第38話 ハクマ頼んだぞ!
けっこう時間が経ったと思う。
「なぁ、そろそろ名前聞いてもいいかな?」
「ごっ、ごめん。
僕?
って事は……僕っ子か!?
まぁ今は関係ないか。
「気にしてないからいいよ」
「えっと、僕の名前はミーラだよっ! よろしくねっ!」
ミーラか。最後にラが付くのは妖精族関係だからだろうか? 妖精族の名前は皆、最後にラが付いていた気がする……。
「良い名前だ。ゼドとシーラさんがつけたのかな?」
「えへへぇ〜、2人で決めたってお父さんから聞いたよ! お母さんの事は……正直あんまり知らないけどね!」
おいおい、お母さんがそこでショック受けて跪いてますがな。
「まぁ、ゼドは凄い奴だったよ。シーラさんは……俺もよくわからん」
ごめん、シーラさん。何も思い付かなかったよ。
「でしょっ! お父さん英雄だったんだよっ! 僕もいつかお父さんみたいになるんだぁ」
「そうか。じゃあミーラは戦えるのか?」
「──っ! 名前で呼ばれたっ! 凄い嬉しいっ! 僕はこれから旦那様って呼ぶねっ!」
いや、なんで旦那様!? それに話が進まない。
「お断りします。普通に名前でお願いします」
「なんで敬語!?」
「いえいえ、ミーラさんが旦那様と言う限り敬語ですとも。気にする事はありません。ミーラさんの事は私がしっかり面倒は見ますので大丈夫です。なんせ、ミーラさんですから」
「やだぁ! そんな他人行儀なのやだぁ! レオン君って呼ぶから話し方戻してっ!」
それで宜しい。旦那様とかないわぁ。
「わかったわかった。それで戦えるのか?」
「うんっ! お父さんと同じでナイフとか短剣を使うよ? お父さん程じゃないけど強いよっ!」
「へぇ〜〜」
「信じてないなぁ! これでどうだっ! ふっ……」
────っ!?
油断していたとはいえ、俺の首元にはナイフが当てられていた。
年下のはずなのに俺より早いぞ……。
「……凄いな。これなら文句無しだ」
「えへへへ」
嬉しいのはわかったから、そろそろナイフどけてくれないかな? チクチク刺さってるんですが!? それに、ナイフどこに持ってたんだよ!
はぁ……なんか、こんなに簡単に接近許すとか自分に自信がなくなってきたぞ……。
「とりあえず、武器はゼドの使ってたナイフがあったら大丈夫だろ?」
「いいの!? てっきり戦利品として盗られると思ってた!」
わざわざ、形見の品を奪ったりしないさ。どんなイメージなのか聞いてみたい。
というか、そのゼドのナイフは、さっきシーラさんに投げられて俺に刺さってるんだが? 抜いてくれないかな? 背中で手が届かないんだよ。
「ゼドもその方が喜ぶよ。だからこのナイフ抜いてくれないか? それと一つ聞いてもいいか? なんで、ゼドの依代になってたんだ?」
「それは私も知りたい」
復活したシーラさんも会話に入ってくる。
フローラは……さっきからずっと俺をどう料理しようか考えてそうな顔付きだ。スルーしよう。
「お父さんが死んだ後に僕の恩恵、【移し身】を使ったんだけど……それでお父さんの魂が入ってきたみたいで、その力を使って逃げたんだ……副作用っていうのかな? 長時間使ったからなのか解除できなくなっちゃって……追っ手も多くて気がついたらここに居たんだ。出れなくてどうしようかと思ったよ。食べ物も全然ないし……」
ミーラも恩恵使えるのかよ。俺の出会う人って恩恵持ち多いな。あんまりいないんじゃなかったのか?
