第36話 試練の終わり

 ナイフはおそらく全方位から攻撃されるだろう。


 いつもは鎖を起点に結界を張っているが今回は一味違う。


 ドラゴンのブレスで易々と貫通され、改良出来ないか考えた末、視界が悪くなるが、起点となる鎖を網目状にして密度を上げるという方法を思い付いた。


 此処に来るまでに試してみたが、鎖自体の強度も上がるし、結界を厚めに出来る。視界の事を除けば、大概の攻撃は防げるだろう。


「【不知火の型─流水─】」


 その言葉と共にデッドが右手を俺に向けると同時に周囲にあったナイフが、5本ずつの流れに纏められて放射される。


 ナイフの群れが左右前後上の5方向から、まるで生き物のように猛襲する。


「うおぉぉぉぉっ!!!」


 俺は雄叫びと共に魔力を全開にする。


 ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッ


 マシンガンのように連続でナイフが貫通しようと突き刺さろうとするが、俺の結界も負けじと抵抗する。


 常に全開で集中して魔力を放出しているため、どれぐらい受け続けているかわからない。


 床には大量のナイフが山積みになっていく。


 音が止み、攻撃が終わったと思った瞬間────



「【百花繚乱】」


 デッドのその言葉と共に、散らばったナイフが俺目掛けて花が咲き乱れるが如く更に襲いかかる。


 ギギギギギギギギギギギギッ


 ナイフの刃と鎖の当たる金属音が重なり鳴り響く。


「ぐぅぅぅっ」


 俺は踏ん張るが、正直魔力が底をつきそうで鎖結界を維持するのが限界だ……。


 そう思った瞬間。


 ジャリンッ


「しまっ──ガハッ……」


 俺の鎖がナイフにより千切られる音がし、至る所にナイフが突き刺さったり、切り刻まれ────血を吐き散らす。


 しかし、俺はこれぐらいでは倒れない。致命傷を受けても即死回避と超回復により即座に戦線復帰する。


 結界がないので、身体強化をし、鎖を使いつつ、出来る限り回避していく。


 お互いに笑いながら攻防していく。


 キリがない、せめてデッドに一泡吹かせたいな。


 俺はもっと力がほしい──


 どんな相手でも──


 どんな物でも捕まえる事が出来、どんな状況でも打破出来る──


 ──そんな力がほしい!


 ────!?


 その時、鎖が黒色に染まり変化が訪れる。


 俺は一瞬何が起こったかわからなかった。


 だが、なんとなく感覚的に離れた所に鎖を出せそうだと思った俺はデッドのように試してみる。


「────!?」


 俺の感覚通りに鎖は出現する。


 デッドは驚きの表情を浮かべる。


 ピンチで覚醒する────まるで物語の主人公のようだな。


 だが、俺はまだ強くなれる────



「チェックメイトだ」


 複数本の鎖は突如現れ、デッドを捕縛する。


 ナイフの攻撃が止む。


 周りを見渡すとナイフがなくなっていた。


「お見事。そして時間切れのようだ」


「そうみたいだな」


 俺は鎖魔法を解く。


「ありがとう。どうやら、やっと解放されるようだ……。制限があるとはいえ、俺とここまで戦える奴はいないと思っていたから嬉しいよ。君はまだまだ強くなれる」


「そうか」


 制限がなければきっと終わらない戦いだったかもしれない。褒められた事は素直に嬉しい……だが────


「君はどうして、そんな悲しそうな顔をしているんだい?」


 だって、もうお別れなんだろ?


「デッド──」


「ゼドだ。それが俺の本当の名前」


「……ゼド、心残りはないか?」


 俺はせめて、手向けに何か出来ないだろうか? そう思い、自然とそんな言葉を発する。


「ないと言えば嘘になるな。君──」


「レオンだ」


「──レオンは俺の頼みを聞いてくれるのか?」


「聞けることなら」


「じゃあ、この依代になってる子を幸せにしてほしい……」


「──!? ゼド!?」


 体を粒子に変え、儚く消えていく。


 依代となった子が残り、ゼドの部分が剥がれていく感じだ。


「この子もきっと、俺と同じでろくでもない未来が待っているかもしれない。だから俺はレオンにこの子を託す。頼めるかな?」


 笑顔で問いかけるゼド。


「なんでそこまで、その体を気にかける?」


「もちろん、その子が俺の娘だからだ。子供の幸せを願うのは親として当たり前だろ?」


 ──!?


 娘!? なんで娘が!?


「……わかった。俺が面倒見るよ。こんな所に置いておけないしな」


「ありがとう。それにしても君は本当に子供らしくないね。さて……本当に時間切れのようだ」


「そうみたいだな」


 ゼドは大きく息を吸い込み──



「我は七英雄の一人、ゼドっ!!! この試練の終了を告げる!!! 究極の選択肢が今後もレオンに訪れるかもしれない────だがっ! 例えそんな状況が来たとしても、決して折れない、その心を持って諦めず立ち向かえ! その鎖を持って、未来を──そして幸せを掴み取れ! ……ったく泣くなよ……最後ぐらいきっかり決めておけっ! 我が認めし者、この先に幸があらんことを……」


 ──高らかに声を上げて試練の終了を告げる。


 俺の幸せも願いつつ、俺の涙に苦笑しながらゼドは光になり逝く────


 その場にはゼドの忘形見の娘と使っていたナイフを残して……。


 ゼドから放たれる光は俺の胸に向かって入ってくる。



 ────これは、ゼドの記憶か。



 ────厄災と呼ばれる存在を多大なる犠牲の上に討伐。


 ────その後は英雄となり、結婚し、子宝に恵まれる。


 ────種族間や同じ人族での争い……。裏切りと絶望。


 ゼドの記憶が俺の中に入ってくる。その記憶のほとんどが、悲しい内容だった。


 微かにゼドが幸せだと思う感情がある────それは家族と一緒に過ごした一時。娘に対する愛情が感じられる。


 自然と涙が再度溢れてくる。


 なんで、この異世界は悲しみが多い……。


 俺は目を瞑り、胸に手を当て、ゼドの生き様を胸に刻み付ける。




「〜〜♫〜〜♩〜〜♬〜〜♩」


 どこからともなく歌い声が聞こえる……。


 フローラの声だ。


 彼女もゼドの記憶を見たのかもしれない。


 鎮魂歌のような優しい歌だ。


 フローラ……ちゃんと歌えるじゃないか。


「……ゼド、俺はこの鎖を使って、未来と幸せを捕まえるよ」


 幸せを願うだけじゃなく、自分の力で掴み取るよ。



 ゼド、ありがとう。

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