第37話 意外な事実

 歌声の聞こえる台座に視線を移すと、フローラの横には何故かも一緒にいた。


 成仏したんじゃないのか?


 と思ったが、シーラさんは目を瞑り、涙を流しながら祈っていたので、俺はその気持ちを片隅に追いやった。


 しばらくして、フローラの歌は終わり、辺りは静まったので俺は思っていた事を告げる。


「フローラって、ちゃんと歌えたんだな」


「むぅ〜、ひっどい! 私だってやる時はやるんだからね!」


 ならいつも頑張ってほしい。


 俺は視線をシーラさんに移す。


「それでシーラさんはなんでここに?」


 なんとなく予想はつくが……。


「それはですね。レオン君に取り憑いているからですよ」


 ネタばらしじゃない!? 俺の期待してた答えと違う!?


 本当に取り憑かれていたのか!?


「まぁ、レオン君これからも末永く、夜露死苦お願いしますね〜」


 軽いなっ! 話し方も違うしっ! しかも、その昭和を匂わすような言い方は絶対にの字が違うっ!


「いや、遠慮願いたいので天にお帰り下さい」


「まぁまぁ、いいじゃないか〜〜!!!」


「…………」


「ふっふっふ〜、ちなみに恩恵によるアンデット化は聖属性魔法は効かないんだなぁ!!!」


 誰も強制的に浄化しようとは思っていないのに何故言った!?


 まぁ、お陰で沈んでた気分も少しマシになったな。


 今はそんな事より────


「なぁ、シーラさんってゼドと知り合いだろ?」


「──っ!? よくわかったね……」


 アドバイスで召喚魔法が使えるって聞いた時に引っかかった。シーラさんは自分が使えるとは一言も言ってない。


 じゃぁ、誰が使える? って話になるが────答えはおそらくゼドだろう。


 召喚魔法の存在を忘れていたと言っていたし、使えるとも言っていた。


 使った事があるのだろうと予想はつく。


「ゼドとシーラさんは契約関係だろ?」


「そうですね。ゼドと召喚契約をしていました……というか夫婦ですね。あれは昔────」


 ちょっと待ったっ!

 

 夫婦と言ったよな?


 俺は視線をゼドの依代だった娘に視線を移す。


 体格差あるのに子供が出来るのか?!


 いや、今はシリアスな場面だ。落ち着け俺!


 とりあえず、今はシーラさんの話に集中しよう……。


 シーラさん曰く──


 約200年程前、ゼドは襲われている妖精族を助け、たまたま出会った2人は意気投合し契約したらしい。その後は色々と旅をしたそうだ。


 そして、世界が厄災と言われる存在に襲われた時にゼドを含む────当時最強と言われた七英雄全員で対応した。その討伐にシーラさんも参加したそうだ。


 戦いは壮絶だったそうだが、ゼドは他の英雄達と協力し、厄災を退けた。


 厄災後に2人は結婚し、そして子宝に恵まれたと……。


 ここまでの話はゼドの記憶にあった。


 だが、結婚相手がシーラさんだというのは記憶になかった。


 そして、子供を産んだ頃にシーラさんは族長に任命され、娘をゼドに預けて里に帰り──離れ離れになった。


 かなり久しぶりにゼドから召喚された時に目にした光景は────


 試練に束縛された子供姿のゼド。


 依代に娘がなっている事も、この時にゼドが教えてくれたそうだ。


 事情を聞いたシーラさんは救うと決意する。


 まず、1人で此処を死に物狂いで攻略して恩恵をもらった後は、妖精族の協力を得て、再度救出の為に突入したがゼドの能力が制限されていても強すぎたので全滅────



 簡単にまとめるとこんな感じかな?


 娘とゼドを助けたい────それがシーラさんが恩恵を使ってまで残った根本なんだろう。


「……一つ聞いていいですか?」


「なんでしょうか?」


「妖精族って人族と子供作れるんですか?」


 場違いな質問だとは思うけど気になる……。


 だって、子供作るって────体のサイズが違うじゃないか!?



「出来ますよ〜。妖精族は色んな種族と交配可能です。なんせ変化できますから! こんな感じっ!」


 目の前に突如現れたのは妖精サイズのシーラさんをそのまま巨大化した姿だった。


 直ぐに戻ったシーラさんを俺は目を見開いて見る。


 新事実発覚!


 ゼドは特殊な性癖持ちじゃなかった!


