第32話 試練の始まり

 フローラとハクマを呼び、念の為に準備をした後にシーラさんを見ようと振り向いたら既にいなかった。


 もう少し話を聞きたがったが、いないものは仕方ない。


「ハクマどうだ? いけそうか?」


『うん、行けると思う。本当にいいの?』


「かまわない。シーラさんの話が本当なら、それが1番生存率が高いからな」


「イヤッ! 絶対に一発殴るっ!」


「わかったから拳を振り回すのやめなさい。同族やお母さんの恨みもあるかもしれないが、これが1番生存率が高い方法だ。最悪従ってくれ」


 俺は死に難いからなんとかなるだろう。


 本当なら早くさせたい。


 憂鬱な気分で通路を歩く俺達。通路はお城か!? と言いたくなるような豪華な作りになっていた。


 しばらく、歩くと扉のある部屋に辿り着く。


【絶望へようこそ】


 と豪華な扉のど真ん中に書いてあった。成金紛いの趣味の悪い扉にこの言葉を見ると行くのが余計に嫌になるな。


「さて、行くしかないんだけど、シーラさん曰く……此処で選択を迫られる。覚悟は出来ているか? 他に何か方法があるなら聞くけど?」


「覚悟はないよっ! ぶっ飛ばす!!!」


 フローラさんや、それは提案ですらない……物理手段しかないのか!?


『僕は主を信じるよ。方法は話を聞く限り……どうしようもないよ。むしろ、さっきの言ってた事は今すぐした方がいいかも……嫌な予感しかしないよ』


 だよな。これから先に待ち受ける内容を聞いているが、俺達ではどうにもならないような気がする……。そもそも、かなり強い妖精族50人がまとめてやられるなんて事態が異常だ。


 通常の戦闘では勝ち目なんてないだろう。


「ハクマの言う通り、今のうちにした方がいい────」


「イヤッ!」


 間髪入れずに拒絶するフローラ。


 相当殴りたいんだろうな……気持ちはわからんでもないが。


「……はぁ……本当に最悪の場合は従ってくれよ。俺も嫌な予感しかしない」


 フローラには、さっき話した内容が気に入らないみたいで最後の手段でしか許可してくれない。


 出来ればのは回避したかったんだが……。


 チラッとフローラを見るが、やる気満々の目をして悪い顔になっていた。


 このまま3で行くしかないか……。


「仕方ない。もう一度だけ言っておくが、危なくなる前に絶対離脱しろ。俺が行動不能の場合はハクマがフローラを。最悪の場合はハクマだけでも離脱だ。わかったか?」


「おーーっ!」


『絶対、今離脱した方がいい……寒気しかしないよ』


 フローラは危機感がないのだろうか? ハクマの言ってる事は俺には十分わかる。俺も扉の前なのに冷や汗が止まらない。


「はぁ……ハクマ頼んだぞ? じゃあ、行くぞっ!」


 ギィィイ


 俺は溜息を吐いた後、扉を開ける。


「おーっ!!! 諸君ウェルカム!!! 久しぶりの客人だ! もてなそうじゃないかぁ! いや〜此処に一人でいると寂しくねぇ〜。少し話し相手になってくれると嬉しいなぁ〜」


 入った直後に、いきなり陽気に話しかけられた。


 見た目はそこらにいる平凡そうな10歳程度の男の子。話し方も軽い感じだが、俺達を見据え殺気を出している。


 油断出来る状態ではない。


 俺はアナから強烈な威圧を放たれていたからか、そこまで気にならないが、フローラはハクマの上でガタガタ震え、ハクマの顔はいつもみたいな緩い感じとは違い威嚇している。


 フローラの様子を見た俺は瞬時にダメだと判断し、予め決めていた予定を早める事にする。


 手に魔力を込めて、ハクマとフローラをする。


 予め、教えてもらったシーラさんの情報では召喚魔法による送還は使えると聞いた。


 ハクマにくっついていれば、ハクマの送還場所に行けると助言を受けた俺はフローラと召喚魔法を用いて契約した。


 出来れば部屋に入る前に送還したかったが、フローラが言う事を聞かなくて、危なくなったらと約束していたのだが────


 ────思っていた以上に危険だと判断した俺は、この会ったばかりのタイミングしかチャンスはないだろうと思い、発動する。


「へぇ〜、中々肝の座った子供が来たねぇ〜こんな状況でも動けるとはねぇ。何かしようとしてるみたいだけどさせないよぉ」


「ガハッ」


『うっ』


「きゃっ」


 気が付いたら俺達は入り口の反対側まで吹っ飛ばされていた。


 くそっ! 送還が出来なかったか。ハクマとフローラとも分断されてしまった。


「では、余計な事をされる前に、試練を開始する。此処まで来た君達に選択肢を与えよう。全員死ぬか、1人だけ生き残るかだ。君達はどの選択肢を選ぶかなぁ? ふふふっ」


 そして、笑いながら俺達に先程より、更に強い威圧を放たれる。


 甘かったか。やはり部屋に入る前にしておくべきだった。


 全員離脱は無理だな……。俺はハクマに視線をやる。


『信じてる。けど、最悪あの約束は守るよ』


 ありがとう。


 俺は頷き、笑顔を向ける。


 それと同時に光と共にハクマは霧散する。


 ハクマはちゃんと出れたようだ。


 俺はハクマにお願いをした。最悪此処から出れない時はアリス、ミア、アイリスを守ってほしいと。


 それでも俺を信じてくれているとハクマは言う。


 ならば、俺が生きている限り足掻こうじゃないか!


「ごめんなさい」


 震えながら泣きそうな顔で俺に謝罪するフローラ。既に相手との力の差を理解しているのだろう。


「気にするな。強く言えなかった俺も悪い。生き延びるぞっ!」


 まだだ。まだ絶望するには早いっ!


 母さんは俺に『幸せになって』と言った。


 前世でも幸せとは言えない人生を送った。


 なら俺は俺の信念を貫き幸せを掴み取る……。


 いやっ────幸せを捕縛してやるっ!


 シーラさん曰く、固有魔法は想いの力。


 俺の鎖にありったけの想いを乗せてやるっ!

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