第40話 閑話 〜ミーラ過去編1〜

 目の前にいるレオン君のお陰で、お父さんは長年の呪縛から解放され、僕は自由を得た。お母さんは……なんかリッチになってたけど。



 ここまで来るまで長い道のりだった……。




 昔の話になるけど……200年ぐらい前かな? 英雄の子供として僕は産まれた。



 物心がつく頃にはお母さんはいなかった。たまに現れる小さな妖精さんはやたら僕に懐いてきてたけど。


 お父さんに聞くと、たまに会ってると言われる。妖精さんがお母さんだと気付いたのは大分後になってからだ。



 お父さんは凄く強い。それこそ英雄と言われるぐらいだ。国で1番強いのは間違いと思う。



 僕もいつかお父さんの様に強くなりたいと小さな頃から訓練する。僕って自分の事を言うようになったのはこの頃かな?



 7歳になったある日、お父さんの戦い方を見様見真似で行うと、自然と似た様な動きが出来た。



 さすがにいきなり動きが変わったのが気になったのか、国の鑑定士を家に連れてきた。



 その結果、僕は恩恵【移し身】を授かっていると言われた。



 小さな僕はよくわからなかったし、お父さんの表情は暗かったけど、人の技を再現出来る恩恵だと言ってくれた。



 それからは、お父さんの真似ばかりした。



 一年後には国の騎士でさえ、僕を倒すのが難しくなっていた。



 そして、10歳の誕生日を迎えてから事件は起こる。



 夜中に物音がしたので、様子を見に行くと……。



 そこにはナイフを手に持って血を流しているお父さんと……。


 囲む知らない人達と横たわる血塗れの死体がたくさんあった。

 


「────お父さんっ!」



 お父さんが襲われていると瞬時に理解した僕もナイフを構える。



「──ミーラっ! 逃げろっ!」



 お父さんに傷をつけるぐらいだ。僕が太刀打ち出来るとは思えないけど。



 頭に血が上った僕は最高速度で斬りかかるが、簡単に避けられ、顔面に反撃をくらって吹っ飛ぶ。



 そこで一旦意識を失った。




 次に目が覚めた時に見た光景は、父さんが目の前で仁王立ちしている姿だった。



 至る所に傷が出来ており、出血は致死量を超えている。



 それでも倒れないのは、僕を守る為だからだろう。



 さっきまでいた敵は全滅している。



 お父さんは、まだ構えている。



「お父さんっ!」



「気が付いたか? 怪我は大丈夫か?」



「お父さんが守ってくれたから大丈夫。そんな事より、早く治療しないと!」



「そんな暇はなさそうだな……」



 お父さんの視線の先を追うと、そこにはフードを深く被った人達がいた。



 お父さんの表情は固い。



「お父さん?」



「お前は……通りで俺の傷が回復しないわけだ────ガハッ…「お父さんっ!!!」…」



 血を吐き出すお父さんを支える僕。



「……ミーラ、移し身で対象をお父さんにして、全力で逃げなさい。そして俺からの最後の願いだ。いつか結婚して幸せになれよ?」



 そして微かに聞こえるように呟きながら、笑顔でお父さんは僕に愛用ナイフを渡した。



 僕は涙が止まらなかった……昨日まであんなに2人で笑ってた日常が一瞬にして崩れ去る事が悲しかった。



「────お父さん!」



「愛してるぞ! 絶対に幸せになれよ!」



 ガシャーンッ




 移し身を使うと同時にお父さんの言葉と共に何かが流れ込んできた。その瞬間に窓に向かって投げられる。



 目の前に立ち塞がろうと数人が動き出す。



「おっと、行かせねーよっ! お前らの相手は俺だろうが? このの腐れ外道共が! ミーラは絶対に渡さんぞぉぉぉぉっ!!!」




 僕を逃すために、お父さんが間に入る。




 最後に聞こえた言葉が心に刺さる。




 もしかして僕を狙って襲われたの?






