第41話 恩恵って所構わず使うと良くないね

 試練をクリアした日から2年は経ったと思う。俺も15歳になってるはずだ。


 しかし、まだアナ達の元に辿り着けていない。


 ついさっき、俺達はこの魔の秘境と言われる場所から抜け出せたばかりだ。


 妖精族は空を飛んでいるから人族とは移動速度が違うのは盲点だった。


 俺とミーラが足を引っ張り、予定していた期間の倍以上かかっている。


 とりあえず、魔の秘境と言われる場所はヤバかった。


 討伐ランクSクラス以上がうじゃうじゃといる上に、歩く度に襲われる。その為、進むスピードが更に遅くなった。


 こんな所で住んでいた妖精族はやはり半端ないと思う。


「ミーラ疲れてないか?」


「レー君大丈夫っ! 僕はまだまだ行けるっ!」


「そっ、そうか」


 気が付いたら何故か呼び名がレー君に変わっていた。まぁ別に構わないんだが。


 ちなみにシーラさんはたまに現れたり、消えたりするのでよくわからなかったりする。


 常に顕現? するのが難しいようだ。


 そういえば────


 ゼドの使っていた恩恵【吸魂】だが。


 たまに技とかを覚える事が出来ると聞いていたので意識して使ってみた事がある。


 相手はゴブリンキングと言われるゴブリンの王様だった。


 倒した────結果。


 技? を覚えたらしい。技というか固有スキルという方が正解のような気がする。


 この世界にはスキルという概念はないが、魔物にも恩恵とか固有魔法みたいな物を持っているみたいで、それを吸魂を意識して使う事により、たまに覚えて使えるようになるようだ。


 おそらく恩恵みたいに、使えば使うほど強力になるのだろう。


 俺が得た固有スキルは────



【絶倫】



 だった……。


 正直、これを得たとわかった時……使うんじゃなかったと後悔した。


 絶倫なんて使える場面が限られている。使えば使うほど強力になっても、俺がなれるのは夜の帝王ぐらいじゃなかろうか?


 こんな事になるなら地竜と戦った時に使えば良かったと心底思った。


 それから吸魂は使っていない。



「ねー、歌ってもいい?」



「「ダメっ」」


 物思いに耽っているとフローラが歌うと言い出し、俺とミーラの2人で止める。


 全く油断も隙もないな。


 何故かゼドの時は上手く歌えていたのに、その後はからっきしダメだった。


 やはり、本気度合いが違うとダメなのだろうか?


 そして、よく大きいサイズで俺が眠ってる時に夜這いをかけるようになった。フローラは薄着なので近付かれると色々と当たる……。


 絶倫が発動するのが怖いので────


 よく鎖で宙吊りの刑にしている。


 まぁ、そんな感じで日々を送っている感じだ。



 危険な険しい道のりからやっと脱出し、人が整備したような少し整った道に出れた。


 俺達の反対側から人は歩いて来ない。


 そりゃそうだ。誰が好んであんな危険地帯に足を踏み入れる馬鹿はいないだろう。


 と思ってた時期が俺にもありました。


 しばらく歩いていると。


 遠くから1人、こちらに向かって来ている。見た感じ、魔物ではないだろう。


「ミーラ、あれ魔物じゃないよな?」


「ん〜〜、人っぽいね」


 だよな。


「冒険者かな?」


 この辺で狩りでもしているのだろうか? 冒険者ならそれもあり得るか。


「僕は盗賊に1票」


 物騒だな。

 だが、確かに盗賊っていう可能性も捨てきれないな。こんな危険地帯の近くで1人、盗賊稼業なんてするのか疑問だが。


「盗賊だったらどうする?」


「僕ならーもちろん──だよ?」


 ナイフで首を切る真似やめてくれ。本当に物騒だな。


 2人で会話しながら歩いていたら。距離は声が届くぐらいになっていた。初めて見るが、獣人という種族だろう。耳や尻尾がある。


 見た感じ、熊の獣人かな? 性別は男で……大柄。歳は40歳ぐらいのナイスガイなおっさんだな。武器はデカい斧を背中に装備している。なんか山賊と言われた方が納得がいく風貌だな。


