第51話 八首と十傑

「おらぁぁぁぁっ! 潰れろやっ!!!」


 シバは大斧を上段から、オリバーに向けて振り下ろす。


 オリバーは全く動く気配がなく、そのまま仁王立ちし受けるつもりのようだ。


 当たるっ! と思った瞬間にシバの大斧はオリバーのによって横に叩かれ大斧はそのまま地面に激突する────


 激しい衝撃により、大斧は地面にめり込み、砂埃が舞う。


「シバ……その程度では届かんのはわかっておるだろ?」


 無駄だぞと言わんばかりにシバに言い放つ。


「まぁな。ウォーミングアップだ────よっ!」


 シバは闘気を先程より込め始めた。そして────


 大斧は先程より、更に勢いが増して繰り出される。


 オリバーは背中にしまっていた大盾を出し、防御体制に入る。


 シバは気にしないと言わんばかりに横薙ぎに強烈な一撃を放つが──


 ガギンッ


 という音と共にオリバーは闘気の込められた一撃を盾を使い、防ぐ。


 シバはそんな事わかっていたと言わんばかりの顔で気にせずに乱打する。


 大盾で全てを捌くオリバーには攻撃が全く当たらない。それどころか重量感のある攻撃を物ともせず、捌ききる、その顔は余裕の表情すら窺える。


 一旦、攻撃を止めるシバ。


「さすがに面倒くせぇな……恩恵、【】だったか? 攻撃が近付く度に減速して破壊力が出ねーな」


「我の前ではどんな攻撃も停滞する。シバ、お主の攻撃もな。お遊戯みたいな攻撃では我には届かんぞ?」


「まぁ、そうだろうなぁ……やっぱ手加減して勝てる相手じゃねぇか」


 そう言った瞬間にシバは目を瞑る。闘気は先程よりなる。


「そうだ。初めからそうしてれば良かったのだ。では行くぞ────」


 オリバーは剣と盾を出し構え、シバは目を開けて特攻する。


「全ての攻撃は停滞する……【沈滞】……」


 オリバーは遅延を使った技を使い、広範囲に効果を及ぼしているようだった。シバの動きは離れていても微かに鈍くなる。


「しゃらくせぇぇぇぇっ!!!!」


 言葉と共に急激に膨れ上がった闘気が放出される。それと同時に、大斧を曲芸のように回す。


 その瞬間に斧の周りから遠心力も加わり闘気による衝撃波が生まれオリバーに向かう。


「金剛旋風撃っ!!!」


 衝撃波の濁流と大斧による凄まじい一撃が盾と接触する────


 辺り一帯が衝撃波の被害を受け、木々が折れ曲がり、クレーターが出来上がる。


 2人はそのまま激しい攻防を繰り返した。




◆◇◆◇◆



「あんのアホっ! こっちまで余波が来てるじゃないっ!」


「ガハハハハッ、さすがシバ! 豪快じゃ! こっちもボチボチ始めるぞ?」


「脳筋はこれだから困るわね……」


 シバとオリバーの衝撃音を聞いたシャーリーとガイはそれを皮切りに戦闘が始まった。


 手始めと言わんばかりにシャーリーは弓を出して攻撃する。


 シャーリーから放たれる矢は通常の速度より速く、避けるのも厳しいと思わされる。何より、驚くべきは、その数だ。放たれる矢は手元に離れた瞬間に



「相変わらずの数だなっ!」


 ヅガガガガガガガガガガガッ


 ガイはシャーリーが行動し出した瞬間にすかさずで出来た壁を前に出して防ぐ。


「私からのプレゼントは受け取ってもらえないのかしら? 悲しいわぁ。男なら女からのプレゼントはちゃんと受け取りなさいっ」


「無茶言うなっ! あんな殺意の篭ったプレゼントなんかいらんわいっ! ……ったく、厄介な恩恵だな……【】だったか?」



「あら、よく覚えてたわね。脳みそまで筋肉じゃなかったのね? 貴方こそ、固有魔法【鉄】は相変わらず硬いわね」



「……やはり、シャーリー相手に出し惜しみしておれんな……纏衣【鉄】────」


 ガイは纏衣で鉄を体に纏う。その姿は全身甲冑だ。両手には巨大な槌を握っていた。その大きさは人間に振る事が出来るのかという程大きな槌だった。


「────【乱射】」


 そのままシャーリーは矢を撃ち込む。


 放った一本の矢は分裂し、ガイに届く頃には500本は超える数になっていた。


 ガイは両手で持っている巨大な槌を横薙ぎに振ると、風圧だけで複数の矢を無力化させ、そのままシャーリーに風圧が襲う。


「きゃっ」


 可愛い声を出してガイを睨み付けるシャーリー。


「おぉぅ、怖ぇなぁ。淑女はそんな顔してるとダメだぞ? おっと、もう! ガッハッハッハッ……────っ!?」


 その瞬間に場は一気に凍りつくような殺気がシャーリーより放出される。


「死ね」


 凍えるような声音と共に放たれた攻撃は先程と同じ乱射。しかし、放った矢の数は5本。合計約2500本を超える矢が襲う。


 ガイは先程のように槌を振り回して迎撃する素振りを見せず、槌を手前に置き、鉄壁をドームを作るように地面から全周囲に展開した────


 ────矢は四方、上方から降り注ぐ。


「乙女を貶した奴は串刺しになって散りなさいっ! 【流星】」


 激しい矢の弾幕が鉄壁に向かい繰り出され────


 ────鉄にめり込んでいく。


 普通の矢が鉄を貫く光景は異常だ。


「ぐあぁぁぁぁぁっ」


 ガイの唸り声が辺りに響き、矢の弾幕も収まる。


 鉄壁が地面に戻っていく────


 そこには、矢は貫通したようで、鉄を纏った隙間から夥しい血が地面に流れ落ちていた。


「シャーリー……恐ろしい女だぜ……俺の防御を貫くとは……。だが、俺も十傑の1人。これぐらいでやられはせんっ!」


 表情は鉄で覆われてわからないが、声色的にかなり苦しそうに見受けられた。


 ガイは自分の目の前から鉄壁を出し、質量重視でシャーリーに向けて放つが────


 ────既にシャーリーは次の矢をつがえていた。


「【彗星】」


 次の瞬間に放たれた矢は手元を離れた瞬間に魔力を纏い大きくなり、ガイに向かう。


 貫通力重視の一本の矢は鉄の重量、質量を無視して貫いていく。


 避ける暇もないガイは覚悟を決めて受け止める為に踏ん張った瞬間に矢は────



 ────


 遅くなった矢は勢い無くガイに当たるがダメージはなく、ガイは急死に一生を得た。



「────っ!? オリバーか!? 助かったぜ!!!」


「我に後で酒を奢るが良い」


「終わったら浴びるほど飲ませてやるよっ!」


「シバはどうしたの!?」


 ガイとオリバーの会話にシャーリーは焦ったように割り込む。


「ふむ、あそこにいるぞ?」


 指を指した先には────


 ────シバが血塗れで膝を着いていた。


「シバっ! 大丈夫!?」


 シャーリーはシバに近付き、呼びかけて無事を確かめる。


「すまん……迷惑かけたな」


 シバはいつものように陽気ではなく、申し訳なさそうに答える。


「さて、まだまだこれからだ────断罪を続ける」


 オリバーの声が木霊する────

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