第39話 掴み取るよ──

 とりあえず、俺はずっと此処にいるわけにはいかないので、背中のナイフを抜いてもらい、この試練の建物から出る事を提案した。


「ちなみに此処って来た道を帰るだけでいいのか?」


「確か、台座の横に転移陣が出るはずです」


 シーラさんは経験者なので答えをくれる。


 俺は視線を台座に移すと……。


 いつの間にか台座の横に魔法陣が出現していた。


 やっと出れるな。


「さぁ、出ようか」


「「「うんっ」」」


 俺達は魔法陣に向かい歩いていく。


 魔法陣の上に乗ると、景色が霞んで変わっていく。


 気がつくと、目の前は遺跡の入り口付近だった。


 俺は簡易鑑定を使い、恩恵を確かめる。


 どうやら恩恵は1人しか貰えないようで、フローラは獲得していなかった。


 俺の恩恵欄に【吸魂】が増えていた。ゼドの恩恵だ。


 使い方は……なんかわかるな。敵を倒せば、相手の魂を吸収し、体力・魔力が回復するらしい。


 元から知ってたような感覚だな。


「シーラさん、ゼドの恩恵って確か【吸魂】だったよね? 効果ってわかる?」


 聞いた理由は、念の為だ。ミーラの場合もゼドの魂を束縛するとかの知らない使い方があったと言っていた。


「──!? まさか……ゼーちゃんの恩恵受け継いだの?!」


 ゼーちゃん?? ……まさか!? これが夫婦ならではの呼び方って奴か!? 


「そうみたいだな」


 突っ込まずに返事する。


「そっか……聞いてるのだと、敵を倒せば体力と魔力が回復するぐらいかな? 後は……残留思念って奴かな? それを感じる時があるって言ってたかなぁ。極たまに相手が使ってた技とか使えるらしいよ?」


 後半は新しい情報だな。残留思念はちょっと怖いが、相手が使ってた技とか使えるとか凄いな。まぁ極わずからしいけど……。


 ────!? 後ろで崩れる音がする。


 振り向くと、その遺跡は崩れ始めていた。


 シーラさんが驚いている。クリアした時は崩れるなんて事はなかったのだろう。


 守護者を本当の意味で倒すとそうなるようになっているのかもしれない。予想の範囲を出ないが。なんとなく俺はそう思った。


 皆で呆然とその景色を眺めてる中、それとなく俺は疑問を口にする。


「入る時にいた地竜っていないよな?」


 グギャアァァァァァッ


 あっ、いたわ。遺跡の崩れる音で気付いたのかもしれないな。


 結界がないから此処に来るんじゃないのか?


 地響きが俺達に向かい近付いてくる。


 ……フラグの回収が速過ぎやしませんかね?


「レオン君、地竜相手じゃ僕の攻撃通用しないよ?」


 呆然としていると、ミーラから声がかかる。


 確かにナイフじゃ、ちょっと刃が届かないし厳しそうだな。


 フローラの空間魔法は通用しないと聞いているし、シーラさんはどんな戦闘スタイルかも知らない。


「シーラさんは倒せる?」


「私は活動限界です」


「そっ、そうか」


 どっかで聞いた台詞だな。


 はぁ……逃げるのも距離的に無理だし、消去法で戦闘するのは俺になるな。


 鎖の性能も上がってるし、行けるかな?


 地竜が目視できる距離まで近付いてくる。


 俺は右手を前に出し、ゼドの時のように鎖を地竜の近くに出現するようにイメージする。


 ギャァァァァァァァァっ


 複数の鎖が地竜の近くに出現し、そのまま雁字搦めに束縛する。バガでかい地竜が鎖で球状に包まれ、宙を浮いている。


 そして、そのまま手を握ると────


 グシャッ


 断末魔を上げることなく、地竜は圧迫されミンチになる。


 その場に残るのは、圧縮した状態の鎖と、そこから流れ落ちる地竜の赤く染まる血のみ。


「ゼド……。俺はこの手に幸せを必ず掴み取る! 邪魔する奴には容赦しない!」


 その場でゼドの忘形見であろう恩恵【吸魂】に語りかけるようにそう言い残す。


 ちょっとキザっぽいかな? と振り返り皆を見ると。


 全員ドン引きして震えていた。


 なぜ!?


「レオン君……そのグシャッてする奴は僕にしないでね?」


 コクコク


 シーラさんとフローラは激しくミーラの発言に同意して頷く。


 そんなに怯えるなよ……傷付くじゃないか。


 自分でも鎖魔法が強力過ぎてビックリしてるよっ!


「大丈夫だ。この先の未来がどうなってるかわからないけど……この鎖は皆を守る為に使う」


 それは決定事項だ。


 どんな敵が現れようと理不尽なんて俺が潰してやるよっ!


 俺はそう思いながら、皆に微笑む。


「さぁ、行こうっ!」


「「「おーーっ!」」」


 アナ、ミア、アリス、アイリス……早く、皆の顔が見たいっ!


 そして、俺達は旅路につく。



『掴み取れよ』



 ────!?



 ゼドからも応援してもらえたような気がした。



 ゼド、掴み取るよ。



 俺は右手を空に向け、太陽を掴み取るように再度手を握る。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る