第43話 冒険者になった!

 しばらく静寂した後に、砂埃が落ち着き、視界が明瞭になる。


 目の前には大斧を振り下ろし、俺の鎖に食い込んだ状態で立っている姿のシバ。


「見事だ……」


「……どうも」


 俺はあのヤバい攻撃を受け切り、なんとか無事だった。


 無事と言っても半円状の鎖結界【檻】はM字状になっており、俺の頭すれすれで大斧が止まっている。


 危なかった……もうすぐで脳天がかち割れる所だった……。


 周囲は俺の居る所以外は、あたり一面がえぐれていた。ただの振り下ろしがとんでもない破壊力だ。


 俺は冷や汗を流す。


「約束通り、俺のサインをやろうっ! そして、大蛇入隊おめでとうっ! これで君は我等の仲間だっ!」


「サインなんていらねぇよっ! というか、なんで入隊の話になってんだよっ! そして明らかに過剰攻撃だろっ!」


 いつの間にか入隊試験になってたのか!?


「うむ、サインは後でやろう。強い奴は大歓迎だ! 見た所、悪い奴でもないだろうしな。俺の職務はヤマトの防衛だからな。怪しい奴は死んでも仕方なかろう」


 話が通じてるようで通じてないっ! 確かに俺は危険地帯から出て来たけど、いきなり殺そうとするなよっ!


「サインいらねぇし、その大蛇にも入らねぇよ! 勝負は終わったんなら、ヤマトの中に入ってもいいだろ? もう行くぞっ!」


「むぅ、残念……。まぁそのうち気が変わるかもしれんだろう? 参加賞のガイドぐらいはしてやろう」


 いや、もうほっといてくれませんかね??




 ◆◇◆



 そして今はヤマト国の門にいる。


 2人の門番さんはシバに話しかけている。


「シバさんっ! 向こう側で凄まじい音がしましたが、異常事態ですか!?」


「ん? 問題ないぞ? ちょっとこいつと模擬戦してただけだ。こいつは将来有望だ。になれる器だ」


 あれは模擬戦ではない! 断じて違う!


 それに、俺に話振るなよ。門番さんの目が、「こいつが?」みたいになってるだろが。


 しかも何だよ、その八首って……あれか? 大蛇の首が八つあるからか? それならベタすぎるだろ……。


「こんなガキがですか!?」


「なんだお前俺を信じねぇのか? こいつ、俺の金剛破砕撃防いだぞ? あれ防げる奴ってあんまりいねぇぞ?」


「「はぁ!?」」


「なんならお前らに試してみようかなぁ〜」


 お前めっちゃ、タチが悪いな。


「「全力でお断りします!!!」」


 そりゃ、そうだろ。あんな攻撃受けたらミンチだよミンチ。


「じゃあ、こいつら入っていいな? そもそも、何でお前らに止められねぇといえねぇんだよ。おかしいだろ?」


 いや、職務なんだから普通だろ……むしろお前の傍若無人っぷりがおかしいだろ。


「それで入っていいのかな?」


 話が進まないので割って入る。


「あ、あぁ、かまわない。むしろさっさと入ってくれ。このままだと俺達がミンチになる。これは仮の身分証だ。ちゃんとした身分証が出来たら、またここに来てくれ」


 そう言って、何か書かれている紙を渡される。


「わかった。なんか面倒臭い事になってすまないな」


「気にするな……今日は厄日だっただけだ」


 シバが来る日は厄日なのか。これからも頑張ってくれ……。


 そして、俺達は冒険者ギルドに向かい歩き出す事にする。案内はシバだ。


 冒険者ギルドって確か父さんの話によると、職業安定所みたいな物だったはずだ。


 一攫千金も狙えるけど、命の危険が付きまとう仕事だと聞いたな。ランク付けもあるし、ラノベのテンプレだな。


 と言う事は、入ったら絡まれるお約束があるのかもしれない。


 俺はそんなワクワクした気持ちを抱きつつ、冒険者ギルドに到着した。


 そういえば、いく先々で道が割れていたな。この国では、人に当たらないように皆気をつけているのだろうか?



