミーラはこれから起こるであろう事に表情を固くする────


 フローラは魔力を込めて────何してるんだ?


 ────そうかっ!?


「フローラっ!!! 頼む────」


 俺は後の事をフローラに託し、クリスの攻撃に対処すべく前を向く。


「ばっちこ〜〜いっ!!!」


 任せたぞ。


 フローラはを使う。


 空間魔法────つまり転移だ。


 フローラは転移を発動すると近くにいない俺、ミア、シバ、シャーリーさん以外の姿が消える。


 残った────シバとシャーリーさんに声をかける。


「2人とも付き合ってもらいますよ? 助っ人必要なんでしょ? 3約束守ってもらいますよ?」


 そして、俺はニヒルに2人に笑いかける。


「当然っ! 1人だけ助けられないなんて許さないわっ! お姉さんに任せなさいっ! 私はありったけの魔力で彗星を放って光線を相殺するわっ! ミアちゃんをちゃんと助けなさいよっ!」


「まぁ、乗り掛かった船だな。【獣化】した俺が闘気を使って隙を作る……その間になんとかしろよ? 男だろ?」


「当然っ! ミアは誰にも渡さないっ!」


「「くっさ(いわね)〜」」


「うっさいっ! ────来るぞ! 行くぞっ!!!」


 放たれた光線────


 それは地面はえぐれ、周りの植物などの障害物は消滅していく。その様はドラゴンのブレス。


 絶対に助けるっ! ミアの笑顔が見たいっ!


 ────ミアを失うかもと思って、今気づいた……そうか……。


 俺は独占欲が強いのかもしれない……それが鎖魔法を使える理由か……。


 だが、大事な人達を守れるなら別に理由なんて何だってかまわない。


 その時────己を自覚したからか、俺の中でパズルの最後のピースが揃うような感覚に陥り、力が溢れて来た。


 俺は束縛する者────レオン!!!



 俺に好意を持ってくれてる人ぐらい必ず捕まえてみせるっ!

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