第53話 黒い鎖

 クリスより放たれた極太の光線は凄まじい勢いで俺達を呑み込もうとする。


 シャーリーさんは極大の彗星をそれに対して放つ。


 二つのエネルギーの塊りはお互いに拮抗する────


 二つとも貫通重視の攻撃、違うのはクリスは常に放出、シャーリーさんは込めた魔力のみを放出している点だ。


「ちっ」


 シャーリーさんの舌打ちした直後、彗星は押され始める。


 拙いっ────


 そう思った瞬間────


 人影が光線に飛び込む。


 ────シバだっ!


 シバは全身に毛が生えて獣人の姿から野生の熊らしくなっていた。違うのはそれだけではない、凄まじい闘気を放出していた。



「ガアァァァァァァァァァァァァアッ!!!」


 シバは咆哮と共に光線を


 そして────そのまま軌道を逸らすように放り投げる。


 まんま熊の容姿をしたシバのその姿と行動は漫画じゃないのか? と疑うような光景だった。


 それに放出系の魔法って掴めるんだな……。


 ────って! ボケっとしてる場合じゃねぇっ!


 俺は全力でシオンの元に走り出す。


 俺は願う────


 より強く────


 より────想いを込めて────


 鎖を出す!


 俺の右手には黒いオーラを放つ一本の黒い鎖が具現化される。ゼドの時から黒い鎖に変わったが────今の鎖方が一目でヤバいと思わされるぐらいの力が篭っている。


「行かせるかっ」


「停滞するが良い」


 だが、ガイの鉄魔法により、シオンとの間に鉄壁が作られ、オリバーの恩恵により、俺の速度は遅くなる。


「消えなさいっ」


 更に俺にクリスの光矢の雨が襲い迫る。


「俺もいるぜっ!」


 ついでに、全身ボロボロのジョンが回復したのか、俺に向かって特攻して来た。


 全員相手は────キツいな。


「流星」


 シャーリーさんの流星が光の矢を相殺する。


 だが──それでも届かない────



「【】」



「【】」


 本来いないはずの2人の声がした────


 ミーラの大量のナイフはジョンを串刺しにし──


 アリスからはソニックブームを引き起こした二本の斬撃が飛び、ガイの鉄壁を切断した──


 今は2人がいる事はこの際どうでもいいっ! 助かるっ!



「お返しじゃぁぁぁぁぁぁっ!!!」


 そして────後方から聞こえる、この声は明らかにシバだな……。


 「むっ。遅延……」


 オリバーに対し、闘気を纏った熊姿のシバは一瞬で俺の前方に移動して大斧を叩きつけるが────盾で防御される。


「あめぇぇぇぇぇっ!!!」


 シバはそのまま大斧を振り切り────


 オリバーを吹き飛ばす。



「「「「いけぇーっ!!!」」」」


 皆──ありがとう────これなら届くっ!


 シオンは驚いた顔をした後に、ミアを自分の背後に置き、剣を構える。


 俺は黒鎖を蛇腹鎖にした状態でシオンに向けて振る────


 黒鎖と剣が交わる────


 ギンッギギギギッ


 黒鎖の効果なのだろうか? 先程の戦闘の時のように吹っ飛ばされる事なく、鍔迫り合いになる。


「レオン、これで最後だ────瞬絶」


 その剣戟は、恐るべき速度を持っていた。

 一分の無駄もない研ぎ澄まされた体裁きから繰り出される必殺の振り下ろしは、大気を切り裂くような速度と切れ味で迫る。


 反応する事も許さない────そんな意思が感じられた────


 全身の至る所に激痛が走り、俺は即死する────


 ────がこれぐらいでは死なないっ!



「まだだっ!」


「────なっ!?」


 終わったと油断したシオンは俺の声に驚愕し、それと同時に俺は黒鎖をシオンに振り抜くが高速で振るわれた剣により、弾き返される。


 この不意打ちの攻撃でも反応するのか!?


 速度では勝ち目がないが、やるしかないっ!!!


 俺は右手の黒鎖を剣状、左手で通常の鞭状の鎖で翻弄しながら攻撃する。


 この手に持っている黒鎖は頑丈な為か、切断される事なく弾かれるだけだった。


 俺は黒鎖をシオンを中心にサークル状に巻き付けるようにし────捕縛するっ!


「絶界」


 絶対領域を展開し、身を守るシオンに先程までの余裕の表情はない。


 黒鎖は金属音と共に弾かれるものの、切断はされない。だが、巻きつける事も出来ない。


「ゴハッ」


 シオンは吐血し、絶界の効果も切れる。


 好奇っ!


「シオンっ! 直ぐ行くっ! ──「邪魔だっ!」──ガハッ──」


 全身甲冑状態のガイがシオンに近付くが────

 黒鎖の一振りの攻撃で吹き飛ばされ甲冑も粉々になる。


 黒鎖ヤバいな……威力高すぎだろ……。


 それ以上にシオンもたまに攻撃受けているのに擦り傷ぐらいのダメージって……シオンも半端ないな。


「出来れば使いたくなかったが────刮目せよ!」


 シオンが目を見開いた瞬間、俺と鎖は動けなくなる────


 いったい何が────痛っ!


 胸に痛みが走る。


「……【封印】……本当にこれだけは使いたくなかったが────目的の為には仕方ない」


「……封印?」


「そうだ。本来なら使う予定ではなかったのだが、思った以上に君の恩恵と固有魔法は厄介だ。心臓を貫いても死なないとは……大地の聖女が連れ去られるのをここで見ているがいい」


 ミアを抱き抱えて去ろうとするシオン。


「「待ちなさいっ!」」


 ミーラとアリスが向かうが──


「力の無い自分を恨め」


「「きゃっ」」


 2人ともシオンの速さに付いていく事が出来ずに翻弄され、斬撃を浴びせられる。


 全身に斬撃を受けて倒れる2人。なんとか致命傷は避けているようで息はある。


「行かせるかっ!」


 次はシバが特攻するが────


「それはこちらの台詞である」


 オリバーが再度シバの前に立ち塞がり、足止めされる。



「邪魔よっ!」


「シャーリーはここで見てなさい」


「殺すっ!!!」


 シャーリーさんはクリスとの撃ち合いをしている。



 シオンをなんとかして捕まえなければ────


 まだ力が足りない────シオンを捕まえられるだけの力がっ!!!


 ドックンッ


 俺の心臓が高鳴る────その瞬間、黒鎖は先端部分から枝分かれしていき、9本になる────


 その様は九尾を想像させる。


 次の瞬間、拘束されているはずなのに9本に枝分かれした黒鎖は俺の


 ミアを抱えたシオンは片手で剣を持ち捌くが、黒鎖の一本一本が精密に連携して攻撃していく為、どんどん後退していく。


 これ俺の思い通りに動かないし、暴走してるんじゃ……。


 そして────


 1本の黒鎖がミアに当たると瞬間────


「こんのアホ鎖がぁぁぁっ! ミアに傷一つでもつけたら粉々にすんぞぉぉぉっ! おらぁぁっ!!!」


 俺の声に反応し、ミアの前でピタッと黒鎖は止まる。


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