 ドンッ



 シバが扉を激しく開ける。


「ギルマスはいるかぁ?」


 シバの物言いはまるで殴り込みのような入り方だった。


「──!? シバ様!? なぜ、此処に!? 此処にはもう貴方と戦いたい方はおられませんが……」


 受付嬢は怯えながら答える。


 おぉいっ! お前、どんだけ迷惑かけてんだよ!


「いいから、ギルマス呼べ。なんか暴れたくなっちまったな〜〜うおっ!?」


「シバ、少し黙ろうか? 受付のお姉さんが困ってるじゃないか。こんなむっさいおっさんに迫られたら誰でも嫌だろ?」


 俺はシバを鎖で雁字搦めにする。


「「「「……」」」」


 辺りが沈黙する。


 なんで!? そもそも、ギルマスいきなり呼べとか俺望んでないんだけど!?


「おいっ、あいつシバさん止めたぞ!?」


「命知らずか!?」


「あいつミンチになるな」


「カッコいいわ……」


 そんな、声が聞こえてくる。最後の言葉はうっとりしただ。俺にその気はないからその上目遣いはやめてほしい。


 ミーラなんか、両手で自分を抱きしめて気持ち悪がっているぞ?


 というかシバ迷惑かけすぎじゃね? もしかして此処に来る途中、皆避けてたのってシバのせいか!? やっぱり、ガイドとかなかった方が良かったんじゃ……。


「あの……」


「すいません、ご迷惑をおかけしてます。登録に来ただけなので、この人ほっといて下さい。ギルマスとか呼ばなくていいですからね」


 ギリギリギリギリ


 シバが鎖を千切ろうと力を込め始めたので、俺は更に鎖を増やし、魔力を込めて千切れないようにする。


「……」


 受付のお姉さん、何で黙るの!?


「登録、お願いしてもいいですか?」


「は、はいーーっ! ひっ!」


 ギリギリギリギリ


 今度はシバがあの白いオーラを纏って力を込め始める。受付のお姉さんは返事をしたものの、シバの方を見て悲鳴を小さく上げる。俺はすかさず魔力を全開にし、束縛し直す。


 ちなみにシバが話さないのは鎖で顔面も巻きまくっているからだ。


 チラチラとシバを確認する受付のお姉さん。


「大丈夫ですよ。このおっさんは俺が動かないようにしますので、安心して手続きお願いします」


「はい」


 そして、俺とミーラの登録は速やかに終わり、冒険者カードを受け取った。


 色々と説明してもらったが、既に父さんから聞いた内容がほとんどだった。


 俺とミーラのランクは1番下のFランクから、依頼は定期的に受けないと除名処分。冒険者カードは身分証として使える為、サボる人には使わせない処置だとか……。


 Fランクは1ヶ月、Eランクは3ヶ月、Dランクは1年、Cランクで2年らしい。Bランク以上は基本的に除名処分は余程のことが無い限り、ならないようだ。Aランクになると一流の冒険者と認識される。


もちろん、Sランク以上も存在する。もはや人外だと聞いた。


 その時の受付の目は、貴方も人外ですよ? と訴えられたような気がしたが……。


 なんか、俺の想像してた冒険者ギルドと何か違った……。


 荒くれ者の集団が襲ってくるテンプレはなかった。その代わりに尊敬の目で見られるという意味不明な事態になった。


 ミーラなんかは途中から受付のお姉さんが俺に話しかける度に抓ってくる。人見知りなのかな? 一切話さなかったな。


 向こうも業務なんだから、仕方ないじゃないか。


 正直、俺もお年頃だし、受付のお姉さん美人で気になったけどさ! だってケモミミで可愛くて胸大きいとか反則でしょ!


 痛っ!?


 ミーラさん……目が凄い怖いです。それにめっちゃ痛いです。それナイフが刺さってますよね?


 ごめんなさい、謝るからグリグリえぐらないで下さい。


 しかし、テンプレって中々ないんだなぁ……。


 ちなみに、冒険者ギルドのお姉さん曰く、シバは大蛇とかいうこの国の騎士団に属する組織のトップ8人の内の1人だと聞いた。やっぱり、八首ってそのまんまなんだな。


 シバが偉いさんとは……この国は大丈夫なのか?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る