そういや、此処って食べれる魔物全然いなかったな。ミノさん思い出すわ。何食ってたのか聞くのが怖いな。これもスルーしよう。
「魂が入ってきた? ちなみに移し身の効果は?」
「本来の移し身は対象の動きや過去に相対した人の動作を真似るぐらいなんだけど……まさか、お父さんの魂を束縛出来るような恩恵だと思ってなかったんだ。お陰で逃げれたけどね」
なんか、ゼドの言ってた通り、恩恵が呪いのように思える性能だな。意味は違うんだが……。
「ゼドもミーラを助けられて喜んでるさ。こうやって解放も出来たしな」
「うん……」
目に涙を浮かべているミーラ。おそらく、父親であるゼドの事を思い出しているのだろう。
さて、戦力的には問題もないし、連れて行くのは決定だな。
……!? そうだ! ハクマに連絡とらないと!
俺は右手に魔力を込めてハクマを召喚する。
『──!? 主っ!!! 呼ばれたって事は無事だったんだね! 良かったぁぁぁっ!!!』
テンションめちゃくちゃ高いな。そんなに心配してくれるとは俺もなんか嬉しいよ。
「なんとか乗り切ったよ。心配かけたな。あっちはどうだった?」
『あっちは──!?』
ハクマが話し出そうとするとミーラが凄まじいスピードで駆け寄る。
「わあぁぁぁっ、もふもふだぁぁぁぁぁっ!!!」
『───っ??? 何するんだよ! 離せっ! 氷漬けにするぞっ!!!』
一瞬にしてミーラに捕まえられて抱きしめられるハクマ。
なんか和むな。
「ハクマ、そのままでいいから、あっちの様子教えてくれるか?」
『えーーっ。こいつ引き剥がしてよ! こいつ何なのさっ!』
「レオン君のお嫁さんですっ! よろしくね!」
『はぁぁーーっ!!! 主、あれか! 現地妻かっ!? 爆発しろっ!』
……なんでやねん。
この世界にも現地妻って言葉あるのか?! 爆発しろって……主に酷くない?!
「んで、ハクマどうなの?」
『とりあえず、主は帰ってこないかもしれないと言っておいたよ〜』
おいっ! それ俺を亡き者にしてないか!?
「ハクマさんや……その文言で大丈夫だったのかな?」
『そうだね〜。その時丁度訓練中で────まず、主の妹ちゃんが、拳で地面にクレーター作った後に、ミアの嬢ちゃんが目の前にいたミノタウロスを蔓で絞め殺して、アリスの嬢ちゃんがそのミノタウロスを細切れにしたね。アナの姉さんが追い討ちで豪華な業火を放出してたね。いや〜冷や汗出たよぉ?』
いや……突っ込みどころいっぱいあるんですが?!
ミアは蔓だけでミノさん絞め殺せるとかヤバすぎだろ!
アリスは……きっと、目に見えないぐらいの速さで細切れにしたんだろうな。
アナは……ハクマが冷や汗出すぐらいだ。きっと殺気もヤバかったに違いない。
そ・れ・よ・りっ!!!
アイリスが脳筋になってるんじゃないかという不安が……なんで地面にクレーター作れるようになってるんだよ!
あのはにかむ笑顔を向けてくれる可愛らしい妹はもういないのだろうか?
早く帰って事実確認しなければ……。
「ハクマ……お仕置きな?」
『一件落着したっぽいし、僕帰るね! 皆には嫁さん出来てよろしくヤッてるって言っておくから大丈夫! って事でドロンっ』
その言葉と共に消えるハクマ。
ちっ、逃げやがったか!
よろしくヤッてるって……そのままの伝えられたら俺の命がヤバいんじゃないのか!?
ちゃんと無事だったと伝えてくれるよな!?
間違っても現地妻とか言うなよ!
頼んだぞハクマ!
信じてるぞ!
その場に沈黙が支配する……。
「レオン君、もしかしてあれ? 戻ったら修羅場って奴じゃないかなぁ?」
「……」
しれっと、シーラさんが声をかけてくるが、俺は引き攣った顔で応える。
「レオン君には、ここに現地妻がいるじゃないっ!」
そして、ミーラからも自分で現地妻とか言う始末。なんとかしてくれ!
ここまでモテた事は前世ではなかったが……いや、この世界にまで追いかけて来てくれているミアとアリスがいるからそんな事ないか?
しかし、第三者目線で見たら、これって後ろから刺される奴じゃないだろうか?
話は進展しないまま、無言で時間は過ぎていく。
背中のナイフが痛い……。
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