「おっ、兄ちゃん達は向こうから来たのか? こんな危険な所になんでまたいるんだ?」


 もっともな質問だと思う。俺も逆の立場なら聞いていたかもしれない。


「ちっ」


 ミーラさんや、盗賊じゃないっぽいからって舌打ちとかやめてくれませんかね? 相手さんの眉毛がピクピクしてますよ?


 警戒はしているようだけど、話しかけて来ているって事は敵対するつもりはなさそうだ。


 ただミーラの舌打ちで、場の空気はピリピリしているのは気のせいではないだろう。


「どうやらこの辺りに無理矢理に転移させられたみたいなんですよ。良ければ此処が何処か教えてもらってもいいですか?」


 ミーラの舌打ちはなかった事にして俺は答える。


「……此処は昔、勇者が作りし色々な種族が集まる国……【ヤマト】の────」


「ぶふぉっ」


日本特有のキーワードに俺は咳込む。


「……どうした?」


「いえ、続けて下さい」


「いや続けるも何もそのヤマトの近くだな」


 予め、ハクマに頼んで地理などの情報を調べて貰った話だと、国を一つを跨いでいる事になるな。まさか来た所がヤマトとは……。


 ヤマトって大和だよな? 勇者って転移者か転生者か? アナを封印したのも勇者って聞いてるし、その勇者なのか?


「という事は、俺達が元いた所より大分南側にいるんですね……」


「ん? お前ら何処から飛ばされたんだ?」


「確か、アルステラ王国の辺境にいたはずです」


俺の住んでいた国は確かそんな名前だったはずだ。


「またクソ遠い所から来たなぁ〜。転移で飛ばされたって事は身分証もないのか?」


 そんな物はないな。そもそも開拓村の生まれでそんな物が存在するのか怪しいし。


 これ絶対に怪しまれてるよな?


 どうしたもんか……。


「ないんで、とりあえず何処かの冒険者ギルドで作れたらいいなと思ってますね」


 ナイス俺の口っ!


「そうか……、なら腕っ節に自信はあるのか?」


 ん? 冒険者になるには必要だから聞いているのか? もちろん俺は強くなったから自信はある。


「もちろんありますよ」


 俺は即答する。


「なら俺と戦おうぜっ!」


 なんでやねんっ!

 獣人族は好戦的ってイメージあるけど、これはないだろっ!


「嫌です」


「よ〜〜っく、俺はわかってるぜ? 男なら女の子の前で格好良い所見せたいだろ?」


「いや、あんた何言ってんだ!?」


 断ったじゃないか! 話聞いてるのか!?


「もちろん、報酬は出すし、殺し合いもなしだ。これならいいだろ?」


 話進んでるしっ!


「……ちなみに報酬は?」


「おっ、乗ってきたね〜〜。それはな! 俺のサインだっ!」


「さぁ、皆行こうか……」


 俺達は歩き出す。


「まぁまぁまぁ、待て待て。俺ってヤマトじゃ結構有名人なんだぜ? 俺と戦いたがってる奴なんていっぱいいる────」


「いや、メリットないし」


 即答する。


「────よしっ、なら参加賞もつけてやる!」


「いりません」


 なんだよ参加賞って!?


「……ヤマトでガイドしてやってもいいぞ?」


「いや、いらないって」


「優しいだろ?」


「話聞けよっ!」


「ほらっ、俺に何か言う事ないか?」


「言う事?」


「ありがとうだろ?」


「ありがとう?」


「よしっ! 礼も言われたし、さぁやるぞーーー!」


 こいつ全然話聞かねーな!


 そして、この独特のテンションがウザいっ!

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