 いや〜良かった良かった。初めて出来た戦友ともが変態という事実じゃなくて。



 ────!?


 俺はその瞬間、猛獣のような視線を感じた。


 その視線の主はフローラだ。


 なんだその「その手があったか!」みたいな顔は!


 肉食獣のような目が怖い。


 俺、フローラにロックオンされたんじゃ……。


 そんな事を考えていると。



「ん……んん〜……ここどこ?」


 ゼドの娘が目を覚ます。


「ここは試練の洞窟かな? 体調はどうかな?」


 俺は優しく声をかける。


「体調は大丈夫だと思う。貴方がレオン君だね。声だけは聞こえてたよ。お父さんの事ありがとう……」


 声だけは聞こえてたのか……。


「なら、事情はだいたいわかってると思うけど──ゼドはもういない。君はこれからどうする?」


 面倒をみると言ったものの、俺は住む場所も無ければ、金も無い。力になれる事は限られている────独り立ち出来る時まで面倒をみるというのが妥当だと思う。


「ん〜〜っとねぇ、君に付いて行くよぉ? お嫁さんにしてくれるんでしょぉ??」


 まさかの選択肢が嫁!?


「はっ!? ちょっと待とうか! なんでお嫁さんにするんだ? 面倒見るとは言ったが……」


 面倒をみる=嫁ではないと思うんだが……。


「えぇ〜〜、だって、娘を幸せにしてやってくれって言われて返事してたじゃない? 面倒見るってことは結婚でしょぉ?」


 ────!? まさか、これはゼドに嵌められたのか!?


 シーラさんを見る。


「レオン君、男に二言はないよね? 私も見てたよぉ?」


 ニヒルに笑いながら言われた。


 なんて事だ! というか、見てたなら助けろよな!


「嫁云々は置いておいて、とりあえず俺は妹の所に帰らなければならない。付いてくるのか?」


 とりあえず棚上げだな。


「とーぜんっ! 嫁とは夫を立てるものである!」


 既に嫁気分だな……着いてくるのは確定のようだ。


 なんか疲れたな……。


「はぁ……とりあえず名前は? 俺の名前は知ってるようだが、一応自己紹介しておく。レオンだ。そっちのちっこい黒髪が君のお母さんのシーラさん。ちっこい銀髪のフローラだ」


「「ちっこい言うな!」」


「はいはい」


 もう、本当疲れたんだよ。勘弁してくれ。


「よろしく────って……お母さん? ……本当に?? 死んじゃったんじゃないの?」


 いや、ちゃんと死んでるよ?


 空気を読んで、思っても口には出さないけど。


「貴方のお母さんよ。今は恩恵で存在を残している状態よ。会いたかったわ……」


「お母さんっ!!!」


 2人は抱きしめ合う。シーラさんはもちろん大きいサイズだ。


 しばらく抱擁した2人は泣いていた。


 そうだよな。事情を察するに、この子は父親が母親を殺したと思ってたとしてもおかしくない。


 目の前にいたら甘えたくもなるよな。


 まぁ実際殺されてはいるんだが……。空気を読んで口には出さないが。


 でも、こうやって親子の再会が出来るのは良い事だ。


 俺とフローラはもう会えない。甘えられる時に存分に甘えるべきだと思う。


 フローラも母親の事を思い出しているのだろう。目が潤んでいる。



 俺も感傷に浸る。


 ────母さんと、もっと話したかったな。


 ────母さんのお墓ちゃんと作るからね。


 ────母さん、俺モテてる気がするよ。


 ────母さん、そういえば、この子の名前まだ聞いてないよ。


 最後のは何か違うな……疲労感が強いせいかまともな思考じゃないな。



 ちなみにゼドの娘の髪型はショートボブで色は白。瞳は赤く、アルビノを思い起こすような感じだ。


 身長も120cmぐらいの小柄で華奢。


 胸は────ない。


 きっとシーラさんに似たんだな。



 ──ぐはっ!


 背中に激痛が走る。


 シーラさん、ゼドのナイフ投げるなよ。


 普通に刺さってるから!

 そりゃぁ失礼な事考えたけどさ! ナイフはないだろ! ナイフは!


 だが、俺は空気を読める男だ。その場の空気を守る為に声は出さなかった。爺ちゃんならきっと褒めてくれるはずだ。


 母さんには……たぶん怒られるな。


 そんな感じで時間は過ぎていった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る