第44話 この人は!?

 ジャラジャラジャラ


 冒険者ギルドから出た俺は、シバの鎖を解く。


「死ぬかと思ったわっ! 息できねぇだろっ! しかもこの鎖、模擬戦した時より頑丈で振り解けねぇしっ!」


 いや、あれは断じて模擬戦ではない。そして、息が出来ないとか言いながら、ずっとモゴモゴして動いていたじゃないか!


「シバはあれぐらいじゃ死なないだろ? ほら、俺悪くない」


「優しそうな顔してやってくれんなぁ。そういや、会えたのか? まぁ会えてないと助かってないか」


 ────っ!?


 俺は臨戦態勢をとる。


 そんな俺を見た、ミーラ、フローラも直ぐに動けるように態勢を整える。


「悪くない顔付きだな。なんで知ってるんだ? って顔に出てるぞ?」


「……」


 俺は鎖を自身の周りに展開する。


 こいつは間違いなく、確信を持って言っている。しかもわざと、俺にわかるように。


「まぁ、待て。別に今は戦うつもりはない。お前の事は既にシャーリーから報告を受けている。アルステラ王国の精鋭とやり合った事もな。まさか此処に現れるとは思ってなかったんだわ」


 シャーリー? 誰だよそれ? それより、俺の情報が筒抜けなのか!?


「……俺の事を知ってるのか?」


「知ってるというのはおかしいが、報告は受けているな」


「意味がわからないな」


「わかるように言ってやろうか?」


「あぁ」


「まず、恩恵持ちってのは基本的にどんな能力であれ、どの国も欲している……。この国ももちろんそうだ。これは機密になるが──まぁお前ならいいだろう。この国には恩恵持ちの所在がわかる奴がいてな。そいつが、アルステラ王国の辺境に3人の恩恵持ちの存在を確認した。確か15年ぐらい前にそれがわかって向かった事が始まりだったな」


 産まれた時には既にチェック済みだったのか……。その3人は俺、ミア、アリスだろうな。


「それで?」


「まぁ、それでな。そいつが監視と手助けをしつつ、成長して、こちらに取り込めそうなら説得するように伝えてたんだが……まず、お前かな? 村から消えただろ? そんで、その後にアルステラ王国に村絡みでミアって子が密告されただろ? あれで一回手を引いたんだよ」


 拐ってなんとかしようとする連中じゃないって事はわかったが……監視と手助けって、誰も思い浮かばないんだけど……誰かいたかな?


「なぁ、その監視と手助けしてた人って誰も思い浮かばないんだけど、誰なんだ?」


「俺と同じ八首の奴だな。覚えてないのか? 確か、あの年齢詐欺──っ!? 何しやがる!」


 鋭い一撃の矢が放たれ、それを手で掴むシバ。


「あんたが悪い。私は詐欺してない。それにしてもレオン君大きくなったわね〜」


 俺達に近寄りながら、声をかける女性がいた。


 俺を知ってる感じだし、この女性がさっき言ってた、俺を監視と手助けをしてた人なのだろう。かなりの美人さんだな。だが、こんな人通りがある所で矢を普通に発射する危険人物が八首か……。


 俺は村で……この人を……。


 全く見た事ないなっ!


 誰なんだよっ! 


 しかも耳が長いからエルフって奴じゃないのか? 髪の毛の色は金髪で、アリスの金髪より少し薄い感じの色だ……。見た感じかなりお淑やかなに見える。


 そもそも、そんな人村にいなかったよ! 


 美人なら有名になってるだろっ!


 村の規模舐めんなよっ! 噂話は直ぐに伝わるんだぞ!


 心の中で叫びまくったが、実際こんな人は本当に見た事がない。


 俺は不思議そうにエルフのお姉さんを見る。


「あーーっ! そっか〜レオン君にこの姿見せたことなかったね。洞窟行く時にポーション渡されたの覚えてない?」


 ん? ────んん??


 まさか……。


「薬師の婆さん?────ぐほっ」


「誰が婆さんだってぇ??」


 この人、鳩尾にパンチしたよ! しかも凄く痛い。


「……って事は薬師の婆さんはあんたか?」


「そうだっ! 次婆さんとか言ったら滅多刺しにしてやるからなっ!」


 こえーよ! さっきのお淑やかな感じと全然違うよっ!


「こいつ、めちゃくちゃだろ?」


 そんな事を言ってくるシバ。


 お前も大概だろ!


「シバ、てめぇもさっき年齢詐欺とか言ってたろ? 後で私の訓練付き合えよ?」


「まぁ、シャーリーあれは言葉の綾だ。あんまり怒るとシワが増えるぞ?」


 一気にその場の空気が凍りつく。


 なんか俺にはエルフのシャーリーさんだっけ? その人からブチッと何か切れる音が聞こえた気がした。


 そこからは2人の戦闘が開始する。


 そこら中で戦闘音が響き渡る中、俺は思考する。


 このシャーリーさんが、俺やミア、アリスを監視と手助けをしてたというのは事実なのだろう。


 彼女の情報のお陰でミアは救えた。しかし、俺達が必要なら拐った方が早かったはずだ。どうしてそうしなかったんだ?


 クイックイッ


 ん?


 思考の途中でミーラから服を引っ張られる。


「ミーラどうしたんだ?」


「あれ止めなくていいの? 家が壊れてるけど……」


 そう言われ、シバやシャーリーを見ると。


 シバが斧を振り回す度に家々は粉々になり、シャーリーさんが矢を放つと、その線状にある物はハリネズミみたいになっている。


 これは酷い……こいつら本当にこの国を守る為の組織にいるのか疑問だ。


「シバっ! 斧振り回すの止めろっ! そしてシャーリーさんの矢を避けるなっ!」


「はぁぁぁぁっ!? お前無茶言うなっ! このままだとやられんだろっ! あの矢けっこうヤバいんだぞっ!」


「さすがレオン君っ! 私の事が好きなのねっ! こいつ始末したらチューしてあげるね〜」


 我ながら無茶な事を言ったような気がするが、シバなら頑丈だし大丈夫だろ。そもそも、シャーリーさんに失礼な事を言ったんだから仕方ない。安心して逝け。


 そして、シャーリーさん。チューいらないんで、そういうの言うのやめて下さい。


「レー君って、あんな暴走女が好みなの?」


 ほら、ミーラが食い付いたじゃないか!


「全然。ただ、昔に助けてくれたからな。それに失礼な事を言ったシバが悪い」


「……確かに。レー君は浮気しないよね?」


「……もちろんだ。俺には既に伴侶がいるからな」


「僕は?」


 これは言質をとりに来ていると察した俺は話を逸らす事にした。


「……さぁ、ぼちぼちこの戦闘終わらせようか! 街が無くなりそうだしな」


「むぅ……」


 不可視の八岐の舞を発動し、シバとシャーリーさんに向けて放つ。


 そして────2人を捕縛して無力化する。


「なっ!?」


「きゃっ」


「もう終わりな?」


 俺は少し殺気を込めて言う。


「「はいっ」」


 周りに迷惑かけすぎだろ……。


 これ後始末どうするんだよ。


 なんか今日は色々あって疲れたわ……。


「お前ら動くなっ!!!」


 唐突に声をかけられる。


 まだ何かあるのか? もう、お腹いっぱいだよ。

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