第38話 閑話 〜ミーラ過去編2〜
僕が気が付いたら建物の中にいた。
体は相変わらず、僕の意思で動かない。しかも目まで見え辛くなってきている。
移し身も解除出来ないみたいだし、何が何かわからない。
お父さん? どうなってるの??
「ちっ、そういう事か……まさか試練の間とはな……。移し身の効果も切れないか……」
お父さんの独り言が聞こえてくる。僕の声は聞こえなくなっているようだ。
それより、試練の間って何??
ここから出れないのかな?
「ミーラ、聞こえているかわからんが、俺達は試練に囚われているっぽい。ここから脱出するためにシーラを呼ぶ」
お母さん呼べるの?!
手が光出し、目の前に妖精が現れる。その姿は定期的に見てた妖精さんで、確かに髪の色は僕と同じ白色だ。
妖精と人って体の大きさが全然違うから、お母さんと思えなかったのは仕方ないと思うんだ。
「ゼーちゃん!? なんで子供の姿なの!?」
「わからん。ミーラの恩恵の効果が切れてない内に試練に束縛されたっぽいな。そのせいで不完全ながらも俺もある程度の力が使える。ミーラを助けるために力を貸してくれ」
「それはかまわないわ……娘の為だもん。それより、ゼーちゃんは死んだの?」
「……そうだな。俺はもう死んでいる」
「……そう……ミーラは必ず助けるわ。そして貴方も解放する」
「何も聞かないのか?」
「ゼーちゃんの事信じてるから……それに切羽詰まってるんでしょ?」
「ありがとう。お前は最高の嫁だな。ミーラと意思疎通が此処に来てから出来ないんだ。だから早めに行動したい。まず、そこの台座に行って恩恵を貰ってから再度挑戦してくれ。その時に力が制限されている俺の力を使い切らせてほしい。それでおそらくミーラは解放されるはずだ」
「わかったわ。此処には妖精族の精鋭で助けに来るわ。また会いましょう…「──待…て…1人で来い…よ」…」
お父さんは最後に何か言ってたけど、お母さんはそのまま去った。
お母さんも助けてくれるなら大丈夫だよね? 妖精族でも1番強いんでしょ?
そして、僕の目も段々と見えなくなってくる。なんか怖いよ……。
最後に見た光景は今でも覚えている。
それは僕の体でリザードマンを焼いて口に運ぶ姿だった……。これは忘れる事はないと思う。
◆◇◆◇◆
何日か経っただろうか?
もう僕は声しか聞こえない。たまにお父さんが僕に話しかけてくれる。それが唯一の救いだった。
「ゼーちゃん来たよ!」
お母さんが来たようだ。
「シーラ……何人で此処まで来た?」
「私含めて50人かな? 皆生き残ってるから安心して!」
たくさんの妖精さんが僕を助けに来てくれたの?
「……此処で俺を倒せなかったら1人しか生き残れないぞ?」
なんで?
「試練だもんね。わかってる……この間の言葉はちゃんと聞こえてたわ。此処にいるのはミーラを助けたいって人が集まってくれたわ」
お母さん……ありがとう。
「そうか……ありがとう。皆にも礼を。では、試練を開始する」
「────っ!? 前はいなかったのに!?」
「1人で来ると、此処の試練は問題ないが、複数で来ると誰か1人になるまで戦い続ける事になる。まず、このデーモン共を全滅させてくれ。それが最低条件だ。その後に俺と戦う」
「わかったわ」
そして、戦闘が開始する。
デーモンらしき奇声、妖精族の声、魔法による爆裂音、破裂音、地響き、色々な音が混ざり合う。
そして、長い戦闘も終わったようで、戦闘音は何も聞こえて来なくなった。
「さすがだ……。じゃあ、俺を殺してくれるか?」
「……本当にそれしか手はないの?」
「シーラ、俺はもう既に死んでいるんだ。後は娘の幸せだけ考えよう」
「ゼーちゃん……これしかないんだね?」
「あぁ」
「行くね?」
「あぁ」
その言葉で再度戦闘が始まる。
さっきより、戦闘音は控えめだ。妖精さんの人数が減っているのかもしれない。
「シーラっ! 手を抜くなっ! 全力を出せっ! 俺は試練の意思から逃れられないっ! お前が殺してくれないと、俺が殺す事になるっ!」
「だって……ゼーちゃんと二度と会えなくなるんだよっ!」
「それでもやるんだっ!」
順番に妖精さんの声が消えていく……お父さん……
試練の意思? そんな物のせいで、お父さんはお母さんを殺さないとダメなの?
なんでそんな悲しい事が試練なの?
お父さんの気持ちは僕に入ってくる。とても切なく悲しい感情だ……。
お母さんの顔は見えないけど、きっと泣いてるに違いない。
なんでこんな事になってるの?
お父さん、お母さんと3人で普通に暮らしたいよ……。
僕はそんなに悪い事したのかな?
恩恵なんてあるから、こんな事になったのかな?
「残りは数人……、逃げる者を選択し台座に行け」
お父さんの声は突き放すように冷たい。けど、その感情はお母さんに逃げてほしいと訴えている。
「ライラ、台座に……」
「しかしっ!」
「これは族長の命令です。そして、脱出したら此処には二度と来てはいけません。わかりましたね? 皆もよろしいですね?」
「「「「はいっ!」」」」
「でも……「ディーラ、貴方が1番若い。私の娘フローラをよろしくね」──!? ……うぅ…わかりました……」
「さて、これから殺し合いを継続する。残った者には恩恵が与えられる。他の者には死が与えられる。それがこの試練。残す道は俺を倒すしかない。最後まで足掻け」
「ゼーちゃん……貴方に殺されるなら本望だわ」
「──馬鹿野郎っ! 足掻けっ! 諦めるなっ! 涙を拭え! シーラ、お前の娘を解放しろっ!」
「──うんっ! 纏衣【雷】」
「そうだ……それでいい。行くぞっ!」
もうやめてっ!
こんなの絶対おかしいよっ!
僕の叫びは誰にも届かない。このまま何も見えないもどかしさが更に不安を掻き立てた。
お母さんとの戦いも時間が過ぎ、お母さん1人になった。
そして決着が着く。
「シーラ、巻き込んですまない……」
「ごめんなさい。力になれなくて……」
「ゼド……愛してるわ」
「シーラ……俺も愛してる」
「最後は貴方の胸で……」
「あぁ……」
お父さんの深い悲しみ……
絶望感……
虚無感……
そして怒りの感情が僕に流れ込んでくる。
この世は理不尽だ。
許さないっ!
こんな試練を作った奴、僕達をこんな目に合わせた奴に復讐してやるっ!
必ずっ!
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