 ◆◇◆◇◆




 お父さんが時間稼ぎしてくれている間に僕は移し身の効果で僕はいつも以上の動きで逃げている。




 お父さんは……きっと助からない。




 自分に力が無いのが悔しい。




 王都から出る時人影が見えた。




 ────っ!?




 武器を構える3人の姿……待ち伏せがいた。




 僕は咄嗟にナイフを投げるが避けられてしまう。



 そして、僕を中心にあっという間に三角形の形で囲まれる。



 手元にある武器はお父さんのナイフ【無限】のみ。



 僕の力じゃ……逃げきれない。



 お父さんごめん……。お父さんの願い叶えられそうにないよ。


 そう思った時、僕にが訪れる。目に見える範囲だけど、体に何かに纏わり付き始める。



 いつもより移し身の効果が高かったが、更に力が漲っていく。



 まるで、お父さんに包まれている……そんな感じだ……。



『最後まで足掻きなさい。俺の子だろ?』



 ────!!!



 お父さん!? 生きてるの??




『俺はおそらく死んだ。今はそんな事より、このナイフの使い方を教えるね? 覚えておきなさい』



 体は僕の意思とは関係なく、動き始める。



 お父さんの動きが僕の体で出来ている。と言ってもお父さんより遅いけど。



 気が付いたら敵は全員死んでいた。



 僕達を襲った連中だ、特に罪悪感などなかった。




『さぁ、逃げるぞ。こいつらより更に厄介な連中が来る』




 そして、また走り出す。





 ◆◇◆◇◆




 逃げ出して数日が経ったけと、追っては撒けない。




 何度も何度も敵が現れる。



 行き着いた先は……。



 人の領域から外れた魔の秘境と言われる場所だった。



 強い魔物が大量にいると言われている場所……そんな所に逃げても追っ手はやってくる。



 恩恵、移し身は解除していない。



 いつどこで襲われるかわからないから。それにお父さんと一緒に戦えている気がして気に入ってたりするのが理由だ。



 そして、目の前にまた敵が現れる。



「おやっ? ついに移し身の正しい使い方が出来たのかな? やはり、教皇にお会いして貰おう。国に期待しない方がいいぞ? もう、手は回しているからな」



「見た事ある顔だな。やはり、娘の狙いか……」



 ────!? どういう事!? と聞こうとしたけど、僕の体なのに僕が話せない……替わりにお父さんが話している。



「おっ、やはり英雄殿か。その恩恵は素晴らしい力だ。我々が有効に使ってやろう。だから英雄殿は骸に帰れ」



 相手は剣と盾を構える。……あの剣と盾の構えは教会で主流の型……。しかも雰囲気的に相当強い。



「勝手な事を……、娘は俺が認めた奴じゃねぇとやらん。つまり、お前らなんかにやらん。死んで詫びろ。不知火……」



【無限】を構えキーワードを発すると、ナイフが物凄い勢いで増えて行く。




「──ちっ。纏衣てんい【鉄】」



 魔法を極めた者がその身に纏いし力、纏衣!? しかも通常の纏衣じゃなく、明らかに媒体は固有魔法……。



 敵の姿はどんどん鉄が纏わり付いていく。



「さすが、教会聖徒十傑の1人だな。……だが、あのクソ野郎がいなければなんとでもなるっ! 流水



 ナイフは複数に集まった後に放出される。ただの流水ではない。ナイフに回転が加わり貫通に特化している。


 それらは敵に牙を向く。



「ぐっ、……馬鹿な!? ガハッ……」



 鉄で守られた体を複数箇所を易々と貫き、敵は絶命する。



「英雄舐めるなよ?」




 お父さん格好良いっ! 纏衣で固有魔法を纏って威力上げてるはずなのに全然物ともしないっ!



 と心の中で思っていると、僕の体を中心に光出す。




 そして、僕は意識を失った。



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