4章 〜大樹と断罪〜

第40話 迫る追手

 〜???視点〜


 夜分、そこは大きなお城の中……。


「まだ大地の聖女の行方はわからんのか! もう2年だぞっ!!!」


 王座に座る豪華な衣装を身に纏う壮年の男が部下らしき男に罵声を浴びさせる。


「現在、調査中です。目撃情報は一応あるのですが……」


「どこだっ!?」


「……それが魔女のいる試練の洞窟ですが……調査隊を送っても誰も帰って来ない有様でして……。他にも何点か気になる事が……」


「ちっ! 忌々しい魔女がっ! 十傑と精鋭を出せるだけ出せっ!」


「────っ!? それでは本格的に捕まえるのですね!?」


「そうだ。聖女は我が国にとって悲願なのだ。長い間、癒しの聖女が現れない。今確認出来ている、大地の聖女だけでも確保しろっ!」


「はっ! 実は既に十傑の1人を向かわせております。追加で出来る限りの精鋭を向かわせます!」


 部下らしき男は王座を後にする。


「これで我が国は……ふっふっふっ……ふはははは……」



 教皇の笑い声が王座に響き渡る。





 ◆◇◆◇◆



 〜アリス視点〜


 私は現在、生まれ育った開拓村に向かっている。


 理由はハクちゃんが──


『強い魔力の気配がする。主と少し似ているね』


 ──と言ったからだ。


 レオンはまだ転移させられた危険地帯から脱出出来ていないとハクちゃんから定期で聞いているから、おそらくレオンのお父さんがいるんだと判断し、様子を見に行こうとしているのだ。


 おじさん見つけたら洞窟に来てもらおう。アイリスちゃんも、きっと喜ぶと思う。ミアも来たがっていたけど、お留守番を頼んだ。


 そして、やっと村に到着した私が見たのは────


 壊滅した村だった。


 家々は潰され、動かない人が転がっている。



 ────っ!? これってまさか!?


 おじさんが?


 いや、まだそうだと決定したわけじゃない。


 私は村を見て回る。


 ────結局。この後しばらく何か手掛かりがないか探したけど、何も見つからなかった。


 この村の人は私の知る限りは半数近くが死んでいた。残りは逃げた可能性が高い。


 それに教会の人らしき服を着た人も何人も死んでいた。


 いったい何が起こったんだろう……。


 私は報告するために洞窟に戻る。



 到着すると────


「アリスよっ! ミアがいなくなった!!!」


「────!? なんで?!」


 いつものような余裕のある感じではなく、少し焦ったように衝撃の事実を告げられる。


「わからんのだ。少し目を離した隙にいなくなった」


 ────っ!? これは!?


 急激な魔力の高まりを感じる!?


『アリス姉行くよっ!』


 最近は何故かアリス姉と言うハクちゃん……ハクちゃんがいれば多少の危険は大丈夫なはず。


「うむ、アリス行ってこいっ! これはおそらく……レオの父君の可能性が高いっ!」


「私も行くっ!」


 アナさんの言葉にアイリスちゃんも便乗する。


 アイリスちゃんが行くには危険なんじゃ……。アナさん止めてよっ!


 いったい何が起こっているの?




 〜ミア視点〜


 私は今、教会の紋章を身に付けた関係者らしき人達に連れられ、歩いている。


「ちゃんとついて来ているな」


 1人の男が話しかける。


 ついて来ているなって、ついていかないとアリス達を襲うって言ったじゃない。


「……」


「だんまりか……まぁ、せいぜい賢くしてろよ?」


 教会の人ってこんな野蛮な人達なんだね。


 なんとか逃げ出せないかな?


 ────っ!? 魔力の高まりを感じる……。


 アリスは魔力がここまで強くない。アイリスちゃんもどちらかと言うと接近戦より……じゃあ、アナさん? いや、アナさんの魔力はあの地獄の特訓でわかる。


 誰だろ?


「──!? なんだこの魔力の高さは! おい! そこの奴ら、ちょっと確認して来い!」


「「「はっ!」」」


 数人ほど、先程の男に命令されて周囲を調べに行った。


 ────しばらく経っても誰も帰ってこない。魔力の高まりは収まっていない。


 行った人達に何かあったのかもしれない。


 そう思った瞬間に私の前方から何かが飛び出してきた。


「ぐっ!? なんだ? くさ……り……?」


 複数人を鎖で捕らえ、そのまま締め付け体を切断する。


 呪われていると言われたら、普通に信じてしまうぐらい禍禍しいオーラが出ている。


 鎖を締め付けるだけで人間の体をスライスするなんて……使い手はかなり強い。


 この鎖はレオンではない……誰だろうと思って視線を向けると。


 そこには隻腕の男────レオンのお父さんが立っていた……。


「ミアちゃん……逃げなさい……」


 なんで此処に?


「逃すわけないだろ? おら、お前ら囲めっ!」


 総勢20人程がおじさんを囲む。


「おじさん逃げてっ!」


「いや、ミアちゃんは娘みたいなもんだ……逃すぐらいはするさ……」


「お前、この状況で逃れると思ってるのかぁ?」


「出来るさ……」


「ぐっ」 「ガハッ」 「ぎゃっ」 


 どんどん悲鳴と同時に目の前の武装した人達は鎖で切断されて死んでいく。


 私は目を見開く。


 かつてのおじさんでは考えられないぐらい強い。アリスと模擬戦しても一方的にやられたのに……。


 いったい、会わない間に何があったの??


「さぁ、早く行きなさい……」


 私は、このまま行ってしまっていいのか考える。


 アイリスちゃんに会わせたい。


「アイリスちゃんと会わないんですか?」


「……今の俺には会う資格はない。ミアちゃんと会ったのも、拐われそうだったからだ。後、こいつらが村を襲ったお陰で俺の怒りの矛先が変わった。こいつらは俺が殺しておくよ」


 振り向いて言う、おじさんはなんて冷たい目をするんだろう……。


 何を言っても無駄なんだろうと思わせるぐらい、決心が固そうだ。


「ご武運を……」


「あぁ、アイリスとレオン頼むな……」


「無視とは、この『断罪の十傑』も舐められたもんだ。お前は必ず断罪するっ!」


「十傑か……その程度では聖王国の精鋭も質が悪くなったんじゃないか?」


「死ねっ!!!」


 おじさんは敵の大将らしき人と向かい合いながら軽口を叩き、私に手を挙げて振る。


 そして、私は洞窟方面に走り出す。


「行かせるかよっ! お前らは聖女を捕まえろっ! 多少の怪我はやむを得んっ! 絶対に洞窟に行かせるなっ!」


「「「はっ!」」」


 5人ほど、私を追いかけて来る。


 いったい何が起きているの? 聖女ってなんなの?


 しばらく植物成長で追っ手を妨害しながら逃げていたけど。


「いたっ!」


 私は転んでしまう。


 このままでは捕まる────


「ミアっ!!!」


「ミアお姉ちゃん!」


 アリスとアイリスちゃんの声が聞こえ、姿が目に入る。


「アリス! アイリスちゃん?! なんでここに!?」


 私に近付く2人。私は不思議そうな顔で2人を見る。特にアイリスちゃんが戦闘服で此処にいるのが不思議だった。


「あんたこそ何でこんなとこにいるのよっ! 心配したんだからねっ!」


「ミアお姉ちゃん助けに来たですっ!」


「うぅ……ごめん。それより、この人達、私を狙ってるみたいなの。アイリスちゃんのお父さんが逃せてくれたんだけど、逃きれなくて」


「────おじさんが!? ならこいつらぶっ飛ばして、助けに行くよっ!」


「お父さんと会うですっ!」


「お嬢ちゃん俺ら舐めてるだろ? 俺達は教会の────」


「五月蝿いっ」


 話そうとした敵の首はアリスの一閃により胴体と別れを告げた。アリスの攻撃速度は私には全く見えない速度で放たれている。


「──ふっ!!!」


 アリスの居合い抜きにより、他の4人も声を上げる事なく事切れる。


「さぁ、おじさんの所に行くよっ!」


 私は容赦無いアリスを呆然と見る。


『2人とも早すぎるよ〜』


 気の抜けたハクちゃんの声が聞こえてきた。


「ハクちゃんも来てくれたんだ!」


『主から頼まれてるからね〜。ただ、それより此処から逃げた方がいい。敵はかなり強敵っぽいよ? たぶん、此処にいる全員が戦ったら勝てるかもしれないけど、誰か死ぬかもしれない』


 ──!? 全員が固まる。


 やっぱり逃げた方がいいかもしれない。おじさんの発言からすると聖王国が私を狙うために断罪の十傑とかいう精鋭を出してきているのだろう。


「アリス……」


 私はアリスを見つめる。


「そうだね。生きてればいつか会えるかもしれない……」


「お父さんと会いたい……」


 アイリスちゃんは悲しそうな顔をする。


「いつか、会いに行こう。アイリスちゃんのお父さん凄く強いんだよ? きっと、教会の人達なんか一捻りだよ! さっきだって私を助ける時一瞬で敵をやっつけたんだからっ!」


「うん……」


 胸が締め付けられる……なんとか会わせてあげたいけど、敵はおそらく強者。私達が行って更に状況を悪くしたくない。この中で対応出来るのはアリスとハクちゃんのみ。


 力が無いのが悔しい。


 レオン助けて……。


 私達はおじさんの無事を祈りながら洞窟に戻る事にした。

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