第31話 解放──そして固有魔法

 俺の浄化魔法を付与した鎖で供養しようとした結果、妖精族を死の呪縛から解放出来たと思う。


 だってさ、さっきまでの無表情じゃない。ちゃんと皆笑ってくれている……。


 成功して良かった。


 フローラの母親であるサラは微笑を浮かべ、フローラを見つめる。


 フローラは涙を流しながら、見つめ返す。


「フローラ……幸せにね」


 サラの言葉に胸が打たれる。


 子供の幸せを願うか……俺の母さんと同じだ。


「……うん……お母さん、ありがとう……」


 フローラも涙を浮かべて笑顔で応える。


 2人の会話は短かったが、満足していたように見えた。


 サラは上を見る。上には建物の天井しかなく、何もない。だが、自分の行き先がわかるのだろう。


 次第に俺の円柱状に発動された光輪の白い輝きが天井に向けて放たれ、粉雪のように散っていく。


 サラは段々と透明になり、霧のように霞んでいっている。


 それを黙って見送るフローラは涙を頬で濡らす。


「そこの貴方もありがとう」


 そして、サラは俺にも声をかけてくれた。その声音は優しく、俺に安心をもたらしてくれる。


 素直に笑顔で頷く。


 俺は妖精族を解放するために魔力を更に込め、光を強くする。


 妖精族全員が俺に会釈する──


 俺の行動が間違いでない事を肯定してくれたようで嬉しかった。


 彼女達もまた新しく生まれ変わり幸せになってほしい。俺が転生しているぐらいだ。きっと輪廻転生はあるんだろう。


「貴方達の来世に幸があらんことを……サラさん、フローラは俺が近くにいる限り守ります」


 サラさんから深く頭を下げられる。


 そして皆、霧のように消えていく────


 その粒子が俺とフローラに降りかかる。


 なんとも心地良い感じだ。


 フローラの肩がわずかに上下して、嗚咽おえつをこらえているのが分かった。


 先程のように取り乱してはいない。きっと久しぶりに会えて気が動転していたのだろう。強い子だと思う。


 俺が同じ立場ならどうしただろうか?


 アンデットになっても、側にいてほしいと思うんだろうか? 


 苦しむ母親を見たら逝かせてあげたいと思うのだろうか?

 

 これがアナ、アリス、ミアなら俺はどうするんだろう?


 やはり、側にいてほしいと願うのだろうか?


 わからない────


 今回、俺は第三者として行動を起こした。その行動は間違っていないとは思いたい。


 だが、フローラの気持ちは無視している。謝罪が必要だろう。


「フローラ、済まない」


 俺からは背中越しにしか見えていないが、ピクリと反応する。


「いいよ……」


 やはり、勝手に決めて行動した以上、思う所があるのだろう。


「俺にはこれしか出来なかった。フローラから責められても甘んじて受けるよ」


 フローラは俺に振り返る。その顔はいつものニヒルな感じではなく、優しい笑顔だった。


「お兄ちゃん……取り乱したりしてごめんね。私は別に恨んだりしてないよ。むしろお母さんを解放してくれて感謝してるんだよ? だから自分を責めないで」


「……そうか……ありがとう」


 今生の別れを経験して、そういう風に考えてくれる人は中々いないと思う。大体が、その場の感情に任せて爆発するだろう。


 俺の行動でフローラの手助けが出来たと思うと嬉しい。


「良い雰囲気の所、申し訳ありませんが……」


 ──っ!?


 不意に声をかけられた俺は臨戦態勢をとる。


「……びっくりさせないでほしいです……シーラさん……」


 その声の主の姿を視認してホッと溜息を吐く。


「中々入り辛かったんですよ」


「どうして、まだいるんですか?」


 そう、今目の前にいるのは妖精族の元族長シーラさんだった。


 てっきり、先程一緒に成仏したと思ったのだが……何故かまだいる。


「私は消える瞬間に恩恵の効果が切れたので、新しく使いました」


「はぁ!?」


 いや、何してんの!? 本当に何してんの!?


「まず、同族を解放してくれてありがとうございます」


「まぁ、お礼は受け取りますが……ちなみに何を願ったのですか??」


「ふふふっ、恩を返す為に……貴方が死ぬまでご一緒しますね」


 それって……取り憑く気満々じゃないか!?


「いや、成仏しましょうか!」


「そういえば、固有魔法を使われるのですね。中々想いの篭った魔法です」


 いや、流すなよ!


 それより、固有魔法について何か知ってるのか?


「想いとは?」


「固有魔法の使い手は昔から想いの強い人が多いのです。中々珍しいのですが、深層心理が具現化した魔法とでも言いましょうか? 想いや意志の強さによって威力も変わるのです」


 なるほど……フローラが先天性とか後天性とか言ってた意味がなんとなくわかる。


 通常の魔法より、鎖魔法を通して使っている方が効果が高いように感じるから、好き好んで鎖を使っていたからな。


「では、俺の鎖魔法はそういう意味合いが含まれているという事ですか?」


 鎖という言葉から連想できるのは────


『関係』

『繋がり』

『金属の輪』

『連結』

『連鎖』

『束縛』


 ざっと、思い付くのでこれぐらいだろう。


 俺の鎖魔法は先天性の可能性が高い。おそらく前世での経験がそうさせたのかもしれない。


 きっと、俺自身が幸せになりたかったという意志が具現化した魔法なのだろう。


「そうです。貴方は鎖魔法で何を願いますか?」


「俺は……母さんとも約束した……。鎖魔法で俺の周りの脅威を取り除き、幸せを掴みたい!」


「なるほど、幸せを願うが故の束縛する鎖ですか……では貴方はもっと強い意志を示しなさい。どんな困難が訪れても跳ね除ける力……それが貴方にとって力になるでしょう」


「わかりました」


 俺は今回のフローラのように、この魔法で周りを守って、笑顔にするために使いたい。そして皆と一緒に幸せになる!


 俺が再度決心を固めている間、沈黙する。フローラとハクマも俺を見守っている。


 しばらくするとシーラさんから声がかかる。


「まぁ、取り憑く云々や固有魔法の話は本題ではないのです。本当の所は助言をするために残ったのです」


 そうなの? 助言が必要な事がこの先待ち受けているという事だろうか?


 成仏しないのはそれだけ理由で残ってくれたのか?


 俺は微笑を浮かべるシーラさんを見つめる。


 この感じ────まだ何かあるな……大事な事を隠しているそんな感じだ。


「助言とは?」


「この先に待ち受けている場所が此処の最後の部屋になります……おそらく、その時に後悔する可能性が高いのです。なので、まずフローラと────して────────」


 聞く限り、この先に待ち受けている敵は相当性格が悪いんだろうな。つまり要約すると保険をかけておけという事だ。


 だが、此処で情報を得れたのは大きい。シーラさんの思惑がどこにあるのかわからないが……。



 俺はフローラとハクマを呼び、その準備を行う事